漢字を理解して天機を知る『説文解字』

「…倉頡(そうけつ)が文字を作ったとき、天は栗を降らせ、鬼は夜に泣いた…. 」(淮南子)

「倉頡(そうけつ)」とは、4千年前、天上から人間に文字をもたらした人物だと伝えられています。この伝説によれば、倉頡は黄帝の史官で、四つの目をもち、異なる次元が見え、物事が持つより深い意味を読み取ることができたといいます。

 中国、唐の時代、張彦遠は『歴代名画記』の中で、倉頡の伝説について、次のような解釈を残しています。

「人間に文字がもたらされれば、天機(天の智慧)が人間に漏れてしまう。文字を知ると、人間も天機を知ることとなり、天は喜び、粟が天から降って来たのである。一方、文字を通して天上の秘密を知った人間は、世の中の成り立ちを知り、従って居場所がなくなった邪悪な鬼たちは人間を騙したり操ったりすることができなくなってしまった。そこで鬼たちは密かに泣くしかなかったのである」。

「天人合一」という言葉が伝わる中国には、天意がそのまま人間世界にも反映されるという思想があり、それは漢字にも現れています。漢字は中国思想の源とも言える易経、五行説、道教の陰陽説などの他に、天、地球、人間、出来事、物事など全てを文字に表すことができます。

東漢時代の許慎(きょ しん)は、漢字の構成について研究し、『説文解字』にまとめました。彼は、漢字を6種類のカテゴリーに分類しています。

象形:目に見える形をそのまま漢字にあらわしたもの。(例:山、人)
指事:概念を象形化した漢字。(例:一、ニ、三などの数字、上、下など)
会意:2つ以上の文字を合わせて、異なる意味を表すように形成された漢字(例:安-ウ冠は家の屋根を表す。従って、家に女性がいれば全ては安心という意味)
形声:発音に関わる文字と、意味を含む文字のコンビネーション。(例:媽は、中国語で“母親”。右側の“馬”は“マァ-”という発音に由来する。中国漢字の約90パーセントが形声のカテゴリーに属する)
仮借:古代中国では、一つの漢字がいくつもの意味を持つことがあり、その漢字がある意味に頻繁に使われるうちに、元々の意味が消えてしまったもの。
(例:來(来る)は、もともと“麦”という意味だったが、 “来る”という意味の方が、より頻繁に使われた。次第に、 “来る”という意味の方が強くなり、 “麦”を意味する“麥”という漢字が新たに作られた)
転注:歴史的に自然に形成された漢字で、同じ語源だが違った意味と発音を持つようになったグループ。(例: “老”と“孝”)

●男性と女性

“男”は、田んぼと力という文字から成り立ちます。古代中国では男は強く、田んぼで働くものと定されていたようです。男は外の出来事を修めるものであり、従って、農業、戦争、政治、商売などは、全て男が行うべきこととされていました。

“女”のつく漢字は、すべて女性と関係があります。例えば妻、婦、媽(母)などがあります。 “妻”の上の部分は、 “箒”を意味しています。古代中国では、女性は家の中で働き、料理、掃除、針仕事など家事全般を修めるものという考えがありました。

この漢字には深い意味が含まれています。義は、正義、忠義、義理などによく使われます。この漢字を分解すると、 “羊”と “我”になります。羊は、とてもおとなしく、従順で親切な動物であり、また羊の肉は美味で栄養があり、福と繁栄の象徴とされてきました。義は、単純に解釈すれば“我は羊なり”という意味です。人々が羊の肉を捧げ、神を畏れ敬うように、古代中国には、 “義”のためならば自分の命を捧げることも厭わないという英雄、聖女の物語がたくさんあります。中国漢字の“義”は従って、私たちにどうやって人生を送り、己を捧げて人に尽くすことができるか、ということを教えてくれています。