アッシリアの壁の浮き彫り。(Shutterstock)

失われた古代の図書館(1)アッシリア帝国 アッシュル・バニパルの図書館

人類は古代から知識を文字で書き残し、伝承してきました。そのため、書物とそれを収める図書館は貴重な存在とされ、歴史のなかで大きな役割を果たしてきました。図書館は往々にして立派な建築であり、内容の装飾も芸術的です。アルゼンチンの文学的巨匠ルイス・ボルヘスはかつてこう言いました。「楽園があるとするならば、それはきっと図書館のようなところであるはずだ」 

図書館に収められている書籍は知識の宝庫です。ドイツの著名な詩人ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテは「経験豊かな人は、片方の目でページの内容を読み取り、もう一方の目で行間を読む」と言いました。歴史上の多くの著名な学者も、図書館と切り離せない関係にあります。 

オリエント世界では紀元前より図書館が存在し、粘土板やパピルスを媒体として情報が記録されていました。ビザンツ帝国(東ローマ帝国、395-1453年)では多くの修道院や大聖堂の図書館が建造され、規模こそ大きくないものの、貴重なキリスト教の経典や古代ギリシャ、ローマ時代の書籍を多く保存し、のちのルネサンスに大きな影響を与えています。 

東アジアでは中国を中心に国立図書館が建てられ、政府の役人が管理を行いました。皇帝が編纂を命じた書物を保管する専門の書庫も作られ、文化の発展に貢献しました。 

それでは、かつて存在していた古代の伝説的な図書館について見ていきましょう。

古代の奇跡=アッシュル・バニパルの図書館 

アッシュル・バニパルは新アッシリア帝国の黄金期の最後の王です。度重なる遠征を行い、多くの敵と戦ったいっぽう、文化を重んじ、博識かつ多才で、熱心な読書家でした。アッシュル・バニパルの図書館の遺跡から発掘された粘土板のなかには王の自叙伝があり、次のような文言がありました。 

「私、アッシュル・バニパルは知恵の神ナブーに触発され、広く書物を読む必要性を感じた。私は本を読むことで、国を治めるとは何たるかを学ぶことができる。読書は、知識や能力を向上させるだけでなく、高潔な振る舞いを身につけることができるのだ」 

アッシュル・バニパルの治世(紀元前八世紀末)には、当時の首都ニネヴェに図書館が建てられました。エジプトのアレクサンドリア図書館よりも四百年早かったのです。また、書物は粘土板でつくられていたため、アレクサンドリア図書館の書物のように戦火で壊滅的な損害を受けることなく、多くが今日まで保存されました。ニネヴェの図書館は王の名前にちなんでアッシュル・バニパルの図書館と呼ばれるようになりました。 

古代において、知識は非常に神聖なものとされ、高等教育機関や蔵書室は寺院や聖廟の中につくられていました。そして見張りの祭司によって守られていました。 

アッシュル・バニパルの図書館は、現在発掘された古代文明の図書館遺跡の中で、最も保存状態が良く、最も規模が大きいものです。驚くべきことに、出土した三万冊近い「本」はすべて粘土板でできているのです。これらの有名な粘土板には、古代のメソポタミアで使用された楔形文字の一種が使用されています。粘土板には叙事詩、祈祷文、交易記録、献上品のリスト、行政命令、天文学に関する資料などが刻まれています。粘土板は三万点以上も見つかっています。 

アッシュル・バニパルの図書館の蔵書コレクションの分野は多岐にわたっており、哲学、数学、言語学、医学、文学、占星術など、当時の知識のほぼすべてを網羅しています。特に貴重なものとして、歴史上初の英雄的叙事詩、「ギルガメッシュ叙事詩」も所蔵されていました。粘土板の制作と使用は紀元前後まで続き、その後羊皮などに取って代わられました。 

アッシュル・バニパル王の死後、アッシリアは衰退し、首都ニネヴェは紀元前612年に破壊されました。そのとき、アッシュル・バニパルの図書館も破壊され、19世紀に発掘されるまで、人目につくことはありませんでした。 

(新紀元より)

(編集・王文亮)

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