10月2日、スロバキアの議会選挙で、ウクライナへの軍事支援停止を訴えたフィツォ元首相(写真)率いる中道左派「スメル(道標)」が第一党に躍進して勝利したことは、中欧で対ロシア戦への不満がじわじわと広がっていることを示した。ブラスチスラバで同日撮影(2023年 ロイター/Radovan Stoklasa)

焦点:欧州の「ウクライナ疲れ」、方針転換に直結しない複雑な構造

[ブダペスト/プラハ 2日 ロイター] – スロバキアの議会選挙で、ウクライナへの軍事支援停止を訴えたフィツォ元首相(59)率いる中道左派「スメル(道標)」が第一党に躍進して勝利したことは、中欧で対ロシア戦への不満がじわじわと広がっていることを示した。しかし、専門家はスロバキアやポーランドの政策が大きく方向転換するとは予想していない。

かつて旧ソ連の支配下にあったハンガリー、スロバキア、そして伝統的に反ロシアのポーランドでさえ、指導者らは今、人々の国粋主義的感情をあおっている。そうした中で、票獲得のための目先の政治的駆け引きにウクライナ支援という争点が使われている形だ。 

9月30日の選挙でフィツォ氏が第1党の座を獲得したことで、新政権がハンガリーと同じく、ウクライナ支援という欧州連合(EU)の総意に反旗を翻すことになるのではないか、との懸念が高まった。

フィツォ氏は選挙前、ウクライナへの軍事補給を打ち切り、和平交渉に努めることを公約に掲げた。これはハンガリーのオルバン首相に近い路線であり、ウクライナとその同盟国は、ロシアを勢い付かせるだけだと反発している。

もっともアナリストらは、スロバキアとポーランドがウクライナ政策を大きく転換するとは見ていない。

GLOBSECの防衛フェロー、ロジャー・ヒルトン氏は、現在の対立は短期的な政治的利益を目的としたものだと説明。この地域の長期的な安全保障上の利益は、北大西洋条約機構(NATO)としっかり結びついていると言う。

同氏は「中東欧でフィツォ氏のような政権が1つ登場しただけで、地域全体のウクライナ支援が崩れるきっかけになるとは思えない」と語った。

ウクライナへの支持が最も強いポーランドでは、10月15日の選挙を前に、政府与党が極右勢力からウクライナに「より厳しい姿勢」を示すよう迫られている。

穀物出荷をめぐるウクライナとの論争と、ポーランド、ハンガリー、スロバキアによるウクライナ産穀物の輸入禁止措置の延長が先月、摩擦に拍車をかけた。

<連立による穏健化>

スロバキア議会選では、フィツオ氏の「スメル」が得票率23%で勝利。リベラル派の「プログレッシブ・スロバキア(PS)」が18%で続き、スメル出身のピーター・ペレグリーニ氏が率いる「声(Hlas)」が14.7%で3位だった。

連立の組み合わせとして最も可能性が高いのは、スメルと、中道左派で親欧州のHlas、そして親ロシアで愛国主義的だが小規模なSNSのようだ。

選挙前にはスメル、SNS、極右政党の組み合わせが予想されていたが、それよりも中道的な連立となる。極右政党は1議席も獲得できなかった。

BISLAリベラルアーツ・カレッジのサミュエル・アブラハム学長は、フィツォ氏のウクライナ政策に関して言えば、Hlasの存在が重要な穏健化の要因になるだろうと言う。

Hlasのペレグリーニ氏は、ウクライナ向けを含む商業的武器供給の継続を支持しており、1日にもその姿勢を改めて示した。

アブラハム氏は「彼(フィツォ氏)は十分に冷静で現実主義者であり、EUに対して過剰な圧力をかけたり、ロシアへの制裁を解除しようとすれば、ペリグリーニ氏という壁にぶつかることを知っている」と語る。「彼は親欧州路線を確保しようとし、親ウクライナ路線を推し進めるだろう」とし、他政党に投票した有権者にとっては、その道しか受け入れられないと解説した。

フィツォ氏は首相を3度務めた経験があり、EU政治に精通したベテラン政治家だ。スロバキアはEUの開発資金の恩恵を強く受けているため、ウクライナ支援その他、EU内の問題に関しては慎重に行動する可能性が高い。

ハンガリーのオルバン首相は、フィツォ氏の勝利を真っ先に祝福した。オルバン政権はウクライナへの武器供与を拒否し、EUの対ロシア制裁にも反対してきた。

<正念場>

中欧のウクライナ支持が試される正念場は、EUがウクライナの加盟交渉開始を決定する可能性がある今年12月に訪れるかもしれない。交渉開始にはEU加盟27カ国の全会一致が必要だ。

フィツォ氏は先週、ウクライナのEU加盟と年内の加盟交渉開始を支持するかとのロイターの質問に対し「ウクライナで激しい軍事衝突が起きているときに、この問題を扱うのは幻想だと確信している」と答えた。しかし、交渉開始に反対するとは言わなかった。

ハンガリーのオルバン首相は29日、EUがウクライナとの加盟交渉を始めるだけでも「非常に難しい問題」を解消する必要があると述べた。ただ、同氏もハンガリーが交渉開始を阻止するとは述べなかった。

ポーランド政府はウクライナのEU加盟を支持しているが、最近は同国との関係が冷え込んでいる。

だが、シンクタンク、ユーラシア・グループの欧州担当マネージング・ディレクター、ムジタバ・ラーマン氏は、ポーランドの選挙が終わり、EU本部での各国指導者らの協議が始まれば、ウクライナ支持の結束が生まれると予想する。

同氏は「最終的には、スロバキアとハンガリーも欧州の総意に乗るだろう。欧州では多くの問題が絡み合っているからだ」とした上で「より大きな課題はスロバキアでもハンガリーでもなく、米国の選挙サイクルと、それがウクライナ支持に与える影響だ」と指摘した。

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