董宇紅博士が語る「風邪から得られる免疫力」
欧州のウイルス学専門家でバイオテクノロジー企業の首席研究者である董宇紅博士が、季節性インフルエンザに感染することによって得られた抗体が、中共ウイルス(新型コロナウイルス)の感染を抑制する可能性について、以下のように語りました。
「交差反応」による免疫形成
インペリアル・カレッジ・ロンドンの研究者レア・クンデュ博士がこのほど、医学誌『ネイチャーコミュニケーションズ』に、ある研究を発表しました。
それによると、「季節性インフルエンザなど通常の風邪を引いたことにより、強力な免疫力を得られた人がいる。その人は、新型コロナウイルスに感染しにくくなっている」と言います。
私たちは、誰でも風邪を引いた経験をもっています。
年に1回、季節性インフルエンザに罹ることは珍しくないので、一部の人の体内には、いつの間にかオミクロン株に対抗できる免疫力が備わっているかもしれません。
なぜ通常の風邪をひいたことが、オミクロン株の感染防止に役立つのでしょうか。実は、そこにはウイルスがもつ「交差反応」との関係があります。
ウイルスは表面に抗原を持っています。
ウイルスが人体に感染すると、体からはB細胞やT細胞など、ウイルスに対抗する免疫細胞が大量に出現してきます。これらの免疫細胞とウイルス抗原は、鍵と鍵穴の関係のように特異的であり、特定の免疫細胞が特定のウイルス抗原を認識して攻撃するのです。
1種類のウイルスは複数の抗原を持つため、普通の風邪ウイルスに感染した場合でも、出現する免疫細胞は1種類だけではありません。
免疫細胞のうちのいくつかがオミクロン株の抗原を外敵と認識した場合、それに対する免疫機能を発揮することができます。これが交差反応と呼ばれる現象です。
「免疫力の共有」が起きる
つまり、すでに病歴のあるインフルエンザウイルスが新型コロナウイルスと同じ配列を持っていた場合、「免疫力を共有できる」ということなのです。
流行性感冒を引き起こすインフルエンザウイルスは非常に種類が多く、現在、コロナウイルスの「同族類」には7種類のウイルスが存在します。
そのうち4種類はヒトコロナウイルス229 E、NL 63、OC 43、およびHKU 1であり、各種の風邪症状を引き起こすものです。他の3種は、SARS、MERS、新型コロナウイルスなどで、より重篤な肺や呼吸器、全身疾患を引き起こす可能性があります。
クンデュ博士は、風邪の原因となる2種類のウイルスと新型コロナウイルスの間には、遺伝子配列が一部共通しており、ヌクレオカプシドタンパクが2カ所、スパイクタンパクが5~6カ所など、遺伝子配列が一致していることを発見しました。下図、赤い線の部分です。
遺伝子配列とは、生体がタンパク質を形成するための「設計図」です。すなわち、生体が必要とするタンパク質は、特定の遺伝子配列に合わせて「施工」することで適合するものが次々作られるわけです。
そのため、通常の風邪が治癒した後も、体が作り出した免疫細胞が新型コロナウイルスに結合し、風邪ウイルスと「同配列」のタンパク質の抗原になることで、免疫力が共有されることになるのです。
これは、風邪ウイルスに罹患することで、一部分ではありますが体内に「免疫記憶」ができるため、オミクロン株など新型コロナウイルスの感染に対抗できることを意味します。
感染後、どこまで免疫反応が続くか
ただ、ここでご注意いただきたいことは、風邪を引き起こす病原体は多いので、T細胞など免疫細胞を刺激しても、必ずしも新型コロナウイルスに対する交差反応を引き起こすとは限らないということです。
したがって、単純に風邪をひいたからといって、新型コロナから身を守ってくれるとは限りません。やはり、一人ひとりの天然免疫力の強さが肝要なのです。
自然に新型コロナウイルスに感染した人は、免疫力が正常であれば、完治した後に体が受けた免疫反応は比較的長く、持続します。
昨年1月、米カリフォルニア大学サンディエゴ校の研究員ジェニファー・ダン氏は、学術誌『サイエンス』に掲載された論文で、新型コロナウイルス感染者の体内の免疫細胞の記憶力を研究した結果、T細胞の免疫記憶が最も長く維持されることを発見しました。
免疫細胞は主にメモリーB細胞、抗体、ヘルパーT細胞、キラーT細胞の4種類に分けられます。これらは全体的に、感染後1カ月以上は免疫記憶が維持されます。
それぞれの特徴は、以下の通りです。
1、メモリーB細胞
免疫記憶を一定期間保持する抗体を産生します。
2、抗体
体内では比較的長く保存されますが、約6カ月で免疫記憶の半分以上が失われます。
3、ヘルパーT細胞
免疫記憶を伝える細胞で、ウイルス感染してから6~8カ月後も免疫記憶の92%を保持します。
4、キラーT細胞
一定期間維持されますが、ウイルス感染後6~8カ月までに半減します。
(口述・董宇紅/翻訳編集・鳥飼聡)