中国伝統文化百景(7)

女媧神話の起源地および女媧信仰の流伝地域

1、女媧神話の起源地

女媧神話は、ほぼ中国の全域に広がり、中国人であれば知らない人がいないほどである。女媧神話やそれに関連する文化遺跡などを記述する主な著書に、『山海経』、『路史』、『太平広記』、『世本』、『述異記』、『揮塵記』などが挙がられる。

女媧の文化遺跡は一部の地域(江西省南康や四川省峨眉山)を除いて、中国のほぼ全域に分布している。その中で山西省と河南省を中心とした黄河中下流域に密集している。

女媧に関係する民間の習俗や信仰は今も多く伝えられ、内モンゴル、チベット、雲南、北京、天津を除けば、他の地域ではいずれも何らかの形式で存在している。その中で、河南、山西、河北、湖北、峡西、甘粛、四川、浙江などの女媧文化がもっとも盛んで豊富である。

女媧文化遺跡が中国のほぼ全域に行き渡っているため、女媧文化の起源についての説も様々である。諸説の中、「南方説」と「北方説」がもっとも代表的なものであり、対立している。中国神話研究で開拓的な貢献をした茅盾氏らを代表とした研究者は「北方説」を主張し、袁珂氏を代表とした研究者は「南方説」を主張する。「南方説」とする主な根拠として、女媧と伏羲が南方の少数民族である苗瑤民族または四川省に起源したものと指摘している。

「南方説」より「北方説」を賛同する研究者が多い。第一、女媧神話が誕生した先史に、南方はなお荒涼たる地帯であったはずである。第二、女媧神話に関する文献もほぼ北方系の文明に関わりを持つものであって、南方の文明体系とほぼ無関係である。第三、文明進展の視点からすれば、唐宋時代に文明が次第に形成したとされる南方の苗瑤民族に比べ、北方の中原地域における文明開始の時期も早いし、文明の程度もはるかに高かったはずである。したがって、低い文明にあった南方より早期・高度の文明を有する中原文明に女媧に関連する文化が誕生する確率が高いと思われるし、実際は史籍や現存の文化遺跡からも裏付けられている。

2、女媧信仰・文化の流伝地域

これまでの統計(楊立志、饒春球「女媧信仰的発源地研究総述」、『鄖陽師範高等専科学校学報』2005年第4期)によると、女媧神話は主に漢民族地域で伝承され、247個の女媧神話の中で、漢民族地域で流伝されたのは235個であり、全体の95%を占めている。このデータも上記判断の有力な裏付けとなるのであろう。

山西省および太行山地区に、女媧が土を捏ねて人を造ったとされる場所や「後土廟」などの遺跡があるが、次では女媧文化の分布とその概観を見てみよう。

『浦洲府志』巻二十三の「事紀」によると、黄帝が「後土廟」を祭ったことがある。この記述からすれば、女媧が黄帝の時代から大々的に祭られたことは明らかである。晋南吉県西南の清水河に「女媧岩画」があり、1万年以前の中石器時期の物という。岩石に描かれた女媧は、頭の上方に七つの丸いものがあり、スバルと見られている。女媧の両手が平らに挙げ、右手に物を持っている。この姿勢は石を煉って天を補う情景と思われる。女媧の両足が開いて、その下に六個の丸い点があるが、それらは女媧が人類を繁殖し万物を創造する象徴と見られている。そして、晋城の水東村にある「女媧氏錬石処」、「媧皇窟」、「媧皇廟」、同市の北村にある「媧皇聖母廟」などが代表的なものである。平定県東浮化山の「媧皇廟」、「錬石灶」、「補天台」なども有名である。

峡西省および漢水流域の女媧文化。峡西省の女媧文化は主に峡西の驪山一帯に遺存されている。そちらには、「老母殿」、「人祖廟」、「錬石処」、「補石台」などがあり、また伏羲と女媧が結婚するために天を問ったと言われる旧跡などがある。

漢以降、民間では「天穿節」という節句があるが、明楊慎『詞品』によると、宋の時、正月の二十三日を「天穿節」とし、女媧が日を以って天を補修したとして煎餅を家の屋根におき、天を補うことを象徴するという。この他にも数多くの関連の風習がある。

峡西省の平利県内にも豊富な女媧文化がある。『路史』後紀二には、「中皇山之原、所謂女媧山也」との記述がある。ここの「中皇山」は女媧山のことであり、女媧が土を捏ねて人を造った場所とされている。この一帯では、女媧に関する伝説がたくさんあり、今も民間で代々伝えられている。例えば、正月の七日を「女媧誕生日」、十月の四日を「伏羲誕生日」、十二月の八日を「女媧兄妹成婚日」として、関連の祭りが盛大に行われている。

湖北省にも、多数の女媧文化遺産があり、その中、竹山は女媧が人類創造および天を補修した聖地とされている。

『旧唐書』、『寰宇記』などの記述によれば、女媧の陵墓は三門峡の霊宝黄河沿岸の風陵渡あたりにある。『路史』では、太行山の別称を「女媧山」、古くは「女媧天を補う処」と記されている。この地方では関連の神話伝説はかなり詳細である。

女媧神話は中国のほぼ全域に広がっているが、その中心はやはり中原地帯、とりわけ女媧神話の文化遺跡が密集している中原の中心である河南省にある。女媧関連の文化は、済源、沁陽、衛輝など太行山の周辺地帯にも密集している。

(文・孫樹林

 

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