GettyImages

【子どもに聞かせたい昔話】ウサギの知恵

昔々、森の中にゾウたちが暮らしていました。近くの池で、ゾウたちは水を飲んだり水浴びを楽しんだりしていました。

ある年、日照りがつづき、池がカラカラに干上がってしまいました。

ゾウたちは困りはてて、ゾウの王様に言いました。「王様、のどが渇いて死にそうです! どこかに水はありませんか?」

そこで王様は、ゾウの群れを少し離れた湖に連れていきました。そこにはきれいな水がたくさんありました。

しかし、ゾウが湖におしよせて来るたびに、 ウサギが何匹も踏みつぶされてしまうので、ウサギたちは「このままではみんな殺されてしまう」と心配するようになりました。

するとウサギの長老は「案ずるな。わしがゾウを追い払う手立てを考えるから待っておれ」と言って、ひとり散歩に出かけました。

長老は「はて、どうしたらよいものだろう。ゾウの群れに近づくのは危ないしなあ。よし、丘の上にいれば安全だ。そこから話をしてみよう」と考え、丘に登りました。

「王様、おいらは月の神からつかわされて来ました」ウサギの長老はゾウの王様に言いました。

「月の神がわしになんの用だ?」ゾウの王様は言いました。

「ちょっと、おいらには言いにくいのですが、月の神から伝言がありまして『お前たちゾウはウサギを追いやり踏み殺したな。ウサギたちはわたしの住む湖を守ってくれているのだ。すぐにここから立ち去らなければ、お前たちがどうなるかわからないぞ』とのことです」

ウサギの長老がこう言うと、ゾウの王様は恐ろしくなって言いました。「それは悪いことをした。なにも知らなかったのだ。どうか許してほしい。もう二度とここには来ないと約束する。」

ウサギの長老は「そういうことなら安心してお帰りください。ただその前に、湖にいらっしゃる月の神にあいさつでもされたらどうですか。とてもお怒りのようですよ」と言いました。

その夜、ウサギの長老はゾウの王様を湖に連れてきました。湖に映った月の影がゆらゆらと動いています。

月の神が怒りで震えているかのように見えたので、ゾウの王様はあわててお辞儀しました。

そこに長老が機転をきかせて言いました。「月の神様、ゾウの王は間違いをおかしましたが、深く反省しておるようです。どうかおいらに免じて許してやってください」

ゾウの群れが湖に現れることはもう二度とありませんでした。その後、ウサギたちは幸せに暮らしたということです。

力の弱い者が知恵をはたらかせて自分の住みかを守ったというお話でした。

(Ancient Tales of Wisdomより)

(翻訳編集・緒川)

関連記事
曹植が兄・曹丕の試練に詩で答える物語。家族間の争いと深い悲しみを豆と豆殻で表現した心に響く詩。兄弟の絆と知恵に思いを馳せる一篇です。
チューインガム1枚で数百〜数千のマイクロプラスチックが唾液中に放出される──UCLAなどの最新研究が示した、意外な“日常的曝露”の実態とは。
人に悪く言われても、怒らず、謙虚に接した翟方進。 相手の敵意を消し、関係を円満にしたこの逸話は、『漢書』に記された2000年前の人間関係の知恵です。 一歩引く勇気が、道を開きます。
東京の春を切り取った18枚の静止画を通して、春の希望と喜び、そして前向きに生きる活力を感じて頂けたら幸いです。
ローゼルは抗酸化成分が豊富で、血圧・血糖・脂質を下げ、がんやアルツハイマーの予防にも効果が期待されます。美容やダイエットにも有効で、薬食同源の代表食材として注目されています。