にんにくは、料理の風味を引き立てる定番の香味野菜として、多くのご家庭で使われています。炒め物の香ばしい香りづけには欠かせない存在ですが、実はそれだけでなく、健康維持にも多くの効果があることが、近年の研究で明らかになっています。中でも注目されているのが「心臓の保護効果」です。では、専門家の見解を見てみましょう。
イギリスのキングストン大学薬学実践部門の上級講師、ディパ・カムダール氏は、ウェブサイト「The Conversation」で、にんにくの持つ驚くべき健康効果について紹介しています。
にんにくが「自然の良薬」と呼ばれてきた理由は、その成分にあります。にんにくには硫黄を含む化合物が豊富に含まれており、代表的なものに「ジアリルジスルフィド」や「S-アリルシステイン」などがあります。これらの成分が、にんにく特有の強い香りを生み出すと同時に、健康への働きも持っているのです。
中でも特に研究が進んでいるのが「アリシン」という成分で、これはにんにくを刻んだりつぶしたり、噛んだりしたときに発生します。アリシン自体は不安定で、すぐに他の硫黄化合物に変化しますが、それらが私たちの体にさまざまな良い効果をもたらすと考えられています。
では、にんにくにどのような健康効果があるのか、具体的に見ていきましょう。

心臓の健康を守る
にんにくは、心臓や血管に対する効果で数多くの研究対象となってきました。にんにくのサプリメントには高血圧を下げる効果があり、ある研究では、一部の処方薬と同等の作用があることも示されています。高血圧の改善は、心血管疾患のリスクを減らす重要なステップです。
その理由として、大にんにくの抽出成分が動脈の柔軟性を高め、血液が流れる際に血管がスムーズに広がったり縮んだりするのを助けることが考えられています。動脈が硬くなると、心臓への負担が増し、心疾患のリスクが高まるため、柔軟性の維持は非常に重要です。
さらに、にんにくに含まれる化合物は、体内で硫化水素(H₂S)や一酸化窒素(NO)の産生を促す働きがあります。これらのガスは体内で自然に作られ、血管を広げ、血流をスムーズにする役割を果たします。アリシンには、血管を収縮させるホルモン「アンジオテンシンII」の作用をブロックする働きもあり、それが血圧低下に寄与しているとされています。
また、にんにくは血中のコレステロール値、特に悪玉とされる「LDLコレステロール」の減少にも効果があるとされます。ある研究では、LDLがやや高めの人が2か月以上にわたってにんにくを摂取したところ、最大で10%近く減少したという結果が出ています。
その背景には、にんにくに含まれる成分が肝臓での脂肪やコレステロールの生成を抑える働きを持っていることが挙げられます。さらに、LDLコレステロールの酸化を防ぎ、動脈硬化の原因となる「プラーク」の形成を防ぐ可能性もあるのです。酸化は心臓病のリスクを高める大きな要因とされており、これを抑えることが心臓の健康維持につながります。

免疫力アップ
にんにくには、免疫力を高める働きがあることも、さまざまな研究によって示されています。特に「アリシン」と呼ばれる成分には強い抗菌作用があり、これまでに細菌・ウイルス・真菌に対する効果が確認されています。
たとえば、熟成にんにくエキスを摂取した人は、風邪やインフルエンザにかかった際も症状が軽く、回復が早く、仕事や学校を休む日数も少なかったという研究報告があります。
また最近の研究では、にんにくが特定の白血球(免疫細胞)を活性化することで、免疫システムを強化する可能性があることが分かっています。活性化が確認されている細胞には、マクロファージ(貪食細胞)やリンパ球(T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞など)があります。
さらに、にんにくには炎症を調整する働きもあり、これは免疫反応において非常に重要な要素です。
がんの予防にも期待
初期の研究では、にんにくの摂取が消化器系や大腸、肺、泌尿器系など、特定の種類のがんのリスクを下げる可能性があることが示唆されています。
2019年に発表されたある研究では、にんにくががんの発生と進行の過程に関与するいくつかの重要なメカニズムに影響を与えることが明らかになりました。たとえば、がん細胞の分裂を抑えたり、腫瘍に血管が形成されるのを防いだり、がん細胞の自然死(アポトーシス)を促進したりするなどの働きが報告されています。これらの作用は、にんにくが細胞の成長や行動を制御するシグナル経路に影響を及ぼすことと関係しています。
また、にんにくに備わっている抗酸化作用や抗炎症作用も、がん予防に貢献していると考えられています。

どれくらい食べればいい? 注意点は?
では、にんにくは1日にどのくらい食べればよいのでしょうか?現時点では、明確な「公式な摂取量」は定められていません。ただし、多くの研究では、1日1~2片のにんにくを目安に摂取しています。
にんにくは、食物繊維、ビタミン、植物由来の化合物なども含んでおり、これらはサプリメントにはあまり含まれないため、可能であれば「食べ物として」摂取する方がより効果的だとされています。
ただし注意が必要なのは、「生のにんにく」や「大量に摂取した場合」です。生のにんにくを多く食べすぎると、腹部の膨張感やガス、胃もたれなどが起こることがあります。過敏性腸症候群(IBS)、胃酸の逆流がある人、また妊娠中の方は、にんにくに対して敏感な場合があるため、様子を見ながら取り入れることが勧められます。
また、にんにくを食べると「口臭」や「体臭」が強くなることがあります。これはアリシンが分解される際に発生する硫黄化合物によるもので、特に「アリルメチルスルフィド」という成分は体内で分解されず、呼吸や汗を通じて排出されるためです。
さらに、大量のにんにく摂取は一部の薬との相互作用にも注意が必要です。たとえば、アスピリンやワルファリンなどの血液凝固抑制薬の作用を強め、出血リスクが高まる可能性があります。また、にんにくには血圧を下げる働きがあるため、降圧剤を服用している人も注意が必要です。
カムダール氏は、「現在治療中の病気がある人や薬を服用している人は、大量のにんにくを食べる前に、医師または薬剤師に相談してください」と助言しています。どんな天然成分でも、適量を守ることが健康への第一歩です。
また、日本の中医師・李健樺氏も、エポックタイムズの取材に対し「重い持病がある方や薬を服用している方は、にんにくの摂取量に注意が必要」と話しています。
これは、にんにくが「発物」に分類される食材であるためです。発物とは、体質によっては特定の病気を悪化させたり、治療中の薬の効果を妨げたりする可能性のある食材を指します。過剰に摂取することで、持病の再発や症状の悪化を引き起こす場合があるため、注意が必要です。
(翻訳編集 華山律)
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