昔の人々は、どのようにして髪を染めたのでしょうか。
現代で言えば「カラーリング」に当たるのでしょう。加齢によって増えた白髪を、なんとか染めたいと考えるのは、男女を問わず、いつの時代も同じです。昔の人は、どうやって髪を染めていたのでしょうか。
男性でも、白い髪や髭を黒く染めました
唐代の大学者である韓愈(かんゆ)は、40歳にもなっていない時に「目がかすみ、髪も青白くなり、歯がぐらついている」といって自身の老いを嘆きました。
韓愈とほぼ同時代の詩人である劉禹錫(りゅううしゃく)の詩文からは、唐代の男性が髪や髭を黒く染めて、若い頃の姿をなんとか保とうとしていたことが伺われます。
その唐代より400年ほど前の東晋(とうしん)時代に、神仙術についての大著『抱朴子(ほうぼくし)』を著した葛洪(かつこう)は、同じくその著作『肘後備急方』のなかで、いくつかの染髪の古法について記載しています。
例えば、このような方法です。
飲み薬としては「槐(えんじゅ)の実を牛の胆嚢に漬けて100日間、陰干しにする。その黒い丸薬を、毎食後に1粒ずつ服用する。30日ぐらいから髪は黒ずみ、100日ですっかり黒くなる」。
髪につける染料としては「黒豆を酢で煮て、どろどろになるまで溶かす。これを髪や髭に塗ると、漆のように黒く染まる」。
黒髪を生やす方法としては「白髪がまだ少ないときの処方として、その白髪を抜き、毛根に白蜜を塗ると、黒髪が再生してくる。眉を長くしたい場合は、針を刺して穴をあけ、白蜜を塗ると、黒い眉毛が生えてくる」というものです。
なお、先述の古書『肘後備急方』によると、「黒髪の再生のために白髪を抜く場合でも、定められた吉日(およそ月1回)がある」と言います。
「全身的な養生」が漢方のヘアケア
唐代の大医学者、孫思邈(そんしばく)の大著『千金翼方』の記載によると、綿布の藍染めにつかう「藍草」について、その実は人体に無毒であるとした上で「この実を長期にわたって服用すると、白髪はなくなり、体も軽くなる」と言います。
また唐の玄宗皇帝の時代。医学者である王燾(おうとう)が編纂した『外台秘要』には、白髪を黒くするための方法が多く記載されています。
それらを見ると、やはり古くからの染め物の成分が多く含まれており、白布と同じように「白髪を染めたい」という切実なニーズを反映したものになっているようです。
例えば、「黒い麻の実を蒸して、日に晒すこと9回。それを砕いてから棗のクリームに練り込んで丸薬とする。長期にわたって服用すると髪が黒くなってくる」「ムクゲの葉を搾った汁と、熱いお湯で髪を洗う」
「黒い桑の実の水で髪を洗う。または濃い汁を直接髪に塗る」「烏梅(うばい)を漬けこんだ生のゴマ油を髪に塗る」などがあります。
このような染髪の方法と処方の多くは、古代の漢方医師の手によるもので、晋唐以来ずっと関連する書籍があります。
注目すべきは、これらの処方の染髪効果は意外に高く、時間を経て洗髪しても色あせしないことです。漢方医学は人体のもつ活力を高めますので、それは同時に人間の美しさの体現にもつながっているのです。
漢方医学では、昔から「髪の毛を黒くすることは、腎臓の養生と一体の関係である」と明言しています。つまり漢方医にとって、ヘアケアは全身的な養生の一環なのです。
これは、化学的な薬剤で髪を染める現代の方法とは根本的に異なる方法です。
もしも、自分の人生を青年期からやり直すことができるならば、白髪にならず見事な黒髪を長く保つ漢方の方法は、必ず現代の「超流行」になることでしょう。
(文・容乃加/翻訳編集・鳥飼聡)
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