私小説『田舎の素麺』(一)

会社の盆休みに長崎に帰省し、朝から玄界灘の海を見ていたら、波間でボラが数度跳ねた。台風が上陸してきたのか黒雲が水平線の彼方からみるみる現れ、西の方角から突如として偏西風が吹いてきてた。スコールのような激しい通り雨が降ってきたので、一目散に後ろの防砂林に逃げ込んだ。

潮風の試練によって曲がりくねった黒松が植えられた防砂林を抜け、300メートルほど目抜き通りを行った駅前にある実家の海産物スーパー「上浦」には、店頭の生簀にフグが数匹泳いでいた。鰺、アゴ、ボラ、タコ、イカなど種々の海産物の干物が早朝から立ち並び、秋に網元の家に嫁ぐ予定の上の妹のしじみが忙しく店を手伝っていた。

「おばあにもらった」。腰が既に少し曲がった白髪の母とともに、都会の喧騒から逃れて田舎の猟師町で生気を回復した息子が、口の周りを真っ赤に濡らしながら、左手にタコの干物を握りしめ、右手に食べかけの西瓜をもって店の奥から出てきた。生簀の鮑の世話をしているしじみの大きな尻に頭突きをしながら無邪気に笑っている。

▶ 続きを読む
関連記事
「朝活」は本当に正解なのか。30日間の実験が教えてくれた、続けることと休むことの意味。
「続ける力」は意志の強さではなく、“なぜそれをするのか”にあるのかもしれません。最新の心理学研究をもとに、習慣が続く人の共通点と、無理なく行動を継続するための考え方を紹介します。
健康や若々しさを意識して、ビタミンB3関連サプリを取り入れる人が増えています。しかし新たな研究では、NMNなどの成分が膵臓がん細胞を助け、化学療法の効果に影響する可能性が示されました。
頭痛は「ただの疲れ」とは限らない。くも膜下出血・急性緑内障・脳出血など、命に関わる危険なサインを早期に見分ける方法と、日常でできる予防策・ツボ押し・食事法を専門家が解説
週に一度の料理が、脳と体を同時に刺激し、認知症リスクの低下につながる可能性があります。家庭料理の意外な力とは。