9月13日、記録的な猛暑に襲われた米国。だが、農場や建設現場のように厳しい環境で働く人たちが暑さを逃れるすべはほとんどない。写真は8月、テキサス州ヒューストンで、屋外作業中に水分を補給する労働者(2023年 ロイター/Adrees Latif)

アングル:酷暑の米国、労働者保護の法整備遅れ「まるで拷問」

[リッチモンド(米バージニア州)/メキシコシティ 13日 トムソン・ロイター財団] – 記録的な猛暑に襲われた米国。だが、農場や建設現場のように厳しい環境で働く人たちが暑さを逃れるすべはほとんどない。健康どころか生命にさえ関わるリスクがあるのに、休憩を取れない、あるいは休憩することをためらってしまう例も多い。

啓発団体によれば、米国において気候関連の死因として最も多いのが酷暑であるにもかかわらず、労働者の保護が欠落している状況が広く見られるという。水分補給や日射しを避けるための休憩を取れないことが、より深刻な症状や死亡の原因になっている。

テキサス州オースティン在住の5児の母親、エバ・マロカンさん(50)は、建設や清掃などの現場で働いているが、気温の上昇に対して自分の身を守れないと感じることが多い。

今年は状況がひどく悪化した、とマロカンさん。脱水症状を起こして医師の診断を受けなければならなかったことや、最近エアコンのない住宅での作業後に咳が止まらなくなったことを語ってくれた。

だが、仕事を休めば済むとは限らない。

移民労働者の権利擁護に取り組む「ワーカーズ・ディフェンス・プロジェクト」のメンバーでもあるマロカンさんは、「仕事を休みたくない場合もある。責任もあるし、顧客の了解を得られるとは限らない」と言う。

「自分は母親であり、そういう仕事の給料で食いつないでいる。働くのをやめたら誰が私の代わりに稼いでくれるのか」

米国の州のうち、労働者のための具体的かつ包括的な暑さ対策を法制化しているのは、カリフォルニアやコロラド、ミネソタ、オレゴン、ワシントンなど、全体の10分の1程度の州にすぎない。しかも、労働問題の啓発活動家によれば、そうした各州の対策も道半ばだという。

こうした労働者保護のための規制はコスト増につながり、ビジネス上の負担になるとして、業界団体が反発した例もある。

労働省労働統計局によると、2011年から21年にかけて、暑さにさらされる環境を原因とする労災死亡事故は436件だった。

ワーカーズ・ディフェンス・プロジェクトの関連団体であるテキサス州拠点の啓発団体「ワーカーズ・ディフェンス・アクション・ファンド」で州議会対応を担当するダニエラ・ヘルナンデス氏は、「働く人が死なずに済むにはどうすればいいか、という問題だ」と語る。

<失職を恐れる労働者>

カリフォルニア州は2005年から、屋外で働く労働者のために、水分補給や日射しを避けるといった具体的な暑さ対応ルールを導入している。だが活動家らは、現在策定中の屋内労働者を対象としたルールなど、さらなる改善を求めている。

だが一般論として、こうした法律には限界がある。たとえばコロラド州では、法令の対象は農業労働者に限定され、ミネソタ州では屋内労働者しか対象としていない。

オレゴン州は昨年、新たに恒久的な法律を施行し、気温が華氏80度(摂氏26.7度)以上となった場合、屋内・屋外にかかわらず、労働者が簡単に日射しを避け水分を補給できるようにすることを義務づけた。

さらに、気温が華氏90度(摂氏32.2度)になったら、雇用主は実働2時間ごとに10分間のクールダウン休憩を実施しなければならない。

だが、すべての労働者がこの法律による変化を感じているわけではない。ポートランドを拠点とする「ノースウェスト・ワーカーズ・ジャスティス・プロジェクト」に参加するケイト・スーズマン弁護士によれば、ルールを無視する雇用主を、政府の労働安全衛生局(OSHA)に通報することをためらう人もいるという。

スーズマン弁護士はトムソン・ロイター財団に対し、「労働者は、仕事を失うことをひどく恐れている。だから、連邦政府であれオレゴン州政府であれ、当局に協力することにはリスクが伴う」と語った。

2021年、命に関わるレベルの「ヒートドーム」(高気圧の気団)により、平年であれば過ごしやすい太平洋岸北西部とカナダの一部地域で最高気温記録が更新されたことを受けて、オレゴン州と隣のワシントン州は、暑さ対策に関する既存の規制を強化する、あるいは新規に導入するという対応を見せた。

オレゴン州議会は今年、違反者に州が課す罰金やペナルティーを重くし、労働者に「危険な」業務を拒否する権利を与える法律を可決した。

ワシントン州では、日射しを避け、水分補給ができるようにすることを義務づける恒久的な屋外暑さ対策ルールが7月に施行された。基準となる気温は華氏80度(摂氏26.7度)、「通気性のない」服を着ている労働者については華氏52度(摂氏11.1度)となっている。

環境問題に取り組む非営利団体(NPO)「自然資源保護協議会(NRDC)」のメンバーのジュアニータ・コンスティブル氏は、暑さが労働者に与える脅威は「あまりにも過小評価されている」と語る。

コンスティブル氏が共同執筆者に名を連ねた2022年の報告書では、企業数百社がカリフォルニア州の暑さ対応基準に繰り返し違反したにもかかわらず、本来であれば常習違反者に科される追加の罰金を免れていたとされている。この調査によると、ペナルティーが大幅に軽減される、あるいは完全に免除された事例もあったという。

コンスティブル氏はNRDCの気候・健康専門家で、「暑さを原因とする症状の多くは比較的軽症で、応急処置で済んでしまうし、長期にわたって仕事を休む必要もない。だからこんな風に、たいした問題ではないという意識が生まれてしまう」と語った。

米物流大手ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)の配送運転手クリス・ベグリーさんは先月、テキサス州のうだるような暑さの中で倒れ、死亡した。UPSは全米トラック運転手組合(チームスターズ)との契約交渉の中で、来年以降の新規購入車両にエアコンを装備することに同意した。

<進捗の一方で後退懸念も

テキサス州では、州議会が暑さ対策を含む労働者保護を後退させようとしてきた。

州議会は今年、州内の自治体が、州法で認められている範囲よりも厳しい規制を導入できないようにする法案を可決した。

啓発活動家らは、この法律によって、賃金未払い問題から、オースティンなどの地域で労働者に保障されている休憩と水分補給の権利に至るまで、自治体による条例が実質的に無効化される恐れがあると語る。

だが今月に予定されていた施行の直前、州裁判所は同法が州憲法に違反していると判断した。ただし支持者・反対派双方とも、この判決が最終的な結論にはならないだろうと示唆している。

連邦レベルでは、バイデン政権が2021年に一部の労働者に対して休憩と水分補給を義務づける規制の制定に向けて前進を見せ、労働者の権利擁護団体から評価されている。ただし実現には何年もかかる可能性がある。

当面、テキサス州のマロカンさんのような多くの労働者は、引き続き猛暑に悩まされていると語る。マロカンさんは、清掃作業中に、あまりの暑さで仕事を中断せざるをえなかったこともあるという。

「パンを焼くオーブンを開けたときのような感じで息が詰まった」とマロカンさん。「暑すぎて、頭の中に熱が侵入してくるようだった。まるで拷問のように、身体が痛んだ」

(翻訳:エァクレーレン)

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