コレステロールと認知症の意外な関係

予備的な研究によると、コレステロール値が安定している人は、認知症や認知機能低下のリスクが大幅に低いことが分かりました。一方、薬の変更がないにもかかわらずコレステロール値が変動する場合、これらのリスクが高まる可能性があることが示されています。

研究者によれば、コレステロール値の変動が動脈硬化性プラークを不安定にし、脳への血流を減少させる可能性があります。この状態が認知症リスクの増加につながると考えられています。

「高齢者において、脂質低下薬を使用しているか否かに関わらず、コレステロール値が大きく変動する場合――特に年ごとに変動が顕著な場合――には、慎重なモニタリングと予防的な介入が重要です」と、オーストラリアのモナシュ大学公衆衛生予防医学部の疫学博士、ジェン・ジョウ氏は述べています。

コレステロール値を安定させるためには、以下のようなライフスタイルの改善が役立ちます:

バランスの取れた食事: 飽和脂肪酸やトランス脂肪酸を減らし、食物繊維やオメガ3脂肪酸を豊富に含む食品を摂取する。

適度な運動: 週に数回、ウォーキングや軽い筋力トレーニングを取り入れる。

ストレス管理: ストレスを軽減するためのリラクゼーションや瞑想を実践する。

禁煙と節酒: 喫煙を避け、アルコールの摂取量を控える。

コレステロール値の変動で認知症リスクが60%増加

2024年11月16~18日に開催されたアメリカ心臓協会の科学セッションで発表された予備研究では、コレステロール値の変動が認知症リスクの増加と関連していることが示されました。この研究は、アメリカとオーストラリアの70代の成人約1万人を対象に、6年間の追跡調査を行ったものです。調査では、低用量アスピリンが心疾患リスクを低減する効果を評価するための臨床試験データとその後のデータを活用して関連性を分析しました。

総コレステロール値の大きな変動: 認知症リスクが60%増加し、認知機能の低下リスクが23%増加。

HDL(善玉コレステロール)や中性脂肪の変動: 認知症や認知機能低下との関連は見られず。中性脂肪は体内で余分なエネルギーを蓄える役割を持つ脂肪の一種です。

LDL(悪玉コレステロール)や総コレステロールの変動: 認知機能テストでのスコア低下、反応速度や記憶テストでの著しい低下と関連。

研究者は、この調査において脂質低下薬を開始または中止した人を含めていないため、結果は一般的なコレステロール低下薬であるスタチンとは無関係であることを強調しています。

ジェン・ジョウ氏は、「今後の研究で因果関係が確認されれば、コレステロール変動を抑えることが認知症予防の新たな治療目標となる可能性があります」と述べています。また、「今回の結果は、ライフスタイル改善や脂質低下薬によるコレステロール管理が脳の健康に悪影響を及ぼすという意味ではありません」とも強調しています。

 

専門家の見解

『エッポックタイムズ』は、今回の研究について2人の心臓専門医に意見を聞きました。その結果、心臓病学の分野でも意見が分かれていることが明らかになりました。

おおむね同意の立場

心臓専門医でオステオパシー医(自然治癒力を充分に活かして、身体が本来持っている機能性を取り戻し、健康に導く医学)のジャック・ウルフソン医師は、コレステロール値の変動が認知症リスクの増加と関連しているという研究結果に概ね同意しています。ただし、重要な点で異論を唱えています。それは、研究者たちが主張する「脂質低下薬が認知症リスクに影響を及ぼさない」という見解についてです。

「多くのデータはそうではないと示唆しており、私はスタチン薬(血中のコレステロール値を下げる薬)が認知症や他の脳疾患を引き起こすと考えています」と彼は述べました。
ウルフソン医師はその根拠として、『The Journal of Nuclear Medicine』に掲載された研究を引用。この研究では、軽度の認知機能障害を持つ人において、ベースラインのコレステロール値が低~中程度の場合、脂溶性スタチンの使用が認知症リスクを2倍にすることが示されています。一方で、水溶性スタチンではそのようなリスクは見られませんでした。脂溶性スタチンは脂質に溶けやすい特性を持ち、水溶性スタチンとは異なる影響を及ぼす可能性があります。

強く反対する立場

一方、心血管予防の専門家でBaleDoneen法の共同創設者であるブラッドリー・ベイル医師は、今回の研究結果に強く反対しています。ベイル医師は、『エッポックタイムズ』にメールで、「研究の方法論に重大な欠陥がある」と述べています。

「研究では、3年間にわたって年に1回コレステロールを測定し、その後6年間認知症の発症を追跡しましたが、コレステロール値の追跡は継続していません」と指摘しました。また、コレステロール値は睡眠、食事、運動によって常に変動するため、これを考慮しない点にも疑問を呈しています。

さらに、ベイル医師は、血清コレステロール値が脳内コレステロール値を反映していないことを強調しました。脳は独自にコレステロールを生成するため、血清値を基に脳の状態を評価するのは誤りだとしています。

「3年間で測定した3回の『スナップショット』的なデータを用いて、次の6年間の認知症リスクと関連付けるのは無理があると思います」と述べ、「この研究の結論にはほとんど価値がないと考えています」と付け加えました。

 

研究結果の可能な説明

今回の結果が将来の研究で裏付けられた場合、いくつかの原因が考えられます。

血流の減少または遮断

「コレステロール値の大きな変動が、動脈硬化性プラーク(主にLDLコレステロールで構成)の不安定化を引き起こす可能性があります」と、研究者のジェン・ジョウ氏は『エッポックタイムズ』のメール取材で述べています。この不安定化により、プラークが成長したり破裂したりするリスクが高まり、結果として脳への血流が遮断される可能性があります。

ジョウ氏は、この仮説を支持する以前の研究を引用しました。『Circulation』誌に掲載された研究では、スタチン治療と無関係な高いLDL変動が、血流の減少と認知機能低下に関連していることが示されています。

脳卒中リスクと認知症

カリフォルニア州サンタモニカのプロビデンス・セントジョンズ・ヘルスセンターで神経内科医を務めるクリフォード・セギル医師は、コレステロール値と脳卒中、認知症の関連性を指摘しています。

「コレステロール値は、血栓による脳卒中を含む心血管疾患のリスク因子です」と、セギル医師は述べています。さらに、認知症の一種である血管性認知症(多発梗塞性認知症)は、小さな脳卒中が繰り返し発生することによって引き起こされると説明しました。

ジョウ氏は、コレステロール値の変動が血管内皮細胞の機能障害、炎症、酸化ストレスの増加を引き起こす可能性があると指摘しています。これらの影響は、認知症発症のプロセスの基礎となる病理的な要因だと考えられています。

 

最適なコレステロール値とは

コレステロールの管理では、医師は主に動脈プラークの形成や血流の遮断を引き起こすLDLコレステロールを下げ、動脈からコレステロールを除去する役割を持つHDLコレステロールを増やすことを目標としています。

アメリカ疾病予防管理センター(CDC)によると、理想的なコレステロール値は以下の通りです:

総コレステロール: 約150 mg/dL

LDLコレステロール: 約100 mg/dL

HDLコレステロール:男性: 最低40 mg/dL

          女性: 最低50 mg/dL

中性脂肪: 150 mg/dL未満

ジョウ氏は、「ほとんどの人にとって、LDLコレステロールを低く保ち、HDLコレステロールを高く保つことが心血管疾患リスクの低下に関連しています」と述べています。

 

コレステロールを安定させる方法

心臓専門医のウルフソン医師は、コレステロールを安定させるためのアドバイスとして「健康的に食べ、生活し、考えること」を挙げ、「これを『100年心臓メソッド』と呼んでいます」と語っています。彼は、高コレステロールのリスク要因に取り組むことが認知症予防にもつながるとしています。

CDCが推奨する改善方法

  • 飽和脂肪やトランス脂肪を控える:脂身の多い肉やパーム油を避ける。
  • 塩分や添加糖を控えた食品を選ぶ
  • 不飽和脂肪や食物繊維を積極的に摂る:アボカド、オリーブオイル、豆類、オートミールが有効。
  • 健康的な食事を心がける:LDL値の管理に役立つ。
  • 定期的な運動を行う:運動習慣はコレステロール値を安定させる助けになる。
  • 適正体重を維持する:過剰な体重はLDL値を上昇させる可能性があるため、体重管理が重要。
  • アルコール摂取を制限する:男性は1日最大2杯、女性は1日最大1杯まで。
  • 喫煙を避ける:喫煙はコレステロール値に悪影響を及ぼすため、禁煙が推奨される。

(翻訳編集 華山律)

Mary West
フリーランスライター。ルイジアナ大学モンロー校で2つの理学士号を取得。