世界中で、私たちが飲んでいる水にマイクロプラスチックが混入しています。しかし、多くの人はその事実に気づいていません。
フランスの最新の研究によると、ペットボトルの水や水道水に含まれるマイクロプラスチックのほとんどは、現在の検出基準の範囲を下回るほど小さいことがわかりました。これにより、私たちが日常的に飲んでいる水の安全性について懸念が高まっています。
現在、欧州の基準では20マイクロメートル(0.00079インチ)以上の粒子のみを対象としています。しかし、この研究では、飲料水に含まれるマイクロプラスチックの多くがこのサイズを下回ることが明らかになり、既存の検出技術では見逃されている可能性が浮き彫りになりました。
「これまでの証拠から、より小さな粒子のほうが人の健康に与える影響が大きい可能性が高いと考えられます」と語るのは、大気中のマイクロプラスチック汚染を専門とする博士号を持つオスカー・ハゲルスケア氏(本研究の筆頭著者)。彼は、これまでの検査方法では不十分であり、より微細な粒子に焦点を当てる必要があると指摘します。
この研究は、マイクロプラスチックによる水質汚染の証拠をさらに補強するものであり、最近のアメリカの研究結果とも一致しています。しかし、世界的により精度の高い検出方法の確立が求められる中、アメリカではいまだに飲料水中のマイクロプラスチックに関する基準が設定されていないのが現状です。
数字が示す現実
この研究は、1月15日に学術誌 PLOS Water に掲載されました。その結果、検出されたマイクロプラスチックの98%が20マイクロメートル未満、さらに94%が10マイクロメートル未満であることが明らかになりました。比較のために言うと、人間の髪の毛の太さは約70マイクロメートル、赤血球の直径は約8マイクロメートルです。
ペットボトルの水や水道水に含まれるマイクロプラスチックの濃度には大きな差があり、1リットルあたりわずか19個のケースもあれば、1100個を超えるケースもありました。参考までに、1リットルはアメリカの標準的なペットボトル2本分に相当します。
「最も高い濃度で1リットルあたり1154個のマイクロプラスチックを検出しました」とハゲルスケア氏は述べています。「ただし、質量としては非常に微量であり、1リットルあたりの濃度は数十億分の1(ppb)レベルです」
とはいえ、ペットボトルの水に含まれるマイクロプラスチックの量は、空気や食べ物を通じて私たちが日常的にさらされている量と比べると、はるかに少ないといえます。現在、マイクロプラスチックの「安全な摂取量」に関する国際的な基準は存在しませんが、この研究結果は、マイクロプラスチックが環境中に広く分布していることを示し、より明確な基準の必要性を浮き彫りにしています。
微細なマイクロプラスチックは、消化器官を通過し血流に入り、全身を巡って臓器や組織に蓄積される可能性があります。実際、これらの粒子はほぼ全身のあらゆる部位から検出されています。研究によると、マイクロプラスチックはホルモンの働きを乱したり、がんのリスクを高めたりする可能性があるとされていますが、その影響の全容はいまだ不明です。
今回の研究では、10種類のペットボトルの水と、フランス・トゥールーズの水道水1サンプルを分析しました。その結果、水道水には1リットルあたり413個のマイクロプラスチックが含まれており、10種類のうち8種類のペットボトル水よりも多いことが判明しました。
ただし、ハゲルスケア氏は「この結果が、すべての水道水がペットボトルの水よりも多くのマイクロプラスチックを含んでいることを意味するわけではない」と指摘しています。水道水の処理過程でマイクロプラスチックが混入した可能性もありますが、これについてはあくまで推測にすぎないとのことです。
また、トゥールーズの水道水に含まれるマイクロプラスチックは、環境汚染によるものかもしれません。例えば、近隣の川から流れ込んだプラスチック廃棄物が原因となっている可能性があります。
全体として、この研究は、ペットボトルの水と水道水(処理された表流水)に含まれるマイクロプラスチックの濃度がほぼ同程度であることを示唆しています。
この汚染は、環境中で繰り返される循環の一部なのです。
マイクロプラスチック汚染:終わりのない循環
飲料水に含まれるマイクロプラスチックは、より広範な汚染サイクルの一部にすぎません。そして、水はその入口のひとつにすぎないのです。実際、私たちがマイクロプラスチックにさらされる要因のうち、飲料水が占める割合は全体の3分の1以下であり、大半は食品、空気、そしてホコリなど、他の環境要因から取り込まれています。
ニューメキシコ大学の毒物学者マシュー・キャンペン氏は、これらの要因がどのように相互につながっているかを理解することが重要だと指摘します。
「食べ物がどのように供給されているかを考えてみてください」とキャンペン氏は語ります。「マイクロプラスチックを含んだ水で農作物を灌漑すると、それが作物に取り込まれます。そして、その作物を家畜が食べることで、マイクロプラスチックは食物連鎖の中に入り込むのです」
しかし、このサイクルはそこで終わるわけではありません。キャンペン氏によれば、一部の水は蒸発し、大気中にマイクロプラスチックを放出します。実際に、雲の中からもマイクロプラスチックが検出されています。
大気中のマイクロプラスチックについては、サンパウロ大学医学部のタイス・マウアド教授が「屋内のほうが屋外よりも多くのマイクロプラスチックを吸い込んでいる可能性が高い」と述べています。その理由は、衣類や寝具、カーペットなど、私たちの身の回りにある繊維製品の多くがプラスチック由来の素材でできているからです。
再び水の話に戻ると、洗濯機もこの汚染サイクルに大きく関与しています。研究によると、海洋に流出するマイクロプラスチックの約35%は、洗濯機から発生していることが分かっています。洗濯のたびに、ナイロンやポリエステルなどの合成繊維が微細な繊維(マイクロファイバー)となって大量に水や空気中に放出されているのです。
これらのマイクロファイバーは排水を通じて水系に流れ込みますが、下水処理施設はこうした極小の粒子を完全に除去できる設計にはなっていません。そのため、一部のマイクロプラスチックは処理をすり抜け、水道水の供給網に入り込んでしまいます。
さらに、一度環境中に放出されたマイクロファイバーは、雨水の流出やろ過の不十分な水処理を通じて、最終的に再び飲料水へと戻ってくるのです。
ペットボトルの水に含まれるマイクロプラスチックの正体
ハゲルスケア氏とその研究チームが検出したマイクロプラスチックの大半は、容器として使われているポリエチレンテレフタレート(PET)由来のものではありませんでした。PETは包装材料として一般的に使用されているプラスチックですが、PET粒子が検出されたのは10種類のペットボトル水のうち7種類のみ。そのうち3種類では、検出されたマイクロプラスチック全体の5%未満しかPET由来ではなかったのです。
ハゲルスケア氏は、保管環境やろ過方法など、他の要因がペットボトル水にプラスチックを混入させている可能性を示唆しています。
研究では、合計17種類のプラスチックが特定され、その中でも特に多かったのはポリエチレンとポリプロピレンでした。これらのプラスチックは耐熱性や耐薬品性が高いため、給水管やフィルターなど、浄水システムの部品に広く使用されています。このことから、ペットボトルの水に含まれるマイクロプラスチックは、水処理の過程で混入している可能性があると考えられます。
「ペットボトルそのものが主な汚染源だという従来の考え方に疑問を投げかける結果になりました。ペットボトル水におけるマイクロプラスチック汚染は、より複雑な要因が絡んでいるのです」とハゲルスケア氏は指摘しています。
規制の不備
アメリカでは、食品医薬品局(FDA)がペットボトルの水を管理しています。しかし、国際ボトルドウォーター協会によると、FDAの「品質基準は、環境保護庁(EPA)が水道水に設定している最大汚染物質基準と同じ」であり、ペットボトルの水に対して特に厳しい基準が設けられているわけではありません。さらに、EPAは飲料水中のマイクロプラスチックに関する基準やガイドラインをまだ設定しておらず、この分野の規制には大きな空白が残っています。
EPAの公式サイトによると、マイクロプラスチックのサンプルを採取する標準的な方法は存在するものの、分析技術はまだ発展途上です。現在の多くの分析手法は研究室向けであり、大規模なフィールド調査には適していません。さらに、堆積物などの他の微粒子とマイクロプラスチックを区別することも難しく、結果として、アメリカの住民はペットボトルの水や水道水を通じて知らず知らずのうちにマイクロプラスチックを摂取している可能性がありますが、その安全性に関する明確な基準はないのが現状です。
EPAは現在、研究機関と協力して検出技術の向上に取り組んでいますが、実用的で信頼性の高いフィールドテストの確立にはまだ時間がかかるとされています。その間、EPAはより緊急性の高い環境・健康問題、たとえばPFAS(ペルフルオロアルキル物質およびポリフルオロアルキル物質)などの有害化学物質への対応を優先しており、マイクロプラスチックへの関心は相対的に低くなっています。
こうした状況では、正確な検査が行われず、明確な規制もないため、マイクロプラスチック汚染の実態は依然として不透明です。州ごとに独自の法律を制定することは可能ですが、規制の整備は科学的な進展に追いついていないのが現状です。
エポックタイムズ はEPAに対し、飲料水中のマイクロプラスチックに関する取り組みについて問い合わせを行いました。しかし、20マイクロメートル未満の微粒子を対象とした連邦ガイドラインや検査方法を導入する予定があるのか、また導入時期はいつになるのかといった質問に対し、記事の掲載時点で回答は得られませんでした。
こうした規制の空白が続く中、多くの人が家庭用の浄水フィルターに頼るようになっています。
マイクロプラスチックを除去する難しさ
多くの家庭用浄水フィルターは、塩素や重金属など、健康への影響が知られている汚染物質を取り除くことを目的としています。しかし、一般的なフィルターはマイクロプラスチックの除去を想定して作られているわけではありません。
より高度な浄水技術として、逆浸透膜(RO:リバースオスモシス)や限外ろ過(UF:ウルトラフィルトレーション)があります。これらのシステムは、非常に細かい膜を使用しているため、マイクロプラスチックを効果的に除去できます。
どちらの方法も飲料水中のマイクロプラスチックを大幅に減らすことができますが、それぞれにメリットとデメリットがあります。逆浸透膜は高い除去率を誇りますが、ろ過速度が遅く、排水が発生するうえ、カルシウムやマグネシウムなどの健康に必要なミネラルも取り除いてしまいます。一方、限外ろ過は処理速度が速く、排水を出さずにミネラルを保持できる点が優れていますが、より微細なマイクロプラスチックの除去率は逆浸透膜に比べてやや劣ります。
さらに、飲料水はマイクロプラスチックの摂取経路の一部にすぎません。そのため、家全体の水を浄化するシステムを導入する必要があるかもしれません。しかし、ハゲルスケア氏は「こうしたシステムを家庭全体に導入するのは、コスト的に非常に負担が大きい」と指摘しています。
「マイクロプラスチックフリー」認証はアメリカで役立つのか?
ハゲルスケア氏は、欧州連合(EU)において「マイクロプラスチックフリー」認証の導入を提案しています。この認証制度では、飲料水中のマイクロプラスチックに厳格な上限を設け、ペットボトルのラベルに汚染レベルを明記することを義務付けることで、人々がより安全な選択をできるようにすることを目指しています。
アメリカでは、市販のペットボトル水の約64%が実は水道水をボトル詰めしたものです。そのため、この認証を導入する場合、水道水の処理施設とボトリング工場の両方でマイクロプラスチックの検査と除去を義務付ける必要があるでしょう。
ハゲルスケア氏は現在、EUでの認証プロセスの確立に取り組んでおり、その基準として超低濃度のマイクロプラスチック(10億分の0.01=0.01 ppb)という厳格な上限値を設定する計画です。これにより、一定の基準を満たしたペットボトル水を「マイクロプラスチックフリー」と認定できるようになります。
(翻訳編集 華山律)
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