チベットの光 (76) 仏法神通

【大紀元日本11月29日】しばらくして、ミラレパは重篤のようになって、床に臥せるようになった。ツァアプは得意満面となり、心の中で思った。「は!何が神通だ。知識のない村民や頭の悪い女しか信じないさ。皆はミラレパを恐れているが、結果はどうだ。俺の手に罹っているじゃないか。何の本も読んでいない奴が、この博士と比肩できようか。では奴がどんな病相なのか見てやろう。さあいつまで得意がっていられるやら」

 彼は酒肉を持ち、供養するふりを装って尊者の元を訪れた。尊者が重篤なのを見てとると、薄笑いを浮かべながら言った。

 「ああ!あなたのような、人々から尊敬を受けている大師が、なぜそのような病気になったのですかね。たいそうに重そうですなぁ。人々は、あなたに仏法神通があると言っていますから、その病を誰か別の人にうつしたらいい。そうだ、高弟たちに分けたらいいじゃないですか。もしそれでもだめなら、もしできたらの話ですが、その病を私の身にうつしてくださいませんか。現在の病状はどうですか。ご自身でどうにかできないのでしょうか」

 「私には本来、病というものは生じない。今なぜ病が生じたのかについては、君が誰よりもよく知っているだろう」。尊者はやんわりと言った。「修煉者は元より病など生じない。もし病のような兆候が表れるとしたら、それは凡夫のものとは違う。現在の私の病状は、実際は仏法の荘厳な表現なのだ」

 ツァアプは尊者がそのように言ったので、心臓が早鐘のように鳴りはじめた。「尊者はすでに私がやったことを知っているのではないのか」

 彼は少し不安になったが、尊者の表情が相も変わらず柔和で、彼に対して何の憤怒の様子も見せなかったので、尊者まだ何も知らないのだと思い込んだ。「私は絶対に、この老骨には騙されないぞ。病をうつせるなんて、一体どうやってやるんだ。村民は騙せても、私を騙すことはできないぞ」。彼は尊者に言った。

 「私がどうして尊者の病の原因を知っているというのでしょうか。もし病の原因が、妖魔の仕業であるなら、法をもってそれを除けばいい。ご自身の身体がよろしくないのであれば、薬を飲んで休養されればよろしい。それでもだめなら、もし病を他の人へうつすことができるなら、どうかその病を私にうつして下さればいいのです」

 「ある大罪人が心に魔がさして悪いことをしたため、私がこのように病のようになってしまったのだ。この病を君にうつしてもいいのだが、君が一秒でも耐えられない恐れがある。だからやめたほうがいい」

 ツァアプは思った。「根本的に病を他人にうつすことなぞできない。この老人はできないもんだから、口から出まかせの口実を言っているのだ。今度こそ、その顔をつぶさないでおくものか」。こうして、彼はその病を彼にうつすようにと尊者に再三、頼み込んだ。

 「君がそんなに言うのなら、まずはこの病を門の所に届けるから、君はよく見ておくがいい。もし君の身に転じたら、君は耐えられなくなる、さあよく見ろ!」尊者はそう言うと、神通をふるい、その病を門の所に届けた。すると、門自体が、ぐらぐらと揺れ始め、きぃきぃと異音を発し、恐ろしい事態になった。すると、それはパッと破裂し、全体が爆破されたかと思うと、その破片がばらばらと地上に落下した。

 (続く)

 

(翻訳編集・武蔵)

 

 

 

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