アングル:サウジ汚職摘発、不正海外資産の没収なぜ難しいか

Saeed Azhar and Joshua Franklin

[ドバイ/チューリッヒ 9日 ロイター] – サウジアラビアは、汚職の取り締まりで拘束された数十人に上る上級官僚や実業家の資産を没収する予定だが、過去に不正資金の回収を試みたアラブ2カ国の例を見れば、それが容易な道ではないことは明らかだ。

エジプトとチュニジアにおける過去の経験に照らせば、サウジアラビア政府が海外で保管されている不正取得金を取り戻すには、何年もの法的・外交的な苦闘が必要になりそうだ。

しかも、それで成功する保証はない。

サウジの王族や、大物実業家、閣僚らを今月拘束したムハンマド皇太子が主導する汚職対策委員会は、国王令に基づき、刑事捜査の結果を待つことなく、彼らの保有企業や資金、その他の資産を没収するために「必要とされる全ての手段」を行使する権限を与えられている。

湾岸諸国ではすでにオフショア資産調査は開始されており、サウジアラビアと定期的に情報共有を行っている。

アラブ首長国連邦(UAE)の中央銀行と証券規制当局は、すでに国内金融機関に対し、サウジ国籍19人の口座に関する情報提供を求めている、と銀行関係筋が9日、ロイターに語った。

サウジの汚職対策委員会は、拘束された各個人の容疑について詳細を明らかにしていないが、同国当局者は、資金洗浄や贈収賄、強要、私的な利益のための公権乱用などだと説明している。

サウジ政府は資産押収のスケジュールを明らかにしていないが、銀行関係筋によれば、中央銀行からの要請に応じて、すでに1700件以上の国内銀行口座が凍結されているという。

贈収賄から違法な土地収用に至るまで、腐敗で失われた資金を汚職対策委員会がすべて回収しようと試みれば、その総額は8000億ドル(約91兆円)に達すると、リヤド商工会議所の担当者は推計する。

こうした不正資金のうち、かなりの額が海外の銀行口座、ポートフォリオ投資、企業株式や不動産といった形で保有されていると金融関係者は明かす。拘束された実業家の多くは自家用機を保有。なかには、ボーイング747旅客機を保有する者さえいる。

全米経済研究所によれば、サウジ国民はGDPの55%以上に相当する資産、金額にして3000億ドル超を、海外のタックスヘイブン(租税回避地)に隠匿してきたと試算している。

だが、エジプトとチュニジアの経験に基づけば、資産凍結の措置自体は数カ月以内に手配できるとしても、資金を本国に返還させるには多くの年数を要する可能性がある。

エジプト政府は、ムバラク元大統領の側近が英国の銀行口座に保有していた約8500万ポンド(約126億円)を回収するため5年間尽力したが、成功しなかった。

英国側の当局者は、英国法を順守するため、エジプト側にはまず刑事上の有罪判決を提示してもらう必要がある、と述べている。

チュニジアの場合は、「アラブの春」を巻き起こした2011年の革命後、スイスに約3500万ドルを返還するよう求めたが、これまでに回収できたのはごく一部にとどまっている。

<詳細な証拠が必要に>

 

とはいえ、サウジに資金回収の期待を抱かせるような前例もいくつかある。

昨年、ナイジェリアとスイスは、ナイジェリア軍事政権の指導者だったサニ・アバチャ将軍一族から差し押さえた3億ドル以上の資産の返還に向けた協定を結んだ。

エジプト、チュニジア、リビア、シリアからの要請により、スイス当局は10億スイスフラン(約1140億円)近い資産を凍結するに至っている。

だが資金返還を求めるエジプトとチュニジアの努力は頓挫している。西側諸国の法制度の下で受け入れられるような、資産の受益所有者を証明し、汚職を示す証拠提出が求められたからだ。複雑なオフショア投資手段を使って資産が保有されている場合が多く、本当の所有者が誰かを示すことが困難となっている。

サウジ政府がスイスにある資産を押収するには、その資金がどのように取得されたのかを示す詳細な証拠を提供しなければならないだろう、と銀行業界に詳しい弁護士でローザンヌ大教授(銀行法)のカルロ・ロンバルディーニ氏は語る。

「その上で、サウジの当該人物が抗弁の機会を与えられているか、適切な弁護を受けているかどうかという問題も出てくる」

サウジ当局者は、資産所有者が法の定める適正な手続に沿って扱われることを、スイス当局に納得させる必要があるだろう。だが、今回の取締りが迅速かつ広範囲に行われたこと、また汚職対策委員会に与えられた包括的な権限を考えると、これは難しいかもしれない。

サウジの司法長官は6日、拘束した人々に対する詳細な尋問を通じて「大量の証拠」がすでに得られたと述べたが、それ以上の詳細については明らかにしなかった。複数のサウジ高官に捜査情報を問い合わせたが、回答は得られなかった。

湾岸諸国で活動する国際汚職事件に詳しい弁護士によれば、サウジが在外資産の回収を求める経路には2通りあるという。

サウジ政府が当該外国とのあいだですでに条約を締結している場合には、その規定を利用して、司法制度を介した資産押収を求める前に、証拠収集に向けた支援を得ることができる。だがサウジは、米国やスイス、その他多くの国々とそのような条約を締結していない。

条約を締結していない国に対しては、所轄の省庁に対して依頼状を送ることもできる。この場合は、他国政府に対するサウジの外交的な影響力が試されることになるだろう。

拘束された実業家のなかには、国際投資家ワリード・ビンタラール王子の名もある。フォーブス誌の推定では、取締り前時点で、同王子の資産総額は170億ドルとされる。またスウェーデン、サウジ、エチオピアで建設・農業・エネルギー関連の企業を保有する、推定資産総額104億ドルのモハメド・アル・アムディ氏や、金融・医療分野の大物で同23億ドルのサレー・カメル氏も拘束された。

一部の銀行関係者やコンサルタントによれば、資産の本国返還が非常に困難となる可能性があるため、サウジ政府が多くのケースに関して他国での訴訟を完全に回避し、拘束した王子たちや大物実業家に取引を持ちかけ、実質的に彼らの資産を合法化する代わりにその一部を国家に拠出させる可能性もあるという。

「政府は拘束した企業家、王族と個別取引を行って逮捕を回避する可能性があるが、それは彼らが国内の経済貢献を高めることの一環という位置付けになる」。ユーラシア・グループで中東・北アフリカ部門を率いるアイハム・カメル氏はそう語った。

(翻訳:エァクレーレン)

 

 11月9日、サウジアラビアは、汚職の取り締まりで拘束された数十人に上る上級官僚や実業家の資産を没収する予定だが、過去に不正資金の回収を試みたアラブ2カ国の例を見れば、それが容易な道ではないことは明らかだ。写真は汚職対策委員会を主導するムハンマド皇太子。リヤドで10月撮影(2017年 ロイター/Hamad I Mohammed)
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