原文
曰水火、木金土、此五行、本乎數。
訳文
曰水火 曰(い)はく水火(すいか)
木金土 木金土(もくきんど)
此五行 此(こ)の五行(ごぎょう)は
本乎數 数(すう)に本(もと)づく
解釈
「五行」とは、水、火、木、金、土のことを指します。古代中国では、これらが宇宙の万物を構成する基本であると考えられており、互いが相互に働きあう、相生相剋(そうせいそうこく)の関係であるとされていました。また、これは自然の摂理で決まっているとされていたのです。
筆者所感
前の二話では、一から万へと続く数字の概念から、自然万物の成り立ちや人との繋がりについて話してきました。人々に広大な宇宙観を感じさせ、人と自然の繋がりは切り離すことのできないものであると教えることで、日々の生活と密接に関わる四季や地理などの天地自然の道理についての理解も深まります。一年に四季の変化があるように、一日の中にも四季同様のリズムがあり、私たちはこのような自然の摂理に従って生きていくべきなのです。そうでなければ作物は育たず、人の健康も損なわれてしまいます。
これは道家の宇宙観に基づいたものであり、人と自然は一体だとする天人合一の基本概念を表しています。ここからは、この自然法則について、さらに一歩踏み込んだ話をしていきましょう。それは、五行が宇宙の万事万物を構成し、これらは相生相剋の関係で、互いにバランスをとって存在しているということです。
- 自然と五行の対応関係
五行:木、火、土、金、水
時令:春、夏、長夏、秋、冬
方位:東、南、中、西、北
気候:風、暑、湿、操、寒
発展:生、長、化、収、蔵
五味:酸、苦、甘、辛、鹹
五色:青、赤、黄、白、黒
- 人体と五行の対応関係
五行:木、火、土、金、水
五臓:肝、心、脾、肺、腎
五腑:胆、小腸、胃、大腸、膀胱
五官:目、舌、口、鼻、耳
形体:筋、血脈、肌肉、皮、骨
感情:怒、喜、思、悲、恐
上記で紹介したこの法則によれば、五行と人体の五臓五味、そして季節との対応関係を理解することで、健康に関する基本原則を把握し、自然のサイクルに沿った生活を送ることができるようになると言います。
例えば、春は五行では木に属し、他にも風や肝臓、青色、酸味、怒気などに対応しています。そのため、春は肝臓を養う必要があります。春に出る緑色の野菜をたくさん食べ、さらに肝臓に直接影響する酸味を適度に摂取すると良いでしょう。また、怒りは肝臓を傷めます。このように、五行の対応関係がわかれば、怒ることでどの臓器に影響するのか、肝臓を強くするには何を食べたらいいのか、風が強い時には暖かくすることが良いなど、健康面にプラスに働くことを把握できるようになります。
そのほか、腎臓は五行の水と対応しており、体の膀胱や骨、耳などと関連しています。漢方医学では、腎臓の働きに問題が生じると、関係するすべての器官に影響し、知能レベルや骨の強度、排泄機能に異常が起こるとされています。腎臓に疾患をもつ人は、よく塩分を摂りすぎないよう言われますが、これは塩分が直接腎臓に入るためです。しかし、塩分が不足すると人は無力なるので、それも良くありません。これも塩分が直接腎臓に入ることに起因しており、塩分は腎臓をはじめ体全体に大きな影響を与えているのです。さらに、五行において黒色も水と対応しており、黒い物を食べると腎臓に良いとされています。
中国の四字熟語に「屁滾尿流」という言葉があります。日本では、驚きのあまり慌てふためくや腰を抜かすなどのように喩えますが、本来の意味は驚いて屁が出てしまったり、恐怖で尿が漏れてしまうことを言います。これも五行が指すところの、腎臓と驚恐という感情の対応関係を表しています。恐怖で腎臓が刺激を受けたことによって、腎臓や膀胱の機能が正常ではなくなり、尿漏れなどが起きてしまうのです。
また、各器官はバランスを保つことが大切です。例えば、甘いものは五行では土に属し、脾胃に対応しています。土は水に打ち勝つ関係にあるので(後半で詳述)、甘いものを食べ過ぎると結果的に腎臓を傷めます。多くの子供たちは甘いものを食べ過ぎたことで、骨が丈夫に育たず、歯並びが悪くなったり、虫歯になりやすくなるのです。そのため、各器官はバランスよく健康であることが好ましく、どの器官が強すぎても弱すぎても、健康を害するものです。
これら五行の基本の構成や関係性がわかるようになれば、自分の体について、どのように自然に順応させるべきか、感情をどのようにコントロールするべきかが全て把握でき、健康を保つことができるようになります。この五行思想は、非常に完成度の高いバランスの取れた、広く奥深い養生観なのです。
古代の人々が儒学におけるこの道理を説いたのは、主に国家の安泰と繁栄を目的としていました。我々人間に関わるすべてのことは五行思想と通じており、その運用範囲は広きにわたります。ここでは、その一例として健康に関する話を挙げたに過ぎません。
故事寓話「相生相剋の五行学説」
五行は、この世の万事万物の起源と多様性を説明するものです。これらは相生相剋の関係で、互いに働き合い、補い合っています。「相生」は生む方向性の働きをし、滋養や養生、促進といった相手を生じる関係を言います。一方、「相剋」はやっつける方向性の働きをし、抑制や排斥、制限といった相手を抑える関係のことを表しています。
五行の法則における「相生」は、金生水、水生木、木生火、火生土、土生金(注1)の関係で成り立っています。一方「相剋」は、金剋木、木剋土、土剋水、水剋火、火剋金(注2)の関係が働いています。このような五行の生剋関係によって、物事の正常な成長と調和が保たれているのです。
五行を提唱したとされる思想家に、鄒衍(すうえん)という男がいました。彼は、天子たる者は「五行」のうち「一徳」を備えていなければならず、そうでなければ皇帝の座にはつけないと考えていました。もしその徳が弱まれば、五行のうち別の行に取って代わられるとしていたのです。
かつて五帝の一人と言われていた黄帝は、「土」徳を持っていたと言われています。しかしその後、次第に土徳が弱まり、土に打ち勝つ「木」徳を持つ禹(う)帝が力を付け、皇帝になりました。木徳が衰退してくると、今度は木に打ち勝つ「金」徳が高まり、金徳を持つ湯王(とうおう)が皇帝の位につきました。そしてやがて、金に打ち勝つ「火」徳が力を付け、火徳を持つ周の文王(ぶんおう)が皇帝になりました。中国の王朝はこのようにして続いていったと言われています。
——正見網『三字経』教材より改編
つづく
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。