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『 宇治拾遺物語』:写経のため、地獄に落ちた能書家 上

藤原敏行は、平安時代前期の歌人,書家です。書は空海に並ぶと言われるほどの書道の大家でもあり、立派な人だと思いきや、『宇治拾遺物語』では、食い気と色気にほだされて地獄に落ちた様子が描かれています。

写経のため、地獄に落ちる

平安時代に藤原敏行という能書家がいました。彼は歌と書が巧く、人の依頼を受けて仏経を二百部ほど書きました。

ある日、敏行は突然死んでしまい、獄卒に地獄に連行されました。

「私がいったい何の罪を犯したのですか」と尋ねたところ、

「指令を受けてあなたを捕まえに来たのだが、あなたは仏経を書き写したことがあるのか」と獄卒に問われました。

「はい、あります」

「あなたはもともと地獄に呼ばれないはずだが、仏経を書き写したため、こんな目に遭ったのだ」と獄卒は答えました。

藤原敏行(公有領域)

地獄に連行されていく途中、敏行は二百人ばかりの群衆に行き会いました。彼らの目は雷光のように閃き、口からは炎と、とても恐ろしい風体をしており、甲冑を身につけ、馬に乗って行ってしまいました。そんな連中を見るにつけ、敏行は恐ろしさのあまり、卒倒しそうな思いになりました。

「今のは何の軍隊だったのですか」

「あなたは知らないのか?彼らはあなたに写経を頼んだ200人だよ。写経の功徳によって天に登るか、または立派な人として生まれ変わることを望んでいたが、あなたが仏経を書き写す時、お肉を食べて、女を思い、身を清浄に保つことをせずにやったので、功徳が全うせず、あのような武人の姿として生まれた者たちではないか。ゆえにあなたを恨めしく思い、『奴を呼び立てろ。仇を報いろ』と訴え出たため、あなたをここに召し出したのだ」と獄卒は答えました。敏行は肝が潰れ、

「彼らは私をどうするつもりですか?」と聞きました。

「二百人が銘々に持った太刀で、あなたの体を二百に切り、各自が一切れずつ取るであろう。その二百の肉片とともにあなたの心もまた分けられ、心を持つから、それぞれに苛まれる。その耐え難いことは、まず喩えようはないな」と獄卒は答えました。

「私はどうしたらそのことから免れることができますか」と尋ねましたが、

「知らぬ、あなたを助けることはできないな」と獄卒は答えました。

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敏行は引き立てられるまま先へ行くと、前に川が現れました。川の水は黒々として墨の色をしていました。

「この川の水はなぜ墨の色をしているのですか」と尋ねると、

「あなたが仏経を書き写した時に使った墨が川となって流れている」と、獄卒は答えました。

「なぜこのような汚らわしい水となって川に流れるのですか」

「清らかな心で写経した経文はそのまま天の王宮へ収められるが、あなたのように汚い心で写経したものは広野に打ち捨てられるため、その墨が雨で濡れて、川へ流れ込むこととなったのだ」

敏行は恐ろしくて泣く泣く獄卒に助けを求めました。

「私はどうしたらいいのですか。どうか助けてください」

「あなたは可哀想だが、このことは軽い罪ではないので、どうしようもない」と獄卒は言いました。

この時、獄卒の仲間が来て早く行くよう催促しました。彼らが一つ大きな門の前に来ると、そこには大勢の人がいて、多くは両足と両手は縛られ、足には枷鎖を嵌めていました。あまりにも人が多くて間に入る隙間もないほどでした。

続く

関連記事:『 宇治拾遺物語』:写経のため、地獄に落ちた能書家 中

 

参考資料:

『 宇治拾遺物語』

(翻訳編集・唐玉)

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