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農科学もうひとつの道 完全自然農法

5. 植物と微生物の共生関係~すべての生き物が微生物と共生している

いま、自然農法は進化している。もしこれから、園芸を始めようと思ったり、自給自足を実現しようと思ったりしたなら、自然農法について一度は学んでおくことをお勧めしたい。ただし、いまの一般的な農業技術と進化した自然農法とのギャップはとても大きいので、自分の中にある常識を事前にリセットしておくことが必要になるかもしれない。

私たち現代人は、子供を育てるとき、「子供に何を食べさせようか?」と悩む。ペットを飼うとき、「どんなエサを食べさせたら良いか?」と悩む。そして、花や野菜を育てようとするときも、「どんな肥料を与えれば良いか?」と悩む。「何か生き物を育てるには、養分が必要だ」と思っているからだ。

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では、植物を育てるのに、本当に養分(肥料)は必要だろうか?

いま、園芸のテキストを読むと、「適切な肥料が必要である」と書かれている。実際、趣味の家庭菜園にしろ、農業への新規就農にしろ、ほぼすべての人が農作物を育てるには肥料が必要だと思っているだろう。あるいは、仮に肥料を使わないとしても、「肥料に代わる何か」を土に投入しなければいけないと考えるだろう。その何かとは、農地に生える雑草を刈り取ったものであったり、培養された微生物であったり、「肥料には属しないけれども、農作物の養分となるような何か」を想像するに違いない。

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筆者が経営する農場を訪ねてくる人たちも、「この農場では肥料を一切使っていない」と説明すると、例外なく「では何を使っているのですか?」と尋ねてくる。大きく艶やかに実るスイカ、エグミも苦味もない瑞々しいピーマン、しっとりした滑らかな舌触りの甘いカブ。どれも濃厚で風味豊かな野菜を畑で試食しながら、「肥料は一切入れていない」という説明に対して、自分の中にある「常識」が拒絶反応を引き起こしているのかもしれない。しかし、その質問に対する答えはいつも同じだ。

「畑には何も入れません。常に、農作物を一方的に取り出すだけです」

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肥料や農薬に頼らない農業技術を自然農法という。そして、畑の土壌分析をしても、現代農業でいう肥料分(養分)は検出されない。それでも、さまざまな野菜は立派に育つ。そこには、現代農業とはまったく異なる考え方、理論が存在している。

もともと自然農法という言葉は100年前からあり、多くの実践者が個々に理論(持論)を唱えていた。しかし、なぜ野菜が育つのかという仕組みについては、「自然の力」とか「土の力」、あるいは「植物の力」などの言葉でしか表現できず、理論といっても、とても抽象的で、再現性に乏しいものだった。もともと取材者であった筆者は、自然農法が万民の技術として進化すべきだと感じた。そして心機一転、自ら研究の道に入り、量子物理学も含めた最新の科学の成果を取り入れて、自然農法の理論化と実践研究を続けてきた。その結果、2015年7月に、日本では初めて農業の理論特許が認められた。この理論は、仲間からアイデアをいただき、ハル農法と名付けた。

参考写真 農場見学でハル農法について説明する筆者(左から4人目)

特許については、世間で誤解されている面があるかもしれない。筆者が、従来の自然農法の技術で、ちゃっかり特許を取ってしまったのだと。実際、自然農法の実践者のなかには、そのように非難する声もあったと聞いている。しかし、特許の審査というのは厳密で、もし類似した考え方、アイデアがすでに存在している場合、すぐに申請は却下されてしまう。つまり、筆者が提案した理論は、類似した考え方もアイデアも存在していなかったということになる。

従来の技術とまったく違う点こそが、「野菜は養分で育つのではなく、自然界にはどんな植物も自動的に育つ仕組みが存在している」という考え方だった。そして、その鍵を握っているのが、植物と微生物との共生関係なのだ。

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このことは、人間が誕生するはるか昔、火山活動によって陸地が生まれ、植物の祖先が海から上陸を始めた四億年前にさかのぼる。当時は、陸地に養分などなく、植物の祖先も自力で陸地に繁殖する能力はなかった。そこで長い時間をかけて、ある種の微生物と共生関係を結び、両者がセットになって陸地に繁殖していったことが、化石の発掘によって発見された。それ以降、あらゆる植物は、それぞれ特定の微生物と共生することで、内陸に広がり、豊かな森林を築いてきたことが分かっている。

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ハル農法は、この植物と微生物の共生関係を農業に応用した技術なのだが、実は、私たち人間にとっても、とても重要な意味を持っている。最近は「腸内フローラ」とか「腸活」という言葉がよく使われるようになった。腸内細菌の状態が健康に深く関わっていることが分かってきたからだ。そして、消化器官に微生物が存在するのは、人間だけにとどまらず、実は地球のすべての動物は、それぞれ腸内フローラを持つし、皮膚の常在菌とも共生関係にあることを想像していただきたい。微生物との共生関係に着目すると、これまでとは別の世界が目の前に広がっていくはずだ。

つづく

執筆者:横内 猛



自然農法家、ジャーナリスト。1986年慶応大学経済学部卒業。読売新聞記者を経て、1998年フリージャーナリストに。さまざまな社会問題の中心に食と農の歪みがあると考え、2007年農業技術研究所歩屋(あゆみや)を設立、2011年から千葉県にて本格的な自然農法の研究を始める。肥料、農薬をまったく使わない完全自然農法の技術を考案し、2015年日本で初めての農法特許を取得(特許第5770897号)。ハル農法と名付け、実用化と普及に取り組んでいる。

※寄稿文は執筆者の見解を示すものです。

※無断転載を固く禁じます。
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