ガンジス川はインドの人々にとって「聖なる川」である。そこは人が生きている時は心身を清める場所であり、死後は安寧を得る場所、というのがインド人の認識だ。
近年、ガンジス川の汚染がかなり深刻になっている。インドにはガンジスの川岸で死者を火葬し、その灰を川に流すという伝統があるが、子どもや妊婦、事故死、疫病死の場合は火葬すらされず、そのまま水葬される。そういった慣習に加え、単に溺死する人や、「聖なる川」に身を投げて解脱を求める自殺者も数多くいる。また、川岸に建つ膨大な数の家庭や工場からは、下水やプラスチック、産業廃棄物などが排出され続け、ガンジス川は2007年に「世界で最も汚染された河川」の一つになってしまった。
しかし、これほど汚染されているにも関わらず、心身を癒し、清めるために、時に数千万人に及ぶ巡礼者が沐浴し、川の水を飲んでいる。常識で考えればここまで汚れた水を飲めば直ちに病気になり、大規模な集団感染を引き起こしてもおかしくない。だが意外なことに、ガンジス川の水を飲んでも病気になる人はあまりおらず、それどころか逆に、病気が良くなる人もいるという。
科学者はこの現象を解明するため、ガンジス川の水を採取して検査を行った。すると、見た目にはかなり汚れているのに、水に含まれる微量元素の量と病原菌の数は、人体に危害を与えるほどの数値ではないことが分かった。更に科学者たちは、消化器感染症の大流行を引き起こすコレラ菌をサンプルの水中に入れ、観察した。すると驚くことに、コレラ菌は注入後間もなく死滅したのである。その後さまざまな角度から研究が行われたが、水に何故このような滅菌作用があるのか、原因はついに解明されなかった。
一方で、ガンジス川で泳いだ日本人観光客の中には急性腸炎を起こす人もいるので、やはり旅行者は注意したほうがよい。
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