【紀元曙光】2020年1月7日

久しぶりに映画館へ足を運び、松竹映画「男はつらいよ50 お帰り寅さん」を見た。

▼主演の渥美清さんが亡くなったのは1996年8月。寅さんシリーズの第48作が遺作となった。その寅さんが旅先から必ず帰るのが、東京の下町・葛飾柴又である。私事で恐縮だが、筆者は葛飾区の出身で、寅さん映画に映る地元の風景のなかで生まれ育った。

▼映画が終わり、スクリーンにエンドロールが流れる。不思議なことに、その間、観客は一人も席を立たず、故・渥美清さんが歌う主題歌に最後まで聴き入っていた。全員の心を、声も出させずにもっていった。そんな映画である。

▼葛飾生まれだから、何か特別な感想をもつかと思った自分が浅はかであった。寅さん映画は、日本人の多くが共感できる、普通の家族の歴史を描いた作品である。見れば、ただただ懐かしい。銀幕に映った俳優さんのうち、何人かは故人になっているが、その若く美しい頃にまた会えて、観客はたまらなく嬉しいのだ。

▼この新作を見て、改めて気がついた。渥美さんの演じる車寅次郎は、本当にいたら周囲が困るような人だが、日本人にとって心から愛おしい、本当にいてほしい親戚のおじさんであった。男性の観客なら、筆者もそうであるように、繊細で気弱な甥の満男に自身を重ねて見るのではないか。

▼オープニングで歌うのが「なんでサザンの桑田なの?」と違和感をもつ向きもあるらしい。おそらく、それを承知で、山田洋次監督は最後に渥美さんの歌を入れた。姿は見えないが、そこにいる。皆で泣いて恥ずかしくない映画を、久しぶりに見た。

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