写真を撮る前に「チーズ」と言うのはなぜ?

人々は写真を撮るとき、多くの場合笑顔を見せます。カメラを通して美しい瞬間や思い出を残したいと考えるからです。そのため、欧米では写真を撮る前に「cheese(チーズ)」と言うことがよくあります。こうすることで自然な笑顔を作ることができます。日本語圏では「はい、チーズ」という掛け声が一般的ですが、中国語圏では「茄子(チェズ/ナス)」という言葉が同じ役割を果たしています。では、この「チーズ」という掛け声はどのように生まれたのでしょうか。

米誌『リーダーズ・ダイジェスト』によると、写真を撮る際にカメラやスマートフォンを持った人から「cheese」と言うよう求められることがよくあります。カメラに向かって自然な笑顔を引き出すためです。

この表現が初めて登場したのは1940年代のことです。アメリカ・テキサス州の新聞『ビッグ・スプリング・ヘラルド』は1943年の記事でこの表現に言及しています。

同じ年、『オックスフォード英語辞典』はアメリカの外交官ジョセフ・E・デイヴィス氏の言葉を引用し、彼が写真撮影の際に発見した秘訣を紹介しました。それは「cheese」と言うだけで自然と笑顔になれるというものでした。

「cheese」という言葉がなぜ使われるようになったのかを正確に知る人はいません。しかし、デイヴィスのように、この言葉自体が人を自然に微笑ませると考える人は少なくありません。「ch」の発音では歯を軽くかみ合わせ、「ee」の長い母音では唇が横に広がるため、結果として自然な笑顔に近い表情になるのです。

アメリカの知識・雑学サイト「Mental Floss」によると、「cheese」と言う習慣は英語圏だけのものではありません。世界各地の写真家たちは、それぞれ独自の言葉やフレーズを使って被写体の笑顔を引き出しています。

例えば、スウェーデンでは「omelet(オムレツ)」、フランスでは「marmoset(マーモセット/小型のサル)」、ドイツでは「cheesecake(チーズケーキ)」や「spaghetti(スパゲッティ)」と言わせることがあります。

ロシア語圏では「raisins(レーズン)」、韓国では「kimchi(キムチ)」、デンマークでは「orange(オレンジ)」、ブルガリアでは「cabbage(キャベツ)」と言います。そしておそらく最もユニークなのはフィンランドで、淡水魚の一種「vendace(ヨーロッパシロマス)」の名前を口にします。

これらの言葉は一見すると無作為で、写真とは何の関係もなく、時には奇妙にさえ思えます。しかしだからこそ写真家たちはこれらの言葉を使うのです。被写体が思わず笑ってしまい、最も自然で明るい笑顔を引き出せるからです。

これらの言葉の多くには「cheese」と同じような「ee」の音が含まれています。「spaghetti」や「kimchi」の語尾がその例で、口角を上げて笑顔を作るのに役立ちます。
 

なぜ昔の写真に笑顔が少ないのか

米誌『リーダーズ・ダイジェスト』によると、現在では写真を撮る際に笑顔を見せるのが一般的ですが、19世紀には事情が異なっていました。当時、写真で笑顔を見せるのは子ども・農民・酔っ払いくらいで、それ以外の人々は無表情でした。その方が魅力的で威厳があると考えられていたのです。

もちろん、それだけが理由ではありません。当時の写真撮影には数時間、場合によっては数日かかることもありました。それだけの時間、笑顔を保つのは難しかったでしょう。また、当時の人々は口腔衛生をあまり重視しておらず、欠けた歯や傷んだ歯を見せたくなかったのです。

さらに、写真撮影は非常に高価でした。一般の人が生涯に撮れる写真が1〜2枚程度だったことも珍しくありません。そのため写真撮影は人生の大きな出来事であり、人々はきちんとした身なりで真面目な表情をしていたのです。

こうした真面目な写真が撮られる理由が何であれ、その流れは長くは続きませんでした。コダック社は1900年に、1ドル(2022年の貨幣価値では約35ドル)で購入できる「ブラウニー」カメラを発売し、写真の歴史を大きく変えました。これにより、写真撮影は専門家や富裕層だけのものではなくなったのです。

さらに、ハリウッド映画産業の発展によって日常の一瞬を記録する機会が増えました。その結果、写真で笑顔を見せることが当たり前となり、「cheese」という掛け声も広く普及していったのです。

昔の人々が写真で笑わなかったことはよく知られていますが、現代でも笑顔を見せてはいけない写真があります。パスポート写真です。

多くの国では、パスポート写真で笑顔を避けることが共通の原則となっています。歯を見せて笑うと、入国審査官が本人確認を行う際に識別しにくくなるからです。現在では多くの出入国管理機関が顔認識技術を利用しているため、この点はさらに重要です。笑顔で顔の特徴点が変化すると、顔認識システムでも正確な識別が難しくなるからです。

(翻訳編集 井田千景)

陳俊村