断食 vs 低炭水化物ダイエット

断食と低炭水化物高脂肪(LCHF)ダイエットの効果の違いは何でしょうか? これは、バットマンとスーパーマンのどちらが強いかを議論するようなものです(明らかにスーパーマンですが)。とはいえ、両方ともスーパーヒーローであり、これらの食事法の目的はインスリン値を下げることにあります。これは肥満と2型糖尿病の原因を合理的に分析することから生まれた結果です。肥満を改善したいのであれば、その要因を理解する必要があります。

長年にわたり、肥満の原因が過剰なカロリー摂取だという誤った考えに基づいてきました。しかし、過食と絶食に関する研究は、この説が誤りであることをはっきりと示しています。カロリーが肥満の原因なら、カロリーの過剰摂取が肥満を引き起こすはずですが、それは短期間に限った話です。長期的には体重は元に戻ります。逆に、カロリー摂取を減らすことが永久的な体重減少に繋がると考えられがちですが、実際にはそうなりません。カロリー制限を主な方法とするアプローチの失敗率は99%にも上ります。

肥満をホルモン異常(主にインスリン、そしてコルチゾールも関係しています)として捉える合理的なモデルを採用すると、インスリンの増加が持続的な体重増加に繋がるという仮説が導かれます。インスリンを減らせば体重が減るはずです。そして、実際に試してみると? 予想通りに効果があります。

インスリンの増加が持続的な体重増加に繋がるという仮説が導かれる(mapo / PIXTA)

 

したがって、インスリンの過剰分泌が体重増加の原因であると理解した場合、治療法は非常に明確です。カロリーを減らす必要はありません。体重を減らすにはインスリンの分泌を抑えることが必要です。低炭水化物高脂肪(LCHF)ダイエットや断食は、この目標を達成する手段です。精製された炭水化物はインスリンの分泌を最も促すため、炭水化物の摂取を減らすことでインスリンの分泌も減ります。

また、動物性タンパク質もインスリンを増加させるため、タンパク質の摂取を適度にし、脂肪の摂取を多くすることもインスリンを抑える方法の一つです。全ての食事を制限する断食もインスリンの分泌を抑えます。純粋な脂肪のみを摂取する「脂肪断食」も同様の効果が期待できるかもしれませんが、その点については研究が不足しています。

そのため、「バレットプルーフコーヒー(無塩のグラスフェッドバターやMCTオイルが入っている)」は、カロリーを減らさずにインスリンを下げる可能性はありますが、それを確実に裏付けるデータはまだ不足しています。

バレットプルーフコーヒー(tbralnina / PIXTA)

しかし、どのダイエット方法が優れているのでしょうか? 低炭水化物高脂肪(LCHF)食か、それとも断食か? 効果を比較すると、断食が常に上回ることが分かります。

2型糖尿病患者を対象に炭水化物抜きの食事と断食を比較したある研究では、炭水化物を含まない食事が非常に優れていることがわかります。このような食事と通常の食事の血糖反応を比較すると、血糖値が大幅に低下していることがわかります。しかし、断食の方がさらに優れた効果を示しています。

血糖値を下げたいなら、断食に勝るものはありません。結局、血糖値をゼロ以下にすることはできません。それにもかかわらず、炭水化物を摂らない食事は、実際に断食をしなくても断食の約71%の効果をもたらします。一般的な食事は炭水化物55%、タンパク質15%、脂肪30%で、これは多くの栄養士や食事ガイドラインが推奨する割合とほぼ同じです。しかし、血糖コントロールには明らかに不十分です。

炭水化物をほとんど含まない食事は、炭水化物が3%未満(ケトジェニックまたは超低炭水化物)、タンパク質が15%(適量)、脂肪が82%です。低炭水化物・高脂肪(LCHF)という言葉が、内容を端的に表しています。一日のカロリー摂取量は 3 回の食事で、体重1kgあたり25kcal(70kgの人で1750カロリー)でした。

これは、標準食と炭水化物を含まない食事で同じでした。つまり、炭水化物制限が血糖値に与えるメリットは、単にカロリー制限によるものではありません。これは、「カロリーが全て」と考える多くの医師や栄養士にとって重要な知見です。実際、この研究ではカロリーは関係ありませんでした。

カロリー削減を第一とする(CRaP)モデルが50年間も失敗し続けているにもかかわらず、「すべてはカロリーの問題だ」とまだ信じている人は、物事をあまり深く考えていないと言えるでしょう。

CRaPのような戦略が50年も失敗し続けているのであれば、私たちは戦略を変えるべきです。それがまさに狂気の定義であることは、アルバート・アインシュタインでなくてもわかります。

標準的な食事、アメリカ糖尿病協会(ADA)推奨

このグラフは衝撃的です。標準的な食事「アメリカ糖尿病協会(ADA)推奨」を見ると、血糖値がどれほど急激に上昇するかがはっきりとわかります。

ADAの専門家たちが、彼らの推奨する食事が血糖値を急上昇させることを知っているなら、なぜそれを推奨するのか、疑問に思うのは当然です。彼らは私たちを危険にさらそうとしているのでしょうか? 残念ながら、答えは『はい』です。意図的ではないにせよ、彼らの無知が原因です。また、大手食品会社や大手製薬会社からの莫大な資金提供も、その背景にはあります。

しかし、炭水化物を抜くだけでは不十分な場合はどうでしょうか?

炭水化物を制限しても血糖値が高い患者が大勢います。さらに効果を上げるにはどうすればいいのでしょうか? 申し訳ありませんが、バットマン、今はスーパーマンを呼ぶ時です。要するに、私たちに必要なのは断食です。

インスリンレベルに注目すると、研究結果はさらに驚くべきものになります。なぜなら、血糖値は肥満や糖尿病の主な原因ではないからです。主な原因はインスリンです。体重を減らす戦略全体がインスリンを下げることにかかっています。

全体の曲線下面積を見ると、炭水化物を抜いた食事でインスリンを約50%減らせますが、断食をするとさらに50%減らすことができます。これが真の力です。

もちろん、これは理にかなっています。炭水化物を抜いた食事にはタンパク質が含まれており、インスリンを増加させます。これを下げる唯一の方法は、100%脂肪を摂取することですが、これはほとんど理論上の話です。

私たちは普段、純粋なオリーブオイルや純粋なラードを食事としては摂りません。バレットプルーフコーヒーは確かに素晴らしい工夫ですが、長い人類の歴史や多くの人々によって実証されたわけではありません。断食はこの長い時間を経てもなお生き残っています。

それは「アンチフラジャイル」、つまり壊れにくいということです。どういうことかというと、加工された食品や超加工食品を食べ続けるほど、断食の必要性が高まります。ファストフードを多く摂るほど、インスリンレベルを下げるために断食が必要になるのです。

そして、インスリンを下げるには断食が最も効果的です。これはインスリンを減らす最も迅速かつ効率的な方法です。幸いなことに、多くの人が考えるほど難しいことではありません。

グルカゴンについてはどうでしょうか? グルカゴンはインスリンの反対の役割をします。インスリンの主な生理的機能の一つはグルカゴンを抑制することです。

ロジャー・アンガー博士はグルカゴンの生物学的な役割について多くの研究をし、それを最も重要だと考えていました。しかし、この研究では、グルカゴンは臨床的関連性がまったくありませんでした。患者への対応においても、グルカゴンはほとんど、あるいはまったく役割を果たしません。

説明しましょう。インスリンは体重増加の原因となるため、インスリンを投与すると体重が増えます。グルカゴンを減らすことで体重が増えるでしょうか? 実際にはそうではありません。グルカゴンを増やすことで体重が減るでしょうか? それも実際にはそうではありません。確かに、グルカゴンはラットの肝臓で主要な役割を果たしていますが、私は人間に関心があります。

この研究の要点は、すでに認識している事実を裏付けることにあります。インスリンは、肥満を引き起こす主な要因ですが、唯一の要因ではありません。そのため、多くの人にとってインスリンを減らすことが、肥満治療の最適な手段となります。炭水化物を摂取しない食事法はインスリンを減少させる効果的な方法ですが、それで成果が得られない場合は、断続的断食がより強力な戦略となるでしょう。

2型糖尿病においては、炭水化物を摂取しない食事をすることで血糖値を50%から70%まで下げることが可能です。さらに断食を行うことで、血糖値を30%減少させることができます。

では、食事による管理で血糖値を下げる方法がわかっているのに、なぜ薬が必要なのでしょうか? 答えはもちろん、『必要ないのです』2 型糖尿病は完全に改善可能な疾患なのです。

 

(翻訳編集:柴めぐみ)

トロント(カナダ)で現在診療を行っている医師、研究者、そしてニューヨーク・タイムズのベストセラー作家である。ロサンゼルスとトロントで訓練を受け、現在は腎臓専門医として活動。彼の著書には『The Obesity Code』『The Complete Guide to Fasting』『The Diabetes Code』『The Cancer Code』があり、これらの本はこれらの疾患に対する従来の考え方に挑戦し、それらを管理するための食事戦略を紹介。また、TheFastingMethod.comの共同創設者であり、断食を成功裏に実践するための教育、ツール、そしてコミュニティを提供。