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潤す水の選び方

飲めば飲むほど喉が渇く? 中医学が明かす“偽の水分補給”の真実

7月の日本は猛暑が続きます。地下鉄、オフィス、ショッピングモールなど、どこでもペットボトルの水を手にして頻繁に水を飲む人を多く見かけます。しかし、いくら飲んでも喉の渇きが収まらず、体がだるく感じるという声も少なくありません。

中には「毎日2〜3Lの水を飲んでいるのに、体はまるで砂漠のように乾いていて、めまいや動悸まである」と訴える人もいます。

実は、水の量が足りないのではなく、「飲み方」が間違っているのかもしれません。

飲んだ水は、ちゃんと吸収されていますか?

中医学では、「水は人を潤すが、気血によって運ばれなければならない」と言われています。

つまり、水は脾胃によって消化・吸収され、気血の力で全身に運ばれてこそ、体が本当に利用できる「津液(体液)」になるのです。もし脾胃が弱っていたり、気血が不足していたり、汗をかきすぎたりしていると、それはまるでエネルギーの切れた水車のように、水を飲んでもうまく回らず、働けなくなります。その結果、水はすぐに尿として排出され、場合によってはさらに体力を奪ってしまうのです。水が胃に入っても血液の中の水分として変化できなければ、水分補給にならず、当然喉の渇きも治まりません。

中医学では「汗は心の液であり、血の変化したもの」とされており、だからこそ汗は塩辛いのです。汗をかきすぎると「心」や「血」にも負担がかかります。そのため、喉の渇き、疲労感、めまい、頭痛などを感じる場合、それは単なる水分不足ではなく、「血虚津液の枯渇」によるものかもしれません。

この状態で水を無理にがぶ飲みする、特に冷たい水を飲むと、かえって脾胃をさらに弱らせ、体の吸収力がより低下してしまいます。

喉の渇きを癒すには、ただ水を大量に飲むのではなく、体が「吸収できて」「保持できる」状態を整えることが大切なのです。
 

水分は「陰陽の調和」が必要

中医学では、ペットボトルの水や冷たい水のように、食物由来の栄養を含まない「ただの清水」は「陽水(ようすい)」とされています。こうした水分は体内にすばやく入りますが、同じようにすぐに排出されてしまい、多くの場合、身体が吸収する前に尿として出てしまいます。特に冷たい水は、脾胃(消化器官)を冷やし、吸収力をさらに低下させてしまいます。

一方で、お粥、スープ、穀物茶のように、食べ物を通して摂る水分には「大地の栄養」が含まれており、「陰陽の調和が取れた水」とされています。こうした水分は温かくて柔らかく、脾胃と相性が良い「五行の土性」にも調和し、体にゆっくりと吸収されて「津液(体液)」に変わり、真に身体を潤すことができます。

たとえるなら、白湯を飲むのは、水道のホースで砂地に水をかけているようなもので、水はすぐに流れてしまいます。一方、お粥やスープ、穀物茶を摂るのは、しとしと降る雨がゆっくりと地面に染み込み、根っこまで潤すようなイメージです。

そのため、白湯ではなかなか喉の渇きが癒えないのに、熱々の小米粥(きびがゆ)や、温かい玄米茶、黒豆茶などを飲むと、心までしっとりと潤い、身体が満たされたように感じることがあります。
 

現代科学も中医学の知恵を裏付けている

運動中にスポーツドリンクが白湯よりも効果的であるという話を聞いたことがある方も多いでしょう。それは、スポーツドリンクに適度なナトリウムやカリウム、ブドウ糖などが含まれているためです。これらは「電解質」や「キャリア(運び手)」として働き、水分が腸壁を通過し、血液中にすばやく吸収されるのを助けます。

この原理こそが、中医学が古くから説いてきた「水は穀気(食の栄養)や塩気を伴ってこそ血に入れる」という教えそのものです。

水は単独で体内に浸透するのではなく、適切な栄養の「道案内」があって初めて、気血となって五臓を潤すことができるのです。

つまり、スポーツドリンクが効果的なのは、現代的で「洋風」だからではなく、実は中医学の原則をしっかり踏まえているからなのです。水に「通行手形」を添えることで、身体の奥深くまで行き渡らせることができるのです。
 

本当に「身体を養う水分」は、食べ物の中にある

お粥は、最も身体を養う効果的な水分

一碗のきび粥、山芋入りのお粥、雑穀粥、あるいはシンプルな白米と梅干しのお粥でも、脾胃を整え、気血を補い、津液(体液)も養うことができます。冷たいものを食べるとすぐにお腹を壊す人や、慢性的に疲れやすい人にとっては、冷たい水よりも温かいお粥の方がずっと効果的です。

シンプルな白米のお粥(Shutterstock)

 

スープは、最も優しく潤す水分

夏は汗をかきやすく、口が渇いて喉も乾燥しがちです。そんなときは、蓮根、人参、豆腐、玉ねぎなどを加えた優しい味わいのスープがおすすめです。冷たすぎず、熱すぎず、失われた津液や元気を補うのに最適です。

栄養豊富な豚汁(Shutterstock)

 

穀物茶は、最も身近で親しみやすい水分

玄米茶、麦茶、黒豆茶などは、喉の渇きを癒し、暑さや湿気を取り除くだけでなく、脾胃を調整し、体が水分を吸収しやすくしてくれます。冷たい緑茶やコーヒーよりも、これらの穀物茶こそが“日常の水分補給ドクター”と言えるでしょう。

縁側で飲む麦茶(Shutterstock)

 

果物は、清熱解暑の水分

ドラゴンフルーツ、トマト、スイカ、ブドウなどの赤系果物には、ペクチンやカリウム、天然の糖分が豊富に含まれており、喉の渇きを癒し、心を養い、体内の熱を下げる効果があります。ただし、体が冷えやすい人や脾胃が弱い人は、冷やした果物は避け、常温で食べるようにすると胃腸を傷めません。

スイカなどの赤系果物には体内の熱を下げる効果があります(Shutterstock)

 

夏の一日、こう過ごせば潤いが違う

朝起きたら、まずはコップ一杯の白湯で身体を目覚めさせましょう。

朝食には、小米や山芋、ナツメなどを加えたお粥を。水分補給と気血の補充が同時に叶います。

昼食では、豆腐やナス、青菜をたっぷり使ったスープ料理を選びましょう。

午後は、ぬるめの麦茶を一杯。冷たいコーヒー10杯よりも身体にやさしく効きます。

夕食はあっさりと、塩分と香辛料を控えめに。寝る前の水分は控えめにして、自然な体の調節に任せましょう。

こうした食習慣に切り替えると、体がむくみにくくなり、喉の渇きやだるさも和らぎ、全体的にしっとりと潤いのある、元気な身体へと変化していきます。
 

結びに

中医学では「たくさん飲むこと」ではなく、「脾胃を整え、気血を養い、食べ物から水分を取り入れる」ことを重視します。水は“流し込む”のではなく、“養う”ものなのです。

今日から、ぜひ一碗のお粥、一口のスープ、一杯のお茶で、自分の身体をやさしく労わってみてください。真夏の中でも、まるで春のような温かさと潤いを感じられるようになるでしょう。

ただし注意したいのは、緑茶はたしかに熱を冷まし、暑気を取る効果はありますが、空腹時にたくさん飲むと脾胃を傷めることがあります。緑茶のようなお茶類は、特に濃いものは、食後に適量を楽しむのがよく、喉の渇きを癒すための飲料とは異なります。

一方、麦茶は見た目には地味ですが、実は最も身体を養う飲み物。いつでも飲めて、脾胃を傷めず、非常に穏やかで暑気払いには効果的な夏の飲み物です。最高のものとは、しばしば目立たず、静かに人を潤してくれる存在なのです。

(翻訳編集 華山律)

白玉煕
文化面担当の編集者。中国の古典的な医療や漢方に深い見識があり、『黄帝内経』や『傷寒論』、『神農本草経』などの古文書を研究している。人体は小さな宇宙であるという中国古来の理論に基づき、漢方の奥深さをわかりやすく伝えている。