米中第1段階合意、中国が譲歩した理由

トランプ米大統領は12月24日、中国の習近平国家主席と第1段階の米中通商合意に署名する調印式を行うと述べた。1年半も続く米中通商協議がようやく一歩前進した。合意内容からみれば、中国当局が知的財産の保護など、米国のかねてからの要求を受け入れて大幅に歩み寄った。専門家は、中国の譲歩には国内の失業率の上昇、米国とのデカップリング(分離)が不可能、などいくつかの理由を挙げた。

大規模な失業

中国人民大学応用経済学院は12月13日に公表した「米中貿易摩擦による就職市場への影響分析」の報告書では、輸出企業が集まる広東省、福建省と浙江省における米中貿易戦の影響を調査した。

これによれば、米政府が対中追加関税措置を発表した初期の2018年上半期では、国内市場に悲観的な見方が広がったが、雇用市場への影響は限定的だった。

2019年上半期になると、貿易戦の影響で、企業に人員削減の動きが現れた。しかし、各地方政府は雇用を安定させるために、従業員を解雇しない企業に「一部の社会保険を返金する」などの奨励政策を打ち出した。同時期、紡績関連産業の輸出企業では、従業員の賃金水準が他の国内市場向け企業と比べると約7%落ち込んだ。

報告書は、地方当局の政策について「雇用市場の質を落とすことで、一時的な安定を得ようとした」と指摘した。「米政府が追加関税をさらに引き上げていくと、国内の多くの企業が生産停止に陥り、従業員の解雇で大規模な失業が起きるだろう」と警告した。

中国当局はこの数年間「雇用の安定」を最大の課題として掲げている。12月10~12日まで北京で開催された中央経済工作会議では、中国当局は再び6つの安定(雇用、金融、貿易、外資、投資、社会予期)に言及し、来年度の経済政策の基本方針を決めた。

大紀元のコメンテーターの石実氏は、「中国当局は高い失業率で政権の不安を引き起こす可能性があると強く懸念している。だから、当局は雇用の安定を最も重要な任務としている」と述べた。

米中デカップリングは「まだできない」

中国清華大学政治学部の元講師である呉強氏は、米ボイス・オブ・アメリカ(VOA)の取材に対して、米中第1段階合意について、中国側が「米中経済のデカップリングを進めるための時間を勝ち取ったに過ぎない」と分析した。

同氏によると、中国当局は、教育・軍事・ハイテク技術などの分野では米国とのデカップリングの準備を進めたが、経済・貿易での切り離しはまだ用意できていない。「中国は経済・貿易のデカップリングで、米国との完全な切り離しを図っている」という。

呉氏は、経済分野のデカップリングができない現状が、双方が通商協議で第1段階合意に達した根本原因だとの見解を示した。

英紙フィナンシャル・タイムズは12月21日、コラムニストのラナ・フォルーハー(Rana Foroohar)氏の記事を掲載した。フォルーハー氏は、「デカップリング」が今年の米中関係を言い表す最も適切な言葉だとの見方を示した。

世界最大の政治リスク専門コンサルティング会社、ユーラシア・グループのニコラス・コンソネリ(Nicholas Consonery)氏は12月20日、米のアジア協会が主催したファーラムに出席した。同氏は、2020年、米中関係は引き続き悪化し、「両国のデカップリングという流れは止まらない」と述べた。

いっぽう、ポンペオ米国務長官は12月18日、米紙ワシントン・タイムズのインタビューで、トランプ政権は「米中のデカップリングを支持しない。われわれはただ、中国側が平等、対等そして透明性のあるやり方で貿易を行うよう求めたい」と述べた。

さらに、「中国がこのやり方を取らなければ、デカップリングは起こりえることだ。これは中国の選択だ」と付け加えた。

香港問題

北京大学国際政治経済研究センターの王勇・主任は12月15日、香港メディア「香港01」の取材に応じた際、11月下旬トランプ大統領が「香港人権・民主主義法案」に署名し、同法が成立したことに言及した。

同氏は「トランプ氏が法案に署名したが、香港問題においては態度が不明瞭だった」と述べた。法案は国会で通過した後、トランプ大統領は人権法案に署名するか姿勢を明示しなかった。法案に署名後の声明で、香港市民を「支持する」ものの習主席も「素晴らしい人」だとたたえていた。

同氏は、米中関係の専門家で、北京大学国際関係学院の教授、中国外交部(外務省)党校教授、アジア開発銀行の顧問などの職も務めている。

コメンテーターの李林一氏は、中国当局の専門家である王勇氏の発言は、中国当局が貿易協議の第1段階での歩み寄りを通して、トランプ大統領に「香港問題で北京政府を批判しないでほしい」との意思を反映したと分析。

しかし、香港人権法案は両院でほぼ全会一致で採択されており、トランプ大統領はこの問題で今後、議会と対立する可能性がほぼないと李氏は指摘した。

(翻訳編集・張哲)

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