(Aechempati/Creative Commons)
≪医山夜話≫ (22)

夫婦喧嘩

 白熱したケンカの原因は、パンを厚切りにするべきか、それとも薄切りにするべきかについての論争でした。ダイアナとスティーブはお互いに信仰や生活スタイル、観念が異なるため、ケンカはますますエスカレートしました。彼らは互いに攻撃しあい、荒っぽい言葉も口から飛び出して、二人とも顔面蒼白になりました。ダイアナは6カ月の娘を夫の手元に残し、2階へ上がっていきました。10分ほど経ち、娘の泣く声が聞こえきたので下へ降りてきたダイアナの目に映ったのは、夫の息苦しそうな光景でした。このようなことは過去にもありました。スティーブは、「119に電話してくれ、私はもうだめだ…」と彼女に頼んできましたが、ダイアナはあまり気にかけていませんでした。電話をかけた後でも、心の中では先ほどのケンカの場面を思い浮かべ、今度反論したらきっと彼の言い分がなくなる、と彼女は考えたりしていました。

 しかし、救急車で運ばれて1時間も経たないうちに、スティーブは心臓病発作で亡くなりました。彼はひと言も残さずに、この世を去りました。彼が厚く切ったパンは、そのままテーブルに残っていました。

 ダイアナはうつ病を治療するために、私の診療所に来ました。雨の降る日で、彼女はとても気を落としていました。

 「先生、人間は蘇って、もう一度生きることができますか?」

 「……」

 「もし私が再びスティーブと一緒に暮らすことができれば、きっと彼を大切にします…」。ダイアナは夫を失った後、彼の良いところをたくさん思い出したのです。

 「とても後悔しています」と言うと、彼女は声も出ないほど泣きだしました。彼女は、自分が人に厳しく、すぐに文句を言う性格であること、また頑固で怒りっぽく、何かあったらよく人のせいにすることなど、自分の欠点を挙げました。

 スティーブはもう、永遠に戻ってきません。友達には気楽に言えた「ありがとう」という言葉も、ダイアナは夫に言ったことがありませんでした。今はその言葉を心から言いたいのに、言うこともできません。彼女の後悔は、言葉で表現できるものではありませんでした。

 夫を亡くしてから、ダイアナはうつ病になり、またエリテマトーデス(自己免疫疾患の一種)にかかりました。この病は、悲しみ、悔やみ、自分の過ちを責めることなどが原因でかかります。彼女はますます困惑し、いろいろな治療法を探しましたが、病状は日ごとに重くなる一方でした。手の施しようがないところで、漢方を試してみようと思いたち、私のところへやって来ました。

 「こんなに多くの苦しみから、何かを習いましたか?」と私は聞きました。

 意外にも、彼女の答えは「自分を知ることができました」と答えました。

 「えっ?」

 「私は自分を変えることが嫌いで、ずっと人を変えようとしてきました。結局、一番自分が気に食わない他人の短所は、ちょうど自分の短所でもあることに気づきました。例えば、スティーブのことを怠け者だと私はよく言っていましたが、実は、私もとても怠けていました。スティーブの欲が深いとよく言いましたが、私も同じくらい欲深いのではないでしょうか。 ケンカする時、私の性格の中の悪い部分、善良でないものが全部暴き出されます。腹を立てると全然怒りを抑えきれなくて、自分のうっ憤を晴らすために、思いきり彼を責めます。私に勝てないため、彼のうっ憤は全部心の中に溜まっていたのでしょう…私の欠点を直すために、彼は一歩先に逝って私を残したのです。来世もし生まれ変わることができれば、私は純粋で良い人になりたいのです」と訴えました。

 私は修煉のことに触れました。真・善・忍に話がおよんだ時、ふと見ると彼女の目はきらきらと光り、今まで全然知らなかった道理をより多く聞き入れようとしていました。

 善悪には報いがあるということ、因縁関係、病気に罹る本当の原因を聞いて、彼女は突然椅子から立ち上がりました。そして、「分かりました!」と言いました。

 「何が分かったのですか?」

 「穏やかで寛容な心です」 

 

(翻訳編集・陳櫻華)

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