多くのエレベーターには鏡が設置されており、乗る際に身だしなみを整えたり装いを確認したりできます。しかし、専門のエレベーターメーカーによると、実はエレベーター内の鏡にはもっと重要な用途があるといいます。
イギリスのエレベーターメーカー「Gartec Lifts」は、エレベーター内に鏡を設置する理由を3つ、公式サイトで紹介しています。
安全性の向上
エレベーター内に鏡を設置することは、安全性と深く関係しています。例えば、エレベーターに乗っている間、鏡越しに他の乗客の動きを確認できます。これは、盗難を見つけたり攻撃的な行動を察知したりするのに役立ちます。
日本はエレベーターに鏡を設置した最初の国と考えられており、その背景には利便性と安全性の両方がありました。エレベーターの広さには限りがあるため、車いす利用者が中で十分に方向転換することは難しい場合があります。しかし鏡があれば、後ろ向きのまま安全に出入りでき、方向転換をしなくても済むため、事故防止につながります。これにより、移動に不便を抱える人々も安心してエレベーターを利用できるようになります。
閉所恐怖症の緩和
多くの人はエレベーターの中で閉所恐怖を感じることがあります。狭い空間や空気の薄さ、内部構造が見えないことなどが閉塞感を強め、手に汗をかいたり心拍が上がったりすることもあります。
エレベーターに鏡を設置すると、この不安を和らげる助けになります。鏡は空間を広く見せるため、閉塞感や圧迫感を軽減し、閉じ込められているような感覚を和らげてくれます。
また、多くの人にとって、床が見える透明ガラスよりも鏡のほうが安心感があるとされています。透明ガラスの場合、新たにめまいを引き起こす恐れがあるためです。
注意をそらす効果
エレベーターの中では退屈を感じやすいものですが、鏡は注意をそらす良い役割を果たします。鏡があることで、人々はエレベーターで時間を無駄にしていると感じにくくなります。髪型を整えたり、周囲の人を観察したり、鏡がなければ床ばかり見つめてしまうかもしれません。鏡によって注意がそらされることで、エレベーター内での時間が短く感じられます。

アメリカ・コロンビア大学の心理学副教授で、『Mirror Meditation(鏡の瞑想)』の著者であるタラ・ウェル氏も、以前に雑誌『サイコロジー・トゥディ』でエレベーター内に鏡が設置されている理由に言及しています。
ウェル氏は、エレベーターは狭く、滑車で動く高速移動する金属の箱であり、多くの場合は見知らぬ人々と一緒に乗ることになると述べています。これは人間の自然な感覚に反するようにも思えますが、人々は毎日エレベーターを利用しています。
ほとんどのエレベーターに鏡が設置されているのは偶然ではありません。あなたが意識していなくても、鏡は標準的なデザイン要素として取り入れられ、エレベーターに乗る際の心理的ストレスに対処する多くの役割を持っています。
ウェル氏が挙げた3つの主要な機能は「Gartec Lifts」社の説明と一致しますが、彼女はさらに心理学の視点から、閉ざされたエレベーター内で不安を感じ心拍が上がるようなときには鏡を見ると良いと述べています。鏡は空間を広く見せ、狭さや圧迫感をやわらげ、閉所恐怖を軽減し、不安を緩和する助けになります。
ウェル氏はまた『Mirror Meditation』の中で、鏡を使って不安をやわらげ、自己受容を高め、自信を育む方法を数多く紹介していると述べています。これは、エレベーターで鏡を見ることの別の利点とも言えるかもしれません。

エレベーターの歴史
「History.com」の報告によると、紀元前236年、ギリシャの数学者アルキメデスが原始的な昇降装置を発明しました。これは巻き上げドラムに巻いたロープを、人力でウインチを回して動かすものでした。この原始的な「エレベーター」はローマのコロッセオで使われ、地下から剣闘士や大型の動物を垂直に地上へ運び、戦闘に参加させるために利用されていました。
1743年には、フランス国王ルイ15世が「空飛ぶ椅子」と呼ばれる装置を建造させ、愛人の一人がヴェルサイユ宮殿の3階の寝室へ移動できるようにしました。
19世紀中頃には、蒸気や水力で動くエレベーターが市場に登場しましたが、依存していた鋼索が摩耗したり切断されたりしやすく、乗客を運ぶ手段としては十分に信頼できるものではありませんでした。
しかし1852年、アメリカの実業家で発明家のエリシャ・グレーブス・オーチスが、吊り上げロープが切れた場合でもエレベーターが落下しない安全装置を発明しました。
1857年には、オーチスによる最初の商用旅客エレベーターがニューヨーク市の5階建て百貨店に設置され、世界の都市のスカイラインを大きく変え、超高層ビルの誕生を可能にしました。また、それまで価値が高かった低層階よりも、上層階の価値が高まるという変化をもたらしました。
オーチスは1853年にオーチス・エレベーター・カンパニーを設立し、彼はエレベーターの発明者として知られています。
(翻訳編集 解問)
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