【書評の「本」懐】『愛すべき名歌たち』阿久悠著(その二)

【大紀元日本3月11日】戦後という時代の手触り

高峰三枝子さんが歌った『湖畔の宿』(1940)のレコードを、17歳で海軍に志願した兄が神戸で買ってきます。兄の出征後どういう訳か引っ張り出して、阿久悠さんはこのレコードをよく聴きました。お兄さんは19歳で戦死します。兄が唯一遺してくれたレコードを、戦争が終わった押入れの中で布団をかぶって聴きました。

こっそり隠れるように聴かざるを得なかったのです。何不自由なく音楽を聴くという体験が、歌謡体験の最初に置かれてはいませんでした。そうではなかった原初体験が、阿久悠さんの作詞家としての出立に大いに影響を及ぼしています。

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