臨床では、大企業の経営者や幹部が不眠を訴えて受診するケースがよくあります。1日に十数回も会議を開き、多くの従業員を管理するため、強いストレスを抱えています。以前、ある経営者は舌がやや赤く、口が乾き、理由もなくいつもイライラしていて、夜、横になってもなかなか眠れませんでした。
「体は横になっているのに、頭の中では考え事がぐるぐると渦巻いている」——現代医学では、こうした状態を、ストレスが過剰にたまり、神経が興奮し続けている状態だと考えます。中医学では「心火旺(しんかおう)」と呼ばれ、心神が落ち着かず、イライラしたり、口が乾いたり、睡眠が不安定になったりする状態を指します。このように、ストレスからくる緊張や不眠でお悩みの方には、中医学に古くから伝わる養生法の一つ、「甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)」を試してみることをおすすめします。
甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)
材料:炙甘草7g、浮小麦35g、大棗(ナツメ)10個を用意します。
作り方:材料を鍋に入れ、水1500mlを加えます。強火で沸騰させた後、弱火にしてさらに10分煮込み、冷ましてから飲みます。
不眠になりやすい人は、週に2~3回飲んでもよいでしょう。不眠が比較的ひどい場合は、3~5日間続けて飲み、睡眠が安定してきたら回数を減らします。
甘麦大棗湯には、心を落ち着かせ、イライラを和らげる働きがあり、精神的に落ち着かない人や緊張している人、眠りが安定しない人に適しています。研究によると、甘麦大棗湯が神経伝達物質や神経内分泌の調整に役立ち、鎮静や精神安定作用を示すことが報告されています。
夜中に目が覚める「時間帯」を確認しましょう
心火旺だけでなく、夜中に目が覚める「時間帯」には、体のさまざまなシステムを整える必要性がある場合があります。中医学では、経絡とは、人体のエネルギーが流れる通り道であり、気と血を全身へ運ぶ役割を担っていると考えられています。「気」とは、体の中で生命を動かす「エネルギー」や「原動力」のことを指し、「血」とは、体に栄養を補うさまざまな物質をまとめて呼ぶ言葉です。気と血が循環することで、さまざまな組織や臓器のバランスと安定が保たれます。内臓は経絡を通じて体の各部位とつながっており、1日のうち、時間帯ごとに異なる臓腑が「当番」を務めるとされています。その時間帯になると、対応する経絡を流れる気と血の働きが特に盛んになり、その経絡につながる臓腑の働きも活発になると考えられています。
自分がどの時間帯に目を覚ますのかを確認し、次の4つの代表的な睡眠トラブルとセルフケア方法を参考にしてみましょう。
ケース1:夜中の1時~3時に目が覚める
夜中の1時~3時は、肝経が活発になる時間帯です。中医学でいう「肝」は、単なる肝臓という臓器だけを指すのではなく、ストレス、感情、睡眠リズム、身体の調整機能などに関わる「肝」のシステムを指します。
中医学の考え方では、この時間帯に目が覚める場合、主に次の2つのタイプが考えられます。
- 肝血虚タイプ:肝血が不足している状態で、体を養う栄養や滋養が不足していることを意味します。目が乾燥したり、顔色が青黒くなったりするのが特徴です。
- 肝気鬱結タイプ:ストレスを調整する機能のバランスが崩れている状態です。横になると仕事や雑事を考えてしまい、考えれば考えるほど目が冴えてしまうのが特徴です。
この2つのタイプには、どちらも太衝(たいしょう)穴を押す方法があります。
位置:太衝穴は足の甲にあり、足の親指と人差し指の間を足首方向へ上がり、指1本分ほどの幅のところにあります。
方法:毎日、太衝穴を押してみましょう。痛みと緊張感を感じるまで押すとよいでしょう。睡眠を落ち着かせるのに役立ちます。
中医学では、内臓は経絡を通じて体の表面とつながっていると考えます。経絡上にある特殊な作用を持つポイントを「経穴(ツボ)」といい、鍼灸やマッサージなどで対応するツボを刺激することで、関連する臓腑の不調を整えるとされています。
ケース2:夜中の3時~5時に目が覚める
夜中の3時~5時は、肺経が働く時間帯です。この時間帯に目が覚める場合、呼吸機能、体の回復力、あるいは体内の乾燥や熱感などが関係している可能性があります。
中医学の考え方では、この時間帯に目が覚める場合、主に次の2つのタイプが考えられます。
・肺気不足タイプ:呼吸を支える体のエネルギーが不足している状態です。普段から息切れしやすい、話す声に力がない、少し動いただけでも疲れるといった特徴があります。このタイプの人には、太淵(たいえん)穴を押すことをおすすめします。
位置:太淵穴は、手首の手のひら側にある横じわの上で、親指側にあり、橈骨動脈の拍動を感じる場所にあります。
方法:寝る前、または夜中に目が覚めたときに、反対側の手の親指で太淵穴をゆっくり押してもみ、ほんのり温かくなる程度まで刺激します。肺の気を補うのに役立ちます。
・肺火が強いタイプ:体内の熱がうまく下がらない状態です。夜中に目が覚めた後、イライラしたり、口が乾いたり、胸が苦しく感じたりするのが特徴です。このタイプの人には、尺沢(しゃくたく)穴を押すことをおすすめします。
位置:尺沢穴は肘の横ジワ上にあり、外側から内側へ指1本分ほど入ったところのくぼみにあります。
方法:尺沢穴をやさしく押し、痛みと緊張が感じられるまで刺激します。肺にこもった熱を冷ますのに役立ちます。
ケース3:夜中に何度もトイレに行く
ようやく眠れたと思ったのに、尿意で目が覚めてしまい、そのまま再び眠れなくなることがあります。臨床では、夜間頻尿は「腎気虚」と関係していることが多いとされます。これは、体の中に水分やエネルギーをとどめておく力が弱くなっている状態を指します。
このタイプの人には、腎兪(じんゆ)穴のマッサージがおすすめです。
位置:腎兪穴は、へその真後ろにある命門穴から左右に指2本分ほど外側のところにあります。
方法:両手をこすり合わせて温め、手のひらを腰の後ろに当てて、上下にこすります。腰の後ろがじんわり温まり、体全体もぽかぽかしてきます。また、両手の親指で左右の腎兪穴を押しもみしてもよく、約2分間行います。腎兪穴のマッサージは腎の気を温めて補い、夜間頻尿の改善に役立つとされています。
ケース4:スマートフォンの使い過ぎによる不眠
夜中にトイレで目を覚ました後、再び眠れなくなる人は少なくありません。その原因の一つが、つい手に取ったスマートフォンでメッセージや動画を見てしまい、脳がすっかり覚醒してしまうことです。
こうしたときは、スマートフォンを手放して、神門(しんもん)穴を押してみましょう。心を落ち着かせ、安定した状態に導くのに役立ちます。
位置:神門穴は手首の手のひら側の横ジワ上にあり、小指側の腱の内側にあるくぼみに位置します。
方法:夜中に目が覚めてしまった場合は、ゆっくりと呼吸しながら、親指で神門のツボを優しくマッサージしてください。心を落ち着かせ、体を静かな状態に戻すのに役立ち、再び眠りにつきやすくなります。
医学研究でも、神門穴を刺激することで不安感の軽減や睡眠の質の改善に役立つことが示されています。
以上で紹介した簡単な方法は、寝る前や夜中に目が覚めたときに試してみることができます。
不眠が長期間続く場合、夜間頻尿が急にひどくなった場合、あるいは排尿時の痛み、血尿、強い喉の渇き、息切れ、胸苦しさ、足のむくみ、体重の大きな変化などを伴う場合は、まず専門の医師に相談して検査を受けてください。
上記で紹介した生薬の中には、あまり馴染みのないものもあるかもしれませんが、多くは健康食品店やアジア系食材店などで購入できます。ただし、体質は人によって異なりますので、具体的な治療方法については専門の医師に相談してください。
(翻訳編集 解問)
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