情報BOX:ロシアによるベラルーシへの戦術核配備、実態と問題点
[27日 ロイター] – ロシアのプーチン大統領は、隣国で同盟関係にあるベラルーシへの戦術核兵器配備を決定し、これは核拡散防止条約に違反しないと主張している。
戦術核兵器とロシアの政策を巡る現状について、以下に解説した。
◎懸念される要素
ロシアのウクライナ侵攻後のプーチン氏による発言を踏まえ、1962年のキューバ危機以降で世界が最も大きな核戦争の危険に直面している、と米国は警告。ロシア側は自分たちの姿勢が誤解されていると反論している。
プーチン氏やロシア政府関係者が国防のためにあらゆる兵器を使う用意があると述べたことから、ウクライナや西側諸国が心配しているのは、戦場に戦術核が投入される可能性だ。
◎核攻撃の準備
ロシアの多くの兵器システムは通常弾頭と核弾頭の両方を搭載できる仕組み。つまり既にウクライナやベラルーシ、ロシアの飛び地の領土・カリーニングラードに配備されたこれらの兵器で、核攻撃が準備されているかどうか判別は難しい。
このため西側が注目しているのは、特にロシアの核弾頭貯蔵施設がある場所の動きだ。
北大西洋条約機構(NATO)は常にこれらの施設周辺に目を光らせているが、ロシアのウクライナ侵攻後はさらに監視を強化している。
核攻撃の準備が始まれば、貯蔵施設付近で軍の活動が高まるからだ。
◎カリーニングラードの位置
カリーニングラードはリトアニアとポーランドに挟まれたバルト海沿岸のロシア領。西側によると、ロシアがここに新型の核弾頭を搭載できる弾道ミサイル「イスカンデル」を配備している。
カリーニングラードからイスカンデルが発射されれば、欧州西部の大半が射程圏内に入る。
ロシアは、フィンランドとスウェーデンがNATOに加盟すれば、カリーニングラードに核兵器と極超音速兵器を置く意向を示してきた。
◎戦術核とは
学界や核軍縮交渉担当者は何年もかけて、戦術核兵器の定義方法を議論している。一般的には、米国やロシアの大都市を壊滅させるような目的でなく、戦場で軍事的な優位を得るために使用される核兵器を指す。
ロシアの正確な戦術核弾頭保有数は、ほとんど知られていない。
ただ、米国とNATO諸国の合計をはるかに上回っているとみられる。米国が見積もるロシアの保有数は約2000発で、自国の10倍以上に達する。
これらの戦術核弾頭はさまざまなミサイルや魚雷、爆弾などの陸海空兵器に搭載して使われる。
米国は200発前後を保有し、その半数が欧州の各基地にある。これら核爆弾「B61」は0.3キロトンから170キロトンまで出力調整が可能で、イタリアとドイツ、トルコ、ベルギー、オランドにある6カ所の基地に配備されている。
太平洋戦争末期の1945年に米軍が広島に投下した原爆の出力は、約15キロトンだった。
◎ロシアの核兵器発射命令者
ロシアの核ドクトリンによると、戦略核であれ戦術核であれ、最終的な発射の決定は大統領が下す。
1991年のソ連崩壊時に、ロシアが保有していた戦術核弾頭は約2万2000発。その大半は解体されるか、解体待ちの状態にある。
残された弾頭は、少なくとも30の基地やサイロでロシア国防省第12総局が管理している。同局を統括するイゴル・コレスニコフ氏は、国防相に直接報告し、指示をあおぐ。
戦術核攻撃の準備手続きは、まず、プーチン氏が安全保障会議の上級メンバーと協議した後、参謀本部経由で核弾頭を何らかの兵器に搭載し、発射命令まで待機させる流れとなる公算が大きい。
プーチン氏は米国の対応を予測することができない以上、ロシアの全体的な核運用体制も変化する。戦略型潜水艦は出港し、ミサイル部隊は全面的な警戒態勢に入るとともに、戦略爆撃機はいつでも離陸できる態勢を整えるだろう。
◎核拡散防止条約との関係
1991年にソ連が崩壊した後、米国はベラルーシ、ウクライナ、カザフスタンに置かれていたソ連の核兵器をロシアに引き揚げさせるために多大な努力をしてきた。
この引き揚げが終わって以来、ロシアはこれまで領土外に核兵器を配備したと発表してこなかった。
プーチン氏は25日、ベラルーシとの合意は核拡散防止条約には違反しないとの見解を示した。同条約はソ連が調印し、ロシアが引き継いでいる。
同条約は、核保有国が核兵器ないし関連技術を非保有国に譲渡してはならないと定めている。ただし、核保有国が自国の管理下で領土外に核兵器を配備することは認められており、米国は欧州でそうした措置を行っている。