男のほうが自閉症になりやすい?

Y染色体が握る自閉症の男女差:最新研究が示す新たな手がかり

自閉症の男女差

科学者たちは、男性の自閉症が、女性のそれに対して約4倍多く見られる理由について、新たな可能性を明らかにしました。それは、男性の性染色体である Y染色体 が、自閉症リスクを高める要因となっている可能性です。

Nature Communications』誌に発表された最新の研究では、17万7,000人以上の患者データを分析したその結果、 Y染色体が1本多い男性 は、自閉症スペクトラム障害(ASD)と診断されるリスクが 2倍 になることが分かりました。一方、 X染色体が追加された場合 には、同様の影響は確認されませんでした。
 

自閉症スペクトラム障害(ASD)と性染色体の関係を探る

ASDは、社会的な相互作用やコミュニケーション、行動パターンに課題が見られる障害であり、男子の発症リスクが女子よりも著しく高いことが知られています。この性差の原因は、長年にわたり研究者たちの関心を集めてきました。

「この分野で有力な仮説の1つに、X染色体に保護因子が存在し、それが女性の自閉症リスクを低下させている可能性があります」と、今回の研究の共同執筆者であり、ガイジンガー(Geisinger:地名)自閉症発達医学研究所の助教授である マシュー・オートジェンズ氏 は述べています

性染色体が自閉症リスクにどのような影響を与えるのかを調べるため、オートジェンズ氏とそのチームは、 17万7,416人分の患者データ を分析しました。この研究は、自閉症研究を支援するプロジェクト 「SPARK」(Simons Foundation Powering Autism Research for Knowledge) と、Geisinger健康科学大学が行う大規模遺伝研究プロジェクト 「MyCode Community Health Initiative」 の支援を受けて実施されました。

対象者の中には、性染色体異常を持つ 350人 が含まれており、研究では、XまたはY染色体の数が通常と異なる「性染色体異数性」を持つ人々に注目しています。
 

男性の性染色体と自閉症リスクの関連性

研究によれば、 X染色体が1本多い(XXY)場合 は、自閉症スペクトラム障害(ASD)のリスクが増加しないことが分かりました。一方で、 Y染色体が1本多い(XYY)場合 は、一般的な男性と比べてASDと診断される可能性が 2倍 高いことが明らかになっています。この結果は、X染色体の保護作用というよりも、Y染色体に特有のリスク因子が存在する可能性を示唆しています。

「ただし、Y染色体に関連する具体的なリスク因子を特定するためには、さらなる研究が必要です」と、研究の共同執筆者であるGeisingerの研究員 アレクサンダー・ベリー氏 は述べています

また、 X染色体が1本欠けている場合でも、ASDリスクが高まることが確認されました。この欠失は、ASDリスクに最も大きな影響を与える一方、知能への影響は比較的少ないことが分かっています。
 

ターナー症候群との関連性

今回の研究結果は、XまたはY染色体が欠けている場合にASDリスクが高まることを示した過去の研究を裏付けるものでもあります。たとえば、 ターナー症候群(女性に見られるX染色体の完全または部分的欠失を特徴とする疾患)は、卵巣機能不全や低身長、心疾患などの医学的および発達的な問題と関連しています。
 

今後の研究への示唆

研究者たちは、性染色体異数性に関連するリスク因子が、性差による自閉症発症率の違いにどのように影響しているのかを解明するため、さらなる研究の重要性を強調しています。また、他の研究結果との比較を通じて、患者選定方法の違いが、結果に与える影響を詳しく分析する必要があるとしています。

(翻訳編集 華山律)

がん、感染症、神経変性疾患などのトピックを取り上げ、健康と医学の分野をレポート。また、男性の骨粗鬆症のリスクに関する記事で、2020年に米国整形外科医学会が主催するMedia Orthopedic Reporting Excellenceアワードで受賞。