夜に明るい光を浴びたり、昼間に十分な光を浴びなかったりすることが、健康に悪影響を及ぼす可能性があるとする研究結果が発表されました。この研究は、米国科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載されたもので、夜に強い光を浴びると死亡リスクが最大34%増加する可能性がある一方、昼間に適切な明るさの光を浴びると死亡リスクが最大34%減少することが示されています。
光のタイミングや量が不適切だと、体内時計(概日リズム)が乱れることで、心臓病や糖尿病、精神的な問題、肥満などの健康リスクが高まり、最終的に寿命にも影響を与える可能性があるとされています。
オーストラリアのフリンダース大学の睡眠専門家、ショーン・ケイン教授は次のように述べています。「光が健康に与える影響について新たな知見が得られました。これは、私たちの日々の光の浴び方がいかに重要であるかを改めて示すものです」
光の浴び方が健康を左右する
この研究では、心臓や血管の健康に関連する肥満、高血圧、不健康なコレステロール値、高血糖といったリスク要因が死亡率にどのように影響を与えるかも調査されました。
約8万9千人の参加者が装着した光センサーで記録された1週間分、合計1300万時間以上のデータを分析。そのデータを約8年間にわたる国民健康保険の死亡記録と照合し、さらにモーションデータから睡眠時間や睡眠効率も推定しました。
その結果、光を浴びる時間帯が体内時計に与える影響が明らかになりました。体内時計(概日リズム)は、睡眠やホルモン分泌、消化、体温調節などの24時間周期の身体機能に深く関わっています。
日中に明るい光を多く浴びた人は、死亡率が17〜34%低下していました。この効果は光を浴びる「量」に依存しており、多くの光を浴びるほどリスクが低下する傾向が見られました。一方で、夜間に明るい光を浴びた人は、死亡率が21〜34%増加しており、こちらも光の「量」による影響が大きいことが分かりました。このリスク増加は心血管疾患だけでなく、がんや神経変性疾患など、他の死因にも関連していました。
研究者たちは、「夜間の光曝露を最小限に抑え、日中の光曝露を増やすことで、体内時計を整えることが健康維持や寿命の延長につながる可能性がある」と結論付けています。
乱れる体内時計(概日リズム)
この研究では、健康への影響を考える上で、体内時計である概日リズムの重要性が強調されています。概日リズムは、脳内にある「マスタークロック(主時計)」と呼ばれる部分が調整しており、概日時計遺伝子と連携して身体の働きを管理しています。しかし、就寝前に強い光を浴びるなどして概日リズムが乱れると、健康リスクが高まるとされています。
過去の研究では、概日リズムの乱れが肥満や糖尿病、さらに心疾患や代謝異常が重なる「メタボリックシンドローム」の発症リスクを高めることが指摘されています。一方で、日中に明るい光を浴びることで概日リズムが整い、その結果として死亡リスクが低下する可能性が示されています。さらに、整った概日リズムは、リズムの乱れによる健康への悪影響を軽減する効果もあると考えられています。
また、過去の研究では、睡眠の問題が死亡リスクの増加と関連していることも分かっています。ただし、今回の研究によると、夜間の光を浴びることで死亡リスクが増加するのは、単に睡眠不足が原因ではありません。概日リズムへの影響が、睡眠の質に関係なく死亡リスクを予測する重要な要因であることが明らかになりました。
研究結果を裏付ける証拠
今回の研究結果を支える証拠として、夜型の生活を送る人々や交代勤務者を対象とした過去の研究が挙げられます。
夜型の人(night owl・ナイトオウル)
夜型の生活スタイルと死亡リスクの関係を調査した研究が、Chronobiology International に掲載されています。この研究では、英国のバイオバンクデータを用いて、38~73歳の成人43万3268人を対象に平均6.5年間の追跡調査を実施しました。
その結果、夜型の人々は全体的な死亡リスクが高いことが分かりました。このリスク増加は、体内時計(概日リズム)の乱れが関係している可能性が示唆されています。夜型の生活とは、主に夕方や夜に活動し、遅い時間に就寝する傾向がある人々のライフスタイルを指します。
交代勤務者
交代勤務と死亡リスクの関係については、American Journal of Preventive Medicine に掲載された研究が参考になります。この研究では、Nurses’ Health Study に登録されている7万4862人の看護師を対象に調査が行われました。
その結果、夜勤を経験したことのない女性と比べて、5年以上のローテーション交代勤務を行った女性では心疾患や全体的な死亡リスクがわずかに増加していました。また、15年以上の交代勤務を経験した女性では、肺がんによる死亡リスクもわずかに高くなる傾向が確認されました。
米国疾病予防管理センター(CDC)は、交代勤務が体内時計を乱すことが健康リスクの一因であると指摘しています。
光の浴び方のコツ
Recharge Healthの共同創設者であり、FlexBeamの開発者でもあるビョルン・エケバーグ氏が、光の利用に関する実践的なアドバイスをエポックタイムズに提供しました。
1. 朝の太陽光を浴びる
朝早い時間に15~30分ほど太陽光を浴びることで、体内時計(概日リズム)が整い、健康全般に良い影響を与えます。
2. 日光を十分に浴びられない場合
日中に赤色光や近赤外線を活用する「赤色光療法」を10分程度行うのがおすすめです。この方法は、太陽光に含まれるこれらの波長を再現し、特に日中の早い時間帯に行うと効果的です。また、青色光を含まないため、睡眠にも影響を与えません。
3. 夜間の人工光を減らす
夕方以降、特に就寝前の1~2時間は人工光を控えましょう。テレビやスマートフォンなどから発せられる青色光は、目や脳を刺激し、睡眠ホルモン「メラトニン」の分泌を妨げる可能性があります。
4. 夜の天井照明に注意
天井からのLEDライトは不自然な波長を含み、体に強い影響を与える可能性があるため、夜間の使用は避けた方が良いとされています。
5. 寝る前の照明の工夫
画面やランプなどの光を控えめにし、天井の強いライトを避けることでリラックスしやすくなります。暖色系の照明を使うと、寝る準備がスムーズになるでしょう。
屋外の光と室内の光の違い
「人間も植物と同じように太陽光からエネルギーを得ています。太陽光は私たちにとって必要不可欠なものです」と、Recharge Healthのビョルン・エケバーグ氏は語ります。
太陽光は、皮膚を通じてエネルギーを体内に取り入れ、体内時計(概日リズム)を整える働きがあります。また、睡眠と覚醒のリズムを調整する重要な役割を果たしています。太陽光は、紫外線、可視光(青、緑、赤など)、赤外線など、全スペクトルの光を含む豊かなエネルギー源です。特に赤色光や近赤外線は健康に良い影響を与えることで知られています。
一方で、室内照明、特にLEDライトは可視光のみに限定され、青色光が多く含まれています。この青色光は、夜間に浴びると概日リズムを乱す原因になる可能性があります。エケバーグ氏は次のように述べています。
「室内照明は物を見やすくするために設計されていますが、自然の太陽光を代替することはできません。太陽光は体に良い影響を与えますが、過剰な室内照明は健康に悪影響を及ぼすこともあります」
屋外の太陽光と室内の人工光は、その成分や効果が大きく異なり、特に健康への影響においては注意が必要です。
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