ファンタジー:個人タクシー「金遁雲」の冒険独白(番外編3-4)
【大紀元日本9月2日】何か和尚に面会する口実が必要なので、小僧を捉まえて「あの~私は中国からの帰国者で張という者ですが・・東北地方に残してきた先祖の霊を供養したくてやってまいりました・・どうしたら良いでしょうか?」と鎌をかけた。すると小僧は、一瞬瞳を輝かせると「こちらへどうぞ・・」と手招きして本堂へと私を案内した。
本堂へと通されると、すぐに本尊の銭洗い弁天らしき仏像が安置されており、その前に熨斗袋に入った「浄財」が、堆く積まれている。私が本尊の前で恭しく正座して待っていると、小僧が「菜単」(メニュー)のようなものを持ってきた。
「御香資」と書かれた本革張りのそれを開くと、「先祖供養」の欄に「一等席50万円・・商務席30万円・・・経済席10万円」などと書かれている。「すみません小僧さん!このお寺は何か航空会社と提携までしているんですか?ずいぶんと高いようですが。先祖供養というものは、信者の赤心でやるものではないのでしょうか?」と揶揄した。
すると小僧は、本堂の天井を見上げ、わざとらしく嘆息すると、「これだから共産圏から来た人は困る・・まず宗教というものが分かっていない」などともっともらしい前置きをしてから、「いいですか張さん!人間の魂があの世に逝くのは、長い輪廻の旅に出るようなものです・・だったらたとえば張さん、あなたのお母さんを米国まで行かせるのに窮屈な席を選びますか?」、「いやそういう意味ではなく」、「そうでしょう!?やっぱり一等席を用意したいでしょう。それが孝行の道です」。
改めて「菜単」を開いてよく内容を見てみる。すると右下に「御蔭勤行」なるものがあり、「松一泊10万円、竹一泊5万円、梅一泊3万円」などと書かれている。小僧はめざとくその様子を見付け、「あっと・・それはお寺に宿泊してご修行に励む際の御香資です・・先祖の霊はその御蔭で倍の速度であの世に往生できます」などと臭い解説をしている。
「あの・・お金の方が・・」と私が言葉を濁すと、小僧はどんと胸を叩いて、「ご心配なく!信用カード払いで結構です!極楽往生寺ローンというのもございますが、30分だけ審査時間が必要です」などと事務的なことを言っている。小僧は電卓を手にすると、「張さんの場合は、ご先祖供養が50万円・・御蔭勤行が10万円なので、しめて60万円になります・・これに消費税が加わって・・」、「ち、ちっと待ってください。宗教法人は税制免除なのでは?」と言うと、「あ・・言ってませんでしたか?うちは株式会社組織なんですけど・・・ちなみにマイレージも付きますよ」、「・・・???・・・」。
小僧はますます事務的になり、「・・ちなみに御蔭勤行は、一泊二食付き・・夜は“出家の間”で、和尚さんと晩餐を楽しむことができます・・」と言って、本堂のちょうど真裏近くの客間に通された。作務衣に袖を通すと、さっそくに小僧から次々と寺の雑務をするよう指示が飛びかった。何のことはない寺の作男になって終日酷使されただけの話だ。
とっぷりと日も暮れ、一風呂浴びて寺の縁側で夕涼みをしていると、小僧から声が掛かった。「夕食の準備ができました・・出家の間で和尚さんがお待ちです」。本堂の奥の出家の間に通されると、果たして大袈裟な袈裟に身を包んだ僧侶が、重厚な木製の洋式卓に陣取り、血の滴るような大振りな牛肉を前にして、「やっぱり赤葡萄酒は、佛国産の暴如麗濡暴に限るな・・」などと嘯きながら歪んだ笑いを浮かべている。脇の水着姿の女性は、こちらを一瞥すると、さっと栓を抜き始め、和尚に媚びて微笑んだ。