30年以上も前に、発がんリスクがあるとして化粧品での使用が禁止されていた合成着色料「赤色3号」。それなのに、食品や飲み薬には使われ続けてきました。この矛盾が、ようやく解消されることになりました。
2025年1月15日、アメリカ食品医薬品局(FDA)は、赤色3号の食品や飲み薬での使用を禁止すると発表しました。この決定は、動物実験で赤色3号が発がん性と関連づけられたことを受けたもので、がんを引き起こす可能性のある添加物を禁止する「デラニー条項」に基づいています。この動きは、合成着色料への懸念が高まっていることを示しています。ただし、人間への具体的なリスクについては、いまだに議論が続いています。
今後、企業は代わりとなる材料を探すことになりますが、この禁止が私たちの食品や健康にどんな影響を与えるのか、ここで押さえておきたいポイントを紹介します。
1. 赤色3号とは? どこに使われているの?
赤色3号、別名エリスロシン(Erythrosine)は、食品や飲み物、薬に鮮やかなチェリーレッドの色をつけるための合成着色料です。でも、これだけではありません。実は、アーモンドやトルティーヤチップス、フルーツカップ、ビーフジャーキーといった意外な食品にも含まれています。それだけでなく、栄養補助食品や代替食事用シェイクのように、色があまり重要ではなさそうな製品にまで使われていることがあり、「本当に必要なの?」と疑問の声があがっています。
消費者向け製品の成分情報を公開する活動を行っている非営利団体「環境ワーキンググループ(Environmental Working Group、EWG)」によると、赤色3号は同団体のデータベースに登録されている製品のうち、少なくとも3023品目に含まれています。
今回の議論の中心は食品や薬への使用ですが、赤色3号はこれまでにサプリメント、化粧品、さらにはペットフードにも使われてきたことがわかっています。
2. 赤色3号がリスクとされる理由は?
赤色3号は、何十年も前から安全性について問題視されてきた着色料です。1980年代の研究で、この着色料を高用量で与えられた雄のラットに甲状腺がんが発生したことを確認しました。この結果を受けて、FDA(アメリカ食品医薬品局)は1990年までに化粧品や外用薬への使用を禁止しました。しかし、不思議なことに食品や飲み薬にはその後も使い続けられたのです。
がんのリスクだけでなく、赤色3号のような合成着色料は子供の行動や集中力に悪影響を与える可能性も指摘しています。一部の研究では、特に敏感な子供において、多動性が悪化する恐れが示されています。こうした懸念が、天然由来の着色料への注目を高めるきっかけになっています。とはいえ、これらの影響に関する科学的証拠はまだ完全に明らかにはなっていません。しかし、多くの人が食品添加物に対して不安を感じるようになったのは事実です。
3. 赤色3号が最近禁止された理由は?
今回の赤色3号の禁止は、2022年に「科学と公益センター(CSPI)」が提出した請願がきっかけです。この請願は、23の団体や科学者たちが支持し、食品にがんを引き起こす化学物質を含めることを禁止する「デラニー条項」を根拠にしていました。CSPIは、赤色3号は何十年も前から発がん性が指摘されていたにもかかわらず、なぜ今まで禁止されなかったのか疑問を投げかけていました。
「これって普通に考えたら、当たり前の判断だったはずです」と、CSPIの元コンサルタントで上級科学者のリサ・レファーツさんは語ります。「FDA(米食品医薬品局)自身が1990年の時点で『赤色3号はがんを引き起こす』と言っていたんですよ」それなのに、これまで何の行動も起こしませんでした。過去の研究を見直しても、以前の結論を覆すような証拠は見つからず、今回、対応の遅れを改めて強調した形です。
レファーツさんはまた、今回の禁止措置がバイデン政権の任期終了間近で行われたことに関連があるのではないかと指摘しています。「FDAは、この請願に対してずっと対応を先延ばしにしてきました」と彼女は語り、政権の終わりが近づく中で成果をアピールするために今回動いたと推測しています。
さらに、カリフォルニア州が2023年に制定した「食品安全法」も、FDAにプレッシャーを与えたと考えられます。ニューヨーク大学の准教授、ジェニファー・ポメランツさんは「2023年10月に成立したカリフォルニア州の法律は、4つの成分の使用を禁止しました。この法律がFDAに再検討を促したのだと思います。最初に臭素化植物油(BVO)を見直し、続いて赤色3号が対象になりました」と説明しています。
また、消費者の意識の高まりも大きな要因です。例えば、ドキュメンタリー映画『To Dye For』の製作者たちが運営するFacebookグループ「Dye-Free Family」には、すでに70万人近いメンバーが参加しています。このグループでは、「アメリカ製品にはたくさんの人工着色料が含まれている」という警告がシェアされており、赤色3号はその一例に過ぎないと強調しています。
4. 赤色3号に関する規制、アメリカと他国ではどう違う?
赤色3号や他の合成着色料についての規制は、アメリカと他の国々でかなり違います。
多くの国では、食品添加物に対してもっと厳しい姿勢を取っています。例えば、ヨーロッパでは「予防原則」という考え方に基づき、明確な証拠が出るのを待たずに有害とされる化学物質を排除しています。この方針のもと、赤色3号はほとんどの食品で禁止しています。また、日本やノルウェーでも赤色3号のような合成着色料は禁止か、厳しく制限しています。
それに対してアメリカでは、食品添加物は「害がはっきり証明されない限り使っても良い」という方針です。この柔軟な姿勢について、ニューヨーク大学のジェニファー・ポメランツ准教授は「食品業界に好き勝手させすぎている」と指摘しています。
5. 赤色3号が完全に禁止されるまで、どうやって避ける?
FDAの禁止措置では、企業が食品から赤色3号を取り除く期限を2027年1月、経口薬では2028年1月としています。しかし、それまでの間は、私たち自身が気をつけて避ける必要があります。
まず、商品パッケージの成分表示をよく確認しましょう。「FD&C Red No. 3」や「エリスロシン(erythrosine)」と書かれているものが赤色3号です。ラベルのチェックが、赤色3号を避ける一番簡単な方法です。
最近では、健康志向のブランドが赤色3号の代わりに、ビーツの果汁、ターメリック(ウコン)、パプリカエキスなどの天然由来の材料を使い始めています。こうしたブランドの商品を選ぶのもおすすめです。
また、「着色料不使用」や「天然色素使用」といった表記がある商品を選ぶと安心です。さらに、環境ワーキンググループ(EWG)が提供するオンラインデータベースを使えば、どの製品に合成添加物が入っているのか簡単に調べられます。
FDAの禁止措置が施行されれば、食品の安全性が今より良くなるはずですが、移行には時間がかかります。それまでは、自分で情報を集めたり、ラベルを確認したりして、赤色3号を避けるように心がけましょう。
6. 他にどんな合成着色料が食品に使われているの?
赤色3号が禁止されたのは前進ですが、アメリカでは今も赤色40号、黄色5号、青色1号などの合成着色料がたくさんの食品に使われています。
特に赤色40号はアメリカで最もよく使われている着色料のひとつで、使用が認められていますが、動物実験では健康への悪影響を指摘しています。
専門家の間では、天然由来や添加物を減らした製品への需要が高まる中で、FDAがこれらの着色料を再評価する必要があるという声が出ています。「少なくとも、他の国で禁止されている成分については再検討するべきです」と、ニューヨーク大学のジェニファー・ポメランツ准教授は指摘しています。
2024年12月のアメリカ上院公聴会では、FDAの食品プログラム副長官ジム・ジョーンズ氏が「赤色40号についてFDAが最後に検討したのは10年以上前」と明かしました。これに対して議員たちは「他国では禁止されている着色料が、なぜアメリカではまだ使われているのか」と疑問を投げかけました。
ジョーンズ氏は「アメリカとヨーロッパの大きな違いは、ヨーロッパでは20年以上も前から化学物質の市場後レビュー(販売後の安全性チェック)をやっています。一方でFDAには市場後レビューを行う権限はあるものの、義務付けられていません」と説明しました。ただし、今後FDAも市場後の安全性チェックを計画していると述べています。
現時点では、赤色40号や他の着色料はまだ使用が認められているため、消費者自身が製品ラベルをチェックして判断する必要があります。それでも、「着色料不使用」や「天然由来の色素使用」といった商品が増えたり、合成着色料をめぐる議論が活発になったりしているため、状況は少しずつ変わりつつあります。
リサ・レファーツ氏は今回のFDAの決定を「重要な進展」と評価しつつも、「対応が遅すぎる」と批判しました。「FDAはもっと早く行動するべきです。私たちの食品には、まだたくさんの有害な化学物質が含まれています」と警鐘を鳴らしています。
7. この禁止措置は食品価格に影響を与えるのか?
すでに食品価格が高い中で、FDAによる赤色3号の禁止は、メーカーが商品を再開発することで価格に影響を与えます。合成着色料を天然の代替品に置き換えるには、原料の調達や加工の難しさからコストが増えることが考えられます。また、新しい配合が品質や見た目の基準を満たすためには、研究開発費が増える可能性もあります。
これらの追加コストは、特に鮮やかな色が求められるキャンディーやスナックのような商品では、消費者が負担する形で価格に反映されるかもしれません。ただし、すでに多くのブランドが消費者の「天然着色料を使った製品が欲しい」という声に応えて、天然色素への切り替えを進めています。このため、値上がりは一時的なものにとどまると予測します。
一方で、長い目で見ると、この変更が医療費の削減につながる可能性もあると指摘されています。例えば、カリフォルニア州で行われた分析では、合成着色料の使用を減らすことで、将来的に健康に関する費用を抑える効果があるとされています。
「実は、赤色3号をすでに禁止しているEU向けに、赤色3号を使わないバージョンの商品を作っている企業も多いのです」と、環境ワーキンググループ(EWG)のメラニー・ベネッシュさんはエポックタイムズの取材に答えました。「これらの企業は、アメリカ向けの製品を他国向けのバージョンに切り替えるだけで対応できる」と説明しています。
(翻訳編集 華山律)
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