金メダルを獲得した全紅婵選手 (Photo by Tom Pennington/Getty Images)

農村部出身の中国14歳女子飛び込み金メダリスト、「母親の治療費のため」貧困問題浮き彫りに

東京オリンピック女子飛び込み10メートルで、10点満点をマークし金メダリストとなった14歳の全紅婵(クアン・ホンチャン)さんは、試合後の記者会見で、選手人生を選んだ理由について「母親の病気の治療費のため」と語った。貧困地域出身の彼女の言葉から、中国農村地域の貧困問題と医療問題が浮き彫りになった。

話すのが不得手な全さんは、競技後の会見で率直な思いを吐露した。「練習。ただただ練習してきました。母親は病気です。しかし私はその(病名の)漢字の読み方が分かりません。どのような病気にかかったのかもわかりません。ただお金を稼ごうと思って、私は母親の病気を治したいのです。たくさんお金を稼いで、治したい…」

ショートヘアであどけなさの残る顔立ちの全さんは自身の生活について、「まだ…遊園地にも行ったことがありません。動物園にも行ったことはないです。オリンピックが終わったら、ユーフォーキャッチャーを遊んでみたいです」と恥ずかしそうに語った。「今夜はたくさん美味しいものを食べたいです。特に辛い駄菓子が食べたい」。

中国共産党体制のもとでは、プロスポーツ選手は幼少期から厳しい訓練を日夜継続しており、世間と触れ合う機会や教養を身に着ける余裕がないと言われる。7歳で故郷を離れスポーツ選手の人生を歩む14歳の全さんも、訓練に明け暮れる子供時代を送ったことは想像に難くないだろう。

米ラジオフリーアジア(RFA)の取材に答えたある地方出身者は、家族の医療費に加えて国の威信さえ背負わなければならない彼女に同情を示した。「特に農村部の子供にとって生き残ること自体簡単ではありません。それゆえ彼らは一度希望の光を見ると、全身全霊でそれを追いかけます。死に物狂いで成功を収めようとするのです」。

全さんの家族は、中国南部にある広東省湛江市の村落に住んでいる。彼女の母親と祖父は長年病気を患っており、貧困にあえいでいる。

いっぽう、この貧困世帯の抱える生活苦は、すぐに金メダルを祝う爆竹の音と喧騒にかき消された。彼女の実家には地方の共産党幹部、オンライン放送で投げ銭を稼ぐインフルエンサー、野次馬などが次々と殺到した。観光地と化した質素な家の前で、耳をつんざくような爆竹を投げている様子がネットに投稿された動画に映っている。

この貧困一家は、企業のCSRの目にとまったようだ。湛江市の3つの企業は、全さんの家族に、豪華な家具付きの家と店舗、そして現金20万元(約340万円)を贈ると発表した。 湛江市衛生局と広東医科大学病院の代表者は8月6日、全さんの家族を慰問し、医療費を全面的に支援すると申し出た。

しかし、全さんの祖父と母親は、なぜ長い間適切な治療を受けられなかったのか。そのことに疑問を抱く人は多くはないようだ。

周辺情報によると、全さんの母親は数年前、通勤途中に交通事故に遭い、数本の肋骨を骨折した。しかし貧困に苦しむ一家は治療費をねん出することができず、そのまま放置することになった。中国政府が2004年から試験的に導入している新しい農村協力医療制度(NRCS)も、手続きの煩雑さと個人負担率の高さなどの問題があり、全さん一家の助けにならなかった。中国の農村部ではいまだに貧困問題が根強く残っており、今回明らかになった全さん一家のケースはあくまでその氷山の一角に過ぎない。

(翻訳・大紀元日本語編集部)

関連記事
湖南省株洲市の湘江で、ウイルスサンプル収集用試験管が大量に発見され、住民たちは感染リスクに怯えています。当局は「未使用で損傷はなく、ウイルスは検出されなかった」と発表しましたが、専門家や市民の間で疑問の声が広がっています。試験管の正体や流出の経緯について調査が進む中、不安は収まりません。病院も研究所を信用できないのは間違いない。中国ではコロナが収束していないというのは、こういうことなのか?
米司法省は最近、IR事業をめぐり日本の政府関係者に賄賂を渡すよう指示して、中国企業のCEOを海外腐敗行為防止法違反の容疑で起訴した。
ニセモノ摘発も命がけ、道徳低下した中国社会。中国福建省の展示会で、偽商品の摘発を目的とするインフルエンサーが暴行を受ける事件が発生しました。「福建鉄鉄」のカメラマンが問題商品を通報したことがきっかけで、出品者らから集団暴行を受けたとされています。この事件は、中国SNSやメディアで大きな注目を集めており、現在、市場管理局と公安当局が調査を進めています。偽商品撲滅の活動が招いた事件の経緯とその背景に迫ります。
19日、中国江蘇省連雲港市にある国有企業「中国化学工程第十四建设有限公司」の正門前で、ある女性が滞納された給料の支払いを求めて会社管理者の足に抱きつき泣き叫ぶ姿が撮影されました。この動画はSNSを通じて拡散され、多くの人々に衝撃を与えています。女性の訴えに耳を貸さない企業の対応と、中国社会で頻発する同様の問題に、ネット上では悲しみと怒りの声が相次いでいます。「惨め過ぎる」労働者の姿。官製メディアが宣伝する「盛世(繁栄)」中国のリアル。経営者が人間なのか? 人間であれば、会社をつぶす決意をして、会社財産を売って、給料を支払うはずだが。
湖北省武漢市で、配達食注文に対するクレームが原因で、配達員がナイフを持って客の家に押し入ろうとする衝撃的な事件が発生した。監視カメラには、ドアを内側から押さえる家主と、外でナイフを振り上げながら脅す配達員の姿が記録されている。この事件をめぐり、SNSでは中国社会のストレスや労働環境への懸念が噴出。「極限状態にある人々の行動は予測不能」といった声も広がっている。 至るところに「火薬庫」の中国、言動を慎まないと、いつどこで殺されるかわからない。