5月31日、中国共産党は子どもを3人まで持てる「三人っ子政策」を発表。最近の国内調査で、人口最多国である中国の出生率が急激に低下していることが背景にある。(AFP/AFP via Getty Images)

中国都市部で高騰する「子どもの養育費」 若者には、人口増加政策に逆行する空気も

5月31日、中国共産党政権は、子どもを3人まで持つことを認める「三胎政策」、いわゆる「三人っ子政策」を発表した。

当初から民衆の反感を買った「三人っ子政策」

1979年から2014年まで、中国全土で人口抑制政策である「一人っ子政策」が実施されてきた。同政策の実施に当たっては、「違反者」に対して高額の罰金や免職などのペナルティを科す、さらには不妊手術(主に女性が対象)の強要や、第二子を妊娠した女性に対して強制的に人工中絶を行うなど、当局による強硬かつ非人道的な実態があったことは否定できない。

また、中国では伝統的に男子を望む思想があるため、生まれる前に性別が分かって堕胎されたり、生まれた女児がまびかれるなどして、人口の男女不均衡という深刻な社会問題を今日に残している。

しかし近年、中国の出生率が急激に低下していることを背景に、2016年より第二子を認める「二人っ子政策」が始まる。ここで中共は35年間続けた政策の大転換を図ったことになるが、それでも出生率の低下に歯止めがかからず、ついに今年5月31日発表の「三人っ子政策」に至ることになる。

いずれにしても、中共当局による、あまりに唐突かつ無機的な政策転換であった。

多くの中国国民は、「3人の子をもてる喜び」よりも、今までに払わされてきた対価や犠牲の大きさを思い出した。政府に対して「いまさら何だ」「まずは、過去に払わされた罰金を返せ」などの不満が湧き上がり、政府系メディアの読者コメント欄も炎上した。

発表した途端に、中国国民の大きな怒りと反感を買った「三人っ子政策」であり、そのことからしても、中共当局が企図するような、出生率の上昇にはほど遠い。その根底には、国内人口をあたかも家畜の生産調整をするように無慈悲に管理しようとする中国共産党への、中国人民の怒りがあることは間違いない。

「まるで天井知らず」中国都市部で高騰する子育て費用

一方、中国の、特に都市部においては「子ども一人でさえ、養育するのは莫大な金がかかる」という実情がある。そのため、若い夫婦が複数の子をもつことに、始めから躊躇するという現実的な側面もある。

中国共産党が「三人っ子政策」を発表したことは、各界の注目を集めた。発表の翌日である6月1日、ロイター通信は、中国の大都市で子どもを養育する費用を試算している。                                                                                                                                                                                                                                                                                   

それによると、例えば出産費用なら、出産前の診察や出産を含む公立病院での出産費用は通常、中国の医療保険から支払われる。ところが、実際の公立病院は、医療資源が逼迫しているのが常であるため、受けられる医療サービスが十分とは言えない。

そのため、多くの出産予定の女性が、医療保健の適用されない私立の病院や診療所へ転院する。そうした民間の医療施設では、出産にかかる費用が10万元(約170万円)を超える場合もあるという。

また、比較的裕福な家庭では、出産後に「月嫂」という専門のベビーシッターを雇うことが多い。出産直後の母親と新生児のケアには、中国の伝統的な考え方にもとづく各種の様式にも精通した、経験と知識の豊かなベビーシッターが特に求められる。こうしたレベルの高い「月嫂」にかかる人件費は、最初のひと月だけでも約1万5千元(約26万円)になる。

在宅でベビーシッターを雇用する以外に、経済的に余裕のある「新しい母親」は、高度で専門的な看護や行き届いたサービスが受けられる「入居型の産後ケア施設」に入る。北京の中心部、王府井にあるこのような施設では、月額費用は15万元から35万元(約600万円)になる。

同じく裕福な家庭での例だが、乳児に与える粉ミルクは(もちろん中国製ミルクではなく)オーストラリアやニュージーランドからの輸入もの。子どもに、幼少のうちから英才教育を付与したいと考える親の第一歩は、教育条件が整った地区に、一戸建てやマンションを購入することである。

このため、北京市の文教地区と言われる海淀区では、すでに住宅の平均価格が1㎡あたり9万元(約153万円)を超えている。これは、ニューヨークのマンハッタンにある中級住宅の価格に相当するという。

こうした事から始まって、中国では、親になってからの人生のほとんどの支出が、子どもへの莫大な投資になることを覚悟しなければならない。裕福な家ならば、子どものために、ピアノやテニス、チェスなど、どんなに金のかかる習い事もさせてやるだろう。

上海社会科学院が2019年に出した報告によると、上海市静安区の一般家庭では、一人の子どもが生まれてから中学を卒業する15歳までにかかった養育費の総額は84万元(約1430万円)だが、そのうちの51万元が教育費であったという。また同報告は、年収5万元以下の低所得家庭では、収入の70%以上が子どもの養育に使われているとしている。

こうした高騰する養育費や教育費の実態が、過剰な親の期待となって「一人っ子」の肩に重くのしかかっている現状も伺われる。その圧力は、子どもにしてみれば「将来に、老いた親を扶養する苦労の前触れ」と言えるかもしれない。

「子どもを持たない選択」をする若い世代

そのような中国の子育てをめぐる現状の中で、多くの若者が子どもを持つことに対して、消極的になっていることは否めない。いくら中国共産党が「三人っ子政策」を唐突に出してきても、子どもがたくさん生まれて、人口が増えるような社会環境では全くないことは明白である。

現在、子孫繁栄を至上のものとする中国人の伝統的価値観に反してまでも、「子どもを持たない選択」をする若い世代が確実に増えている。

その背景には、中国が近い将来確実に迎える「超高齢化社会」の担い手を何としても確保したいという国策の重要性を、彼らが理解しないからではなく、その建て前の裏に隠された「中共の本音」つまり「鎌で刈り取るニラは多いほど良い」という、中国人民を家畜同然に見ている中国共産党の本音を、すでに見抜いてしまったことがある。

2021年、中国のソーシャルメディアにおける若者の視点を、よく表現した新しい流行語は「躺平(寝ころがる)」である。

それは、中国の若者が国内の抑圧された現状に失望し、社会の期待に沿って無理に生きるよりも、「寝ころがる」姿勢を選んだことを指す。

具体的には「家も買わない、車も買わない、結婚もしない、子も産まない、消費もしない」として「最低限の生存条件は確保するが、他人の金儲けのロボットになることも拒否し、搾取される奴隷になることも拒否する」を、若者が宣言したことになる。

中国共産党の李克強首相は2020年5月、全国人民代表大会閉幕後の記者会見で、異例のことながら「6億人が毎月1000元の収入しかない」と公言した。中国の最新の国勢調査結果によると総人口は「14億1000万人」だという。

中国当局が公表する数字の信憑性に疑問は残るが、中国が人口減の急坂をころげ落ちていることは間違いない。

(翻訳編集・鳥飼聡)

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