【紀元曙光】2020年9月4日
原稿を書きながら、スメタナの交響詩『我が祖国』の第2曲「モルダウ」を聴いている。
▼自分でもっていたレコード盤の頃から、数えきれないほどの回数を聴いた曲だが、今ほど感慨深く聴いたことはない。スメタナ(1824~1884)。チェコの作曲家であるが、彼が生まれたとき、その祖国は、ハプスブルグ家によるオーストリア帝国の支配下にあった。60歳で死去したときは、オーストリア=ハンガリー帝国の一部であった。
▼作曲家の祖国は、その生涯にわたって失われていた。モルダウは川の名前で、チェコ西部の森を水源とし、首都プラハの市街をすばらしい風景にして流れるヴルタヴァ川をいう。
スメタナが長編の交響詩に込めたものは、祖国チェコへの限りない愛であった。
▼そして現代のチェコ。台湾を訪問したチェコ上院議会のビストルチル議長は1日、台湾の国会にあたる台北市の立法院で45分間にわたる演説を行った。それは中国の圧力に屈しない台湾への支持を表明するもので、中国語での発言「私は台湾人だ」の後には、院内が総立ちの大喝采となった。
▼現時点で、チェコと中華民國(台湾)との間に国交関係はない。それだけに、国交がない国の主要政治家が台湾で演説したことの意義は、むしろ大きい。旧ソ連という共産邪霊の総本山が背後にそびえる時代に、自由と民主主義を希求した硬骨が、チェコにはある。
▼北京は、怒り狂っているだろうが、それでよい。ところで、日本の次期リーダーとなられる方に問う。勇気あらば、ビストルチル議長に続いて、台湾を親善訪問なされよ。如何か。
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