昔々、森の中にゾウたちが暮らしていました。近くの池で、ゾウたちは水を飲んだり水浴びを楽しんだりしていました。
ある年、日照りがつづき、池がカラカラに干上がってしまいました。
ゾウたちは困りはてて、ゾウの王様に言いました。「王様、のどが渇いて死にそうです! どこかに水はありませんか?」
そこで王様は、ゾウの群れを少し離れた湖に連れていきました。そこにはきれいな水がたくさんありました。
しかし、ゾウが湖におしよせて来るたびに、 ウサギが何匹も踏みつぶされてしまうので、ウサギたちは「このままではみんな殺されてしまう」と心配するようになりました。
するとウサギの長老は「案ずるな。わしがゾウを追い払う手立てを考えるから待っておれ」と言って、ひとり散歩に出かけました。
長老は「はて、どうしたらよいものだろう。ゾウの群れに近づくのは危ないしなあ。よし、丘の上にいれば安全だ。そこから話をしてみよう」と考え、丘に登りました。
「王様、おいらは月の神からつかわされて来ました」ウサギの長老はゾウの王様に言いました。
「月の神がわしになんの用だ?」ゾウの王様は言いました。
「ちょっと、おいらには言いにくいのですが、月の神から伝言がありまして『お前たちゾウはウサギを追いやり踏み殺したな。ウサギたちはわたしの住む湖を守ってくれているのだ。すぐにここから立ち去らなければ、お前たちがどうなるかわからないぞ』とのことです」
ウサギの長老がこう言うと、ゾウの王様は恐ろしくなって言いました。「それは悪いことをした。なにも知らなかったのだ。どうか許してほしい。もう二度とここには来ないと約束する。」
ウサギの長老は「そういうことなら安心してお帰りください。ただその前に、湖にいらっしゃる月の神にあいさつでもされたらどうですか。とてもお怒りのようですよ」と言いました。
その夜、ウサギの長老はゾウの王様を湖に連れてきました。湖に映った月の影がゆらゆらと動いています。
月の神が怒りで震えているかのように見えたので、ゾウの王様はあわててお辞儀しました。
そこに長老が機転をきかせて言いました。「月の神様、ゾウの王は間違いをおかしましたが、深く反省しておるようです。どうかおいらに免じて許してやってください」
ゾウの群れが湖に現れることはもう二度とありませんでした。その後、ウサギたちは幸せに暮らしたということです。
力の弱い者が知恵をはたらかせて自分の住みかを守ったというお話でした。
(Ancient Tales of Wisdomより)
(翻訳編集・緒川)
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