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一碗の「だし」で五臓を調和する ― 山形の郷土料理に隠された初秋の養生法

日本の東北、山形県は四方を山に囲まれた土地。夏から秋にかけては蒸し暑さと湿気がこもり、とくに村山盆地では昼はじりじりと暑く、夜は湿気にまとわりつかれるような気候が続きます。農作業に追われる人々は、どうしても食欲が落ち、体力を消耗しがち。そこで生まれたのが、山形の郷土料理「だし」です。

山形県山寺・五大堂から望む谷の風景(Shutterstock)

伝統的な「だし」は、きゅうり、なす、茗荷、青じそなどの旬の野菜を細かく刻み、しょうゆやだしで和えてご飯にかけるだけ。さっぱりとしていながら、一碗で食欲を呼び戻し、体力を回復させてくれる、まさに農家の知恵から生まれた養生食といえるでしょう。

今回ご紹介する「だし」は、さらに中医学の視点から初秋の養生ポイントを意識したアレンジ。涼やかに食欲を増しながら、脾を整え、肺を潤し、肝の働きをやわらげる――そんな効果が期待できる一皿です。

山形人の清涼の知恵

「だし」という名前の由来については諸説あります。

「だし汁のように味を引き立てるから」、あるいは「細かく刻んでうまみを“出す”から」、はたまた「刻んですぐに“出せる”手軽さから」など――いずれも土地の暮らしぶりを映すような説ばかりです。農作業の合間に、野菜を刻んで調味料と和えるだけで、一椀の食欲をそそる涼味ご飯が出来上がるのです。

「だし」は単なる涼味ではなく、体を動かす力を取り戻す源でもあり、田畑仕事の昼食には欠かせませんでした。今日でも山形の食卓に定着している、「だしそば」「だしピザ」など現代的なアレンジも生まれています。地元の人は「百軒あれば百の味がある」と言い、家ごとに旬や好みに合わせて食材を変えたり、紫蘇を多めに入れたり、生姜を加えたりと、風味はさまざまですが、いずれも清涼感にあふれています。
 

陰を潤し、火を鎮め、臓腑の調和を

中医学の養生観では、初秋はまだ暑さと湿気が残りつつも、乾燥の気が立ち始め、肝の火が強まりやすい時期とされます。そのため、のどの渇き、いらだち、胸のつかえといった症状が出やすくなります。

調え方の要点は、「陰を補って肺を潤し、肝火を鎮める」こと。そして同時に「脾を健やかにして湿を取り除き、体の巡りをスムーズにする」ことです。

そこで、山形の伝統料理「だし」にひと工夫を加えて仕立てたのが、養生版の「秋の潤いだし」。特に、体の潤いが不足してのどや肌が乾きやすい方、イライラしがちな方、また血糖値が気になる方に特におすすめ。
 

改良版〈潤いだし〉の食材と効果

潤いだしの料理イメージ写真
  • きゅうり・なす:体の熱を冷まし、余分な湿気を取り、夏バテ解消。
     
  • 山芋:胃腸を助けて消化力を高め、腎も補い、体のだるさを和らげる。
     
  • オクラ:腸を潤し、胃を守りつつ、肝の熱を落ち着かせる。
     
  • しいたけ:肺と肝をサポートし、気の巡りを良くする。
     
  • 黒ごま:肝と腎を養い、体の乾きを防ぐ。
     
  • 青じそ:気分を落ち着け、食欲を引き出し、胃腸の湿気や冷えを取り除く。
     
  • 豆乳+少量の麦味噌:肺を潤しつつ、食材の冷たさから胃腸を守る。

この組み合わせで、だし本来の「さっぱり感」を保ちながらも、肝の高ぶりを鎮め、肺を潤し、胃腸を整える三つの効果を兼ね備えています。体を冷やす野菜で脾を傷める心配も和らげる、夏から秋への移り変わりにふさわしい調養法です。

簡単レシピ(2〜3人分)

  1. きゅうり・なす・オクラを角切り、しいたけをみじん切り、山芋を細かく刻む。
     
  2. 青じその千切りと黒ごまを加える。
     
  3. 豆乳50mlと、かつおだし少量+麦味噌またはしょうゆで味を整える。
     
  4. 全体を混ぜて冷蔵庫で少し冷やす。
     
  5. ご飯やそうめん、冷ややっこにかけていただく。

 

こんな方におすすめ

初秋にのどの乾き・胸のつかえ・便秘・食欲不振 を感じやすい人、緊張しやすく気分が不安定な人。

※胃腸が弱く冷えやすい人は、山芋を多めにして、生姜を少し加えると安心
 

まとめ

一碗の「潤いだし」には、山形の人々が暑さや湿気を乗り越えてきた知恵が込められています。そして同時に、中医学が説く「初秋の養生」にもかなった一皿。身近な食材でさっと作れて、爽やかで滋味深い味わいは、心も体もほっと和ませてくれます。

素朴ながら奥深い郷土の味わいは、現代の私たちにとっても大切なヒント。毎日の食卓に取り入れながら、自然に寄り添う、健やかな暮らしを続けてみませんか。