糠という字を、日本語で「ぬか」と発音するそうです。
収穫した米から籾(もみ)を除去したものが玄米で、その玄米を搗いて白米にする過程で出る不要物が「ぬか」です。日本語の「ぬか」の語源は、「脱皮(ぬけかわ)」から転じたものだそうです。
「ぬか」に含まれる豊富な栄養
一方、漢字の「糠」をよく見ると米偏に「康」。つまり、米穀のもつ健康的な栄養素がこの糠に凝縮されていることが、文字からも分かるのです。
日本には、この糠を発酵させて野菜を漬ける「ぬか漬け」があります。ぬか漬けは、日本人の伝統的な飲食の中で、最も健康的な食物の一つとされています。
これは日本人の糠に対する正しい認識と、それを現代でも有効利用していることの証でもあります。そのため今日では、台湾の「食養生」を実践する人々も、日本式の「ぬか漬け」を食事療法や常備菜として用いるようになっています。
「米」という字をご覧ください。
それは宇宙の万物を説明する八卦のようなものであり、中央の十字は完璧を表し、それに四方が加わって、全体としては8つの方位を示しています。
米という字が表す概念は、宇宙の生命に関する全ての情報を含む、言わば「小宇宙」なのです。また、それ自体は植物の種ですので、1粒のなかに無限の生命力を宿しています。
大切な部分を削った「現代人の主食」
ただし今日の米は、もはや本来の米ではなく、大切な部分が削り落とされた白い米、つまり「粕(かす)」になっています。そのため、白米ばかりを食べる現代人は、なかなか本当の健康を得られず、活力や気力も湧いてこなくなってしまったのです。
白米に対して、玄米のもつ栄養と効能は、非常に優れています。
栄養について言えば、玄米は白米に比べてビタミンB1が12倍、ビタミンEが10倍、セルロースが14倍、カルシウムが1.7倍、鉄分が2.75倍含まれています。しかも玄米のタンパク質のアミノ酸構成はほぼ完全で、人体にとって消化吸収しやすいものとなっています。
現代栄養学の研究によると、玄米のもつ米ぬかと胚芽部分に含まれるビタミンB群とビタミンEは、人間の免疫機能を向上させ、血液循環を促進するとともに、精神的なストレスを軽減し、体に活力を与えることができるのです。
そのほか、玄米に含まれるカリウム、マグネシウム、亜鉛、鉄、マンガンなどの微量元素は、心臓血管関係の疾病と貧血の予防に効果があります。
「食物繊維」が血糖コントロールに有効
さらに大量の食物繊維を含む玄米は、腸内善玉菌の増殖を促進し、大腸の蠕動を促すとともに、便を軟らかくして通じを良くします。これは、便秘の改善はもちろん、腸内に発生する各種のがんの予防にもつながります。
この食物繊維はまた、胆汁のコレステロールと結合して血中コレステロールの排出を促進するため、高脂血症患者の血中脂質を低下させる作用を発揮します。
玄米を日常的に食べることは、肥満の人および糖尿病患者に特に有益です。
玄米の炭水化物は太い繊維で覆われているため、消化吸収が遅く、血糖値のゆるやかなコントロールに優れています。同じく、玄米に含まれる亜鉛、クロム、マンガン、バナジウムなどの微量元素は、インスリン感受性を高めることに役立ちますので、耐糖能障害者(糖尿病予備群の人)の食事療法に非常に役に立つのです。
日本の研究によると、玄米飯の血糖指数は白米飯よりはるかに低く、同量を食べたとしても、玄米飯のほうが満腹感が長く続きます。
健康であれば「美しくなる」
また日本の他の研究によると、発芽玄米には不思議な「美容効果」があることが分かりました。
玄米をわずかに発芽させた「発芽玄米」には、抗酸化作用のあるフィチン酸やフェルラ酸などが豊富に含まれています。それらは、しみの原因となるメラニン色素の生成を抑制しますので、肌を美しく保つとともに、新陳代謝を促進し、動脈硬化、内臓機能障害、がんを予防します。
このように、小さな玄米の一粒に、驚くほど包括的な栄養と効能が込められていることは、まさに「神の恵み」と言えるでしょう。
玄米食は「一物全体」の養生法に合致する
韓国における伝統的な漢方医療とは異なり、明治維新後の日本では、漢方医学の陰陽五行の養生理論を日常的な飲食の研究と実践にかなり偏重し、これを応用してきました。
つまり日本では、西洋医学と西洋栄養学を融合させ、今日の栄養学や食事療法の理論を形成してきたのです。それは、漢方医学が提唱してきた伝統的理論とは全く別の体系として、進められてきました。
こうした現代科学からの栄養研究は、各種の食品の中に含有される栄養素に注視することでしたが、この方法はまた、漢方医学の伝統的な養生観である「医食同源」に対して、現代人が信じられる確かな証拠を提供したとも言えるのです。
今日、陰陽調和の伝統的な養生法の有効性は、現代科学によっても実証されました。
今の日本は、漢方医学の治療手法としては、台湾や中国のそれに及ばないかもしれません。しかし、日本民族は非常に聡明に、漢方医学の最も基本的な原理、すなわち生命の成立と健康の大義である陰陽調和を、日常の飲食のなかに応用してきたのです。
言い換えれば、日本人は儒家の「中庸」の二字を借りて「陰陽平衡の養生法」を定義したことになります。ただし、時にそれを忘れて白米偏重になると、たちまち脚気などの病気に襲われることも、日本人は経験として学びました。
「丸ごと食べる」で健康を得る
伝統的な日本食に見られる「一物全体」の食養観は、この陰陽バランス理論の現れです。
それは例えば「丸ごと食べる」こと。具体的に言うと「玄米ご飯」や、米ぬかを有効利用した「ぬか漬け」が、まさにそれに該当します。
このような理論は本来、庶民が難解な医学書を勉強しなくても、簡単に実践することができたのです。
例えば「季節に合った新鮮な野菜や玄米を食べる」。つまり、その時季の生命力の強い食物を、できるだけ丸ごと食べることによって体の陰陽バランスが保たれ、健康になるということなのです。
昔の人々は、科学的な栄養成分など全く知りませんでしたが、食物の陰陽バランスをとり、それらを「丸ごと食べる」ことで必ず健康を得られると信じていました。
現代の医学や栄養学の研究は、昔からの知恵を追認しているにすぎません。
(文・白玉熙/翻訳編集・鳥飼聡)
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