人は誰でも、加齢とともに筋肉が落ち、骨の強度が失われていくものです。
しかし、だからこそ、年齢に相応した運動を継続的に行い、可能な限り筋力を維持していくことが老化防止と健康維持に重要になってきます。
「失われた筋力の回復」は可能
仮に、大病や重大事故で長期間病臥し、ほとんど筋肉が落ちてしまった高齢者であったとしても、まずは自分の気持ちを立て直し、適切な運動を続けることによって、失われた筋力を回復させることは可能です。
さらには、その運動のなかに喜びを見つけることで、以前よりも健康で活動的な体を得ることもできるのです。
今年66歳の陳蓉花さんは、子供の頃から心臓が弱く、息切れがしやすい体質でした。
中年を過ぎてから、陳蓉花さんは糖尿病になり、手術で人工の心臓弁をつけました。体調不良が続いたことで、重度のうつ病にもなりました。
それから約1年間は、いつも補助装具をつけて、床に臥す時間が非常に多くなってしまったのです。
その間、ほとんど運動することがなかったため、体の筋肉がすっかり落ちてしまいました。
息子からの切なる願い
陳さんの息子であるダニエルさんは、フィットネスジムの経営者で、専門のインストラクターです。
ダニエルさんは、実は9年前から「僕のジムヘ来てください。適切な運動をすれば、お母さんは、もっと健康になれますよ」と話し、なんとか母親が体力を回復するよう説得してきました。しかし陳さんは、どうしても息子の願いに応じませんでした。
「運動して筋肉を鍛えるのは若い人がやることで、自分のような年寄りがするものではない」。陳さんは、本当にそう思っていたのです。
2021年3月のことです。ベッドに寝ていた陳さんを、突然、激しい呼吸困難が襲いました。
ダニエルさんが、苦しむ母親を急いで病院へ連れていったところ即刻入院。
心臓と肺が機能不全を起こしていたため、すぐに集中治療室へ入れられました。気道に挿管されたまま身動きもとれず、20日近くを過ごすことになります。
「私はとても辛い」
それは長く苦しい日々でした。陳蓉花さんは、挿管で話すこともできないため、毎日ベッドに横たわって病室の天井を見ていました。家族との筆談ノートに、やっと動かせる手で「私はとても辛い」と書いています。
担当の医師は、ダニエルさんに「陳蓉花さんの肺の感染症が、全く好転していない」と告げました。医師の重い言葉を受けて、ダニエルさんは「後のこと」を覚悟しなければならないことを知りました。まさに、生命の危機に瀕していたのです。
その後、さいわい陳さんの病状は少し良くなって、一般病棟へ移ることができました。
ダニエルさんは、ベッドの母親の顔を見つめ、涙を浮かべながらこう言いました。
「お母さん。僕に後悔させないでください。僕はお母さんを助けることができるのです!」
陳蓉花さんは、息子の必死の訴えについに心を動かしました。すっかり失った体力と筋肉を取り戻すため、少しずつ運動を始めることを約束したのです。
ダニエルさんは、母親の個室の病室に軽量のダンベルや筋力ベルトなどの運動器具を持ち込みました。それから、母親の体力に合わせて初歩から筋トレができるよう、つきっきりで指導しました。
はじめは週に1~2回の軽い運動です。それでも3週間ほど続けると、体に良い変化が見られるようになりました。
運動に「喜び」を見出す
思いのほか早く体力が回復してきたため、医師は陳さんの退院を許可しました。
親子2人で病院を後にするとき、お世話になった病院のスタッフに感謝するとともに、病棟を振り向いて「もう二度と、ここには戻って来ないわ」と誓いました。
退院したその日の午後。荷物を家に置くと、なんと陳さんは杖をついて息子のジムに行き、もうトレーニングを始めたのです。運動することの喜びを知ったからでした。
それから約1年、ダニエルさんは母親に、ピラティス・メソッドやコアトレーニング(体幹の筋トレ)、ゆるやかなストレッチなどを指導してきました。
トレーニングの強度は、無理なく、かと言って弱すぎず、痛みを感じない程度の強さを維持します。筋力アップを実感するには、ある程度の負荷もかけなければなりません。
1年間の努力を経て、陳蓉花さんは、歩行するにも杖を必要とせず、自分で買い物に出かけるなど、日常生活には全く支障がなくなりました。
フィットネス競技会に出場する!
入院中には5~6キロ分の筋肉が落ちていましたが、現在はすっかり回復しています。
血糖値も安定しています。心肺機能も正常で、喘息や呼吸困難も再発していません。うつ病など、どこかへ消えてしまいました。
今年66歳の陳蓉花さんは、体重46 kg。
現時点でのスコアは、ベンチプレス22 kg、スクワット50 kg、デッドリフト70 kgです。
なんと陳さんは、今年7月に開催される、台湾でも著名なフィットネス競技会への出場を目指して、現在準備中だそうです。
(次稿へ続く)
(文・蘇冠米/翻訳編集・鳥飼聡)
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