(前稿より続く)
うつ病や抑うつ症状の原因について先述しましたが、その治療は、漢方医院ではどのように行なわれるのでしょうか。
根本治療を目指す漢方医学
漢方医院では漢方薬(生薬)と鍼灸が、主な治療手段です。
腎臓を補う生薬には熟地黄(ジュクジオウ)や附子(ブス)があります。
また、肝臓を調整する生薬には柴胡(サイコ)や川穹(センキュウ)があり、肝臓機能を補う生薬には当帰(トウキ)があります。
これらの生薬は、いずれも弱った肝臓を改善し、腎臓を補うことができます。
漢方医は、患者の脈象(みゃくしょう)から各人の体質を判断し、どの生薬をどの程度使うかを決めます。
西洋医と比較して、漢方医によるうつ病治療の優れた点を挙げると、以下の通りです。
治療効果が良く、改善が速い。病気の再発率が低い。薬の副作用がない。睡眠障害や虚弱体質も改善される。もう二度と自殺を考えることなく、学校や職場に復帰できる、などです。
これに対し、西洋医学によるうつ病の治療は、主に薬剤で症状を抑制するだけで、肝臓や腎臓の機能を回復させるところまでは、全く考えが及びません。
漢方で処方された薬は通常、2~3カ月で症状が改善したら、もう飲む必要はありません。しかし、西洋医学の薬は、毎日その効果がゼロにリセットされるので、症状が続く限り、薬をずっと飲み続けなければならないことになります。
患者自身の自覚も大切
ある日、朱恩立氏の漢方診療所に、台湾でも有名な高校に在学する女子生徒が、うつ病により学校に通うことができなくなり、来院しました。
2~3カ月間にわたり漢方による治療を受けた結果、女子生徒はおおむね回復し、学校に戻って勉強したり、大学進学の能力テストを受けることができるようになりました。
一般的に漢方医が要する治療期間は3カ月程度ですが、うつ病の症状が軽い場合は1カ月ほどで良くなります。
ただし、症状の程度のほかに、患者自身が治療に協力する姿勢によって治療期間は長くも短くもなります。あいかわらず夜更かしを続け、食事も不規則である一部の患者は、治療に要する時間が長くなるのです。
ある有名大学の男子学生がいました。彼が来院したときは、すでに病状がかなり深刻になっていました。両目は虚ろで気力がなく、いつも自殺を考えるまでになっていたのです。
院長の朱恩立氏は、彼に適合する漢方薬を処方しただけでなく、自ら生活改善をするよう十分に説得し、励ましたのです。しかし、患者である彼は、はじめ朱氏の指導する療養に全く協力的ではありませんでした。
それでも朱氏は粘り強く、やや長い時間をかけて治療したところ、彼の病状が少し好転しました。そこで、ようやく患者本人も治療の意味を悟り、積極的に協力するようになりました。その後、彼のうつ症状はかなり改善されて、ひとまず自殺の危険は回避されたのです。
うつ病に関して言えば、西洋医が対処療法であるのに対して、漢方医は病気の根本から治療します。後者の場合、通常は再発しませんが、病状が悪化している場合は再発あるいは発作的な行動もないとは言えません。
周囲の人が異変に気づいたら、早急な再診を促すことが推奨されます。
きちんと「食べて、寝る」が大原則
うつ病を予防し、抑うつ症状を避けるには、どうすれば良いでしょうか。
その秘訣はたった1つ。これは、あまりにも平凡ですが絶大な効果があります。
つまり「食べるべき時にきちんと食べる。寝るべき時にきちんと寝る」です。
朱恩立氏は、そう直言した上で、「このことは最も効果的かつ基本的な原則ですが、実は、最も無視されていることなのです」と指摘します。
現代社会は、台湾も日本も、うつ病の発生率が高く、なかには自殺に至るような悲しいケースも少なくありません。
うつ病にはならなくても、多くの人は悩みを抱え、憂鬱な気分になることが多いものです。そんな重い気分を和らげる、良い方法はないでしょうか。
お腹が空いていると、体の気(エネルギー)が不足するので、食事はきちんととるようにします。多すぎず、少なすぎず、適量で栄養バランスの良い食事を、それぞれの時間に合わせて食べます。夜食は、睡眠の妨げになるので控えてください。
夜更かしは、やめましょう。
夜更かしをすると、肝気が不足します。肝胆経(肝臓と胆嚢の経絡)は午後11時から午前3時まで運行しており、これは睡眠の黄金時間です。スマホ相手に夜更かしして、この時間に睡眠をとらないと、自身の肝胆経に重大な損傷を与えることになるのです。
「不摂生によって体から抜けた気(エネルギー)は、何か食べて取り戻せるものではありません」と朱恩立氏も強調します。
栄養学的には、「1本飲めば、一時的に気分が良くなる栄養剤」もあります。
しかし、うつ病の根本的治療および予防には、正常な生活習慣へ戻すことが最も重要なことなのです。
以上が、うつ病で「あなたを自殺させない」ための、漢方医学からの提言です。
(翻訳編集・鳥飼聡)
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