チベットの光 (75) 済度

【大紀元日本11月22日】女はツァアプの話を聞くと、ワクワクしてきた。彼の元に嫁に行くことができれば、名誉と地位を手に入れることができ、しかもツァアプが持っている莫大な財産まで自由にできるのだ。女は名利心を起こし、たちまちツァアプの話が理に適うと思うようになった。尊者は、自分にまた供養を持ってくるようにいったわ…彼女は思い出すと、再び毒をバターに投げ入れて尊者の元へ持っていった。

 このとき、尊者は微笑みを浮かべながらこれを受け取った。「博士の言った通りだわ。彼には神通なんてないのよ」、女は心の中で想った。

 「今度は、あの玉石を受け取ったのかな?」尊者は微笑みながら女に聞いた。

 女は電撃に打たれたようになった。彼女は驚きのあまり、言葉を発することができなかった。顔面蒼白となり、全身が震え、膝の力が抜けた。彼女は膝まづくと、何度も頭を下げて、泣いて懇願した。

 「玉石は受け取りました。お願いです。そのバターを食べないでください。どうか私に下さい」

 「君に与えてどうするのだ」。尊者は微笑みながら答えた。

 「どうか私に食べさせてください!」このとき女は、恐ろしさと恥ずかしさで一杯となり、泣いて訴えた。「どうか私に食べさせて…」

 「この供養品を君に与えることはできない。あなたがこれを食べるのは、見るに忍びないからね。また修行者は、施主の供養を受け取れないということがないんだ。最も重要なことは、私の今生の修煉と衆生済度はもうすべて完成したので、別の世に行く時がきたのだ」。尊者は穏やかに続けた。「実際、あなたの供養品では私は傷つかないから、食べるのも食べないのも私にとって同じことだよ。しかし、前回に私がバターを食べていたら、君は玉石を貰えなかったでしょう。だから、私は前回食べなかったのだ。しかし、今、君は玉石を手に入れたのだから、私は食べてもいいのだよ。それで、彼の本懐もとげられるというものだ」

 尊者がここまで言うと、女は膝まづいたまま心痛で声も出なかった。すべてが尊者の慈悲だったのだ。

 「彼は君にいろいろと言って、事が成ったら、あれをあげるだの、これをあげるだのという話をしたと思うが、すべてあてにすることはできなのだよ。君たち二人は、事が済んだら、深い後悔に沈むことになる。だから今から本当に悔い改め、佛をよく学んで善に向かうのだ。もしよくできなくても、これだけは肝に銘じておくことだ。絶対に他の生命を傷つけない事。業を積まないように注意することだよ」。尊者はまた続けた。

 「今回君たちが作った罪業は、私が取り除くよう発願する。ただし、君たちの安全のために、今回の件は、私が死ぬ前に他の人には話さないように。私が以前説いたことが本当かどうか、君たちは信じないかもしれないが、君は今回自ら経験したので、もう私の言うことを信じてくれるだろう」尊者は話を終えると、毒バターを口に入れた。

 女は帰ると尊者の話をツァアプに聞かせた。ツァアプは嘲笑しながら言った。「人が言うことは本当であるとは限らない。彼が毒バターを食べてくれたら、私の目的は達した。おまえは知らないふりをして、静かに様子を見ておればよい」

 

(翻訳編集・武蔵)

 

 

 

 

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