明星大学教授・高橋史朗氏「教育現場を再生しないと、この国は内部から崩壊する」

【大紀元日本11月1日】「続・親学のすすめ」、「親と教師が日本を変える」などの著作で知られる埼玉県教育委員、師範塾・埼玉師範塾理事長で明星大学教授・高橋史朗氏が10月28日午後、横浜市内の開港記念館で「21世紀を切り開く教育」という演題で講演を行った。高橋氏は昨今の教育現場における問題点を指摘し、「親が根本的に姿勢を変え、教育現場を改善しないと、この国は内部から崩壊する」と警告を発した。

高橋氏が現在理事長を努めるNPO法人「師範塾」では、教師の「労働者観」から脱却し、崇高な使命感を持つ教員の養成と研修を図るべく、師範力のある教育者を養成し「一人からの教育再興を目指す」ことを塾是としている。塾訓としては、高い志を持ち、虚心に学び続けることによって、自らの人格を磨き、「主体変容」によって周囲を感化し、教育界に新たな道を切り開くことを謳っている。

安倍政権が教育再生会議を立ち上げ、日本の伝統文化を重視するよう謳っているが、高橋氏は基調講演で、さらに脳科学から考察することが必要で、昨今の日本には「親になるための教育」が欠けており、「親としての心」が成熟していないと指摘した。高橋氏は、京都大学の調査研究を引用し、少年院に収容されている児童の約八割が「注意散漫」、約五割が「学習障害」であることを挙げ、一時代前の非行というものは、「親が貧困で、少年の知能は低い」から、今や「親は富裕層で、少年の知能も高い」のに切れやすくなっており、マスコミはこれを「心の闇」と称しているという。

高橋氏は、「先生が疲れており」、「親が疲れている」と指摘、「これらを元気にしなければ教育現場は改善されない」との認識を示した。更に高橋氏は、「師範塾」、「教師塾」を全国展開中であると説明、2005年に実施された全国の保護者、小中学校の教員約3万6000人を対象とした「義務教育に関する意識調査」では、「郷土や国を愛する心」を学校教育で身に付ける必要性が、「とても高い」「やや高い」と考える教員が78%に及んだことを挙げ、「教育界は大きな転換点を迎えている」との認識を示した。

2007年から「団塊の世代」が大量に退職するため、教育現場でも内部から入れ替えが進み、考え方の古い世代がいなくなり、代わりにノンポリの若年層が入ってくる。高橋氏は、教師イコール「労働者」では21世紀は立ち行かないとの認識を示し、(自らが)三十代から「学級崩壊」「登校拒否」「いじめ」などの問題で全国を駆け巡った経験から、「教育現場の再生はまず家庭から始まる」と約十年前に気づいたという。高橋氏は、曽野綾子氏の「親が人生最初の教師」という言葉を引用し、PHP親学研究会を立ち上げて国民運動を全国展開し、日本財団の後援により、これをマニュアル化して、親としての「スキル」と「親心」を回復するべく急いでいるという。

高橋氏は、日・米・中の若者の将来的な目標が、米国は「医者か弁護士」、中国は「社長」であるのに対し、日本は「社員」であることを挙げ、日本の若者には夢がなく、「他者とともに活きる力」が育っておらず、これがニート40万人につながっているとの認識を示した。高橋氏によると、「他者とともに活きる力」とは、「共感性」と「自己抑制力」であり、家庭では、「しっかり抱いて(母性愛)、下に降ろして(父性愛)、歩かせろ(自立)」が全てなのだという。しかしながら、実際には口うるさい厳しい母と、あいまいで優しい父が家庭におり、家庭教育が崩壊しているという。

また現在の少子化について、経済負担の問題ばかりでなく、戦前は「良妻賢母」の教育があったが、戦後は女子の意識調査として「母になる」はトップ50にも入っていないと指摘、「ジェンダー・フリー(注;後から創られた文化的・社会的性差)」の現代的風潮に疑問と警告を投げ掛けた。例として、日本の「鯉のぼり」が、「武」の象徴として戦争につながると批判されているが、「武」とは、「矛」を「止める」もので、日本の武士道精神は平和の象徴であると説明した。

ある書店による「日本人の価値観世界ランキング」では、「親が子供のために犠牲になってもやむを得ない」と回答したのは日本人の38.5%で、(調査対象の)73か国中72位であったことを挙げ、「親心が崩壊している」と指摘、逆に日米の中高生の意識調査では、「母親のようになりたい」は日本24%、対して米国は65%、「父親のようになりたい」は日本16%、米国68%で、「親と子との絆」の崩壊、これこそがこの国の危機であると力説した。

日本には「道」の伝統文化があり、これは「心のかたち」を形象化し、また形象の奥にある「美しい心」に気づかせるために「基本の型」を教えることであるが、こういった人間教育とともに、日本人のアイデンティティーを教える「国民教育」も欠落しており、国旗と国歌で裁判が多発する日本のような国は国際常識から逸脱しているとの認識を示した。

現在、男女共学の学校は、日本において80%近くに達しているが、男女の性差を考えれば、中学高校は「男女別学」の方が優れており、脳科学からすると、「ジェンダー・フリー」は噴飯ものであるという。21世紀はむしろ、IQ(知能)よりHQ(人間らしさ)が鍵となり、どこかで日本人のDNAに「スイッチ」を入れる教育が必要との認識を示した。また、現在の日本の若い母親は、童謡を知らないが、これを英訳したところオーストラリアで評判になっているところから、世界に向けて発信することができると述べ、「美しい日本」は、現在において、「子供の心」だけでなく、「大人の心」からも消えており、特に「恥の文化」が崩壊していると警告した。

高橋氏によると、近年の脳科学の研究成果などから、児童の脳細胞が3歳までに6割が形成され、8歳までに9割形成されるという。また、WHOの報告では、3歳までに愛着が形成され、母親のストレスが胎児に与える影響が極めて大きく、加えて最近の大人社会の「カラオケ文化」が、児童を放置し睡眠障害に陥らせ、朝食抜きのライフスタイルを形成していると警告を発した。例として、最近の母親は、乳幼児への授乳中に「携帯メール」をしているが、これは「愛着形成」に深刻な影響を及ぼすという。

高橋氏は、「いじめ」で悩む障害児の川柳を紹介した。「ゴキブリは、皆に嫌われ可哀想」「西瓜割り、皆に割られて痛そうだ」「時計さん、長針短針分かれてる」など、追い詰められたような作品が目立つという。なぜ児童が追いつめられるまでコミュニティーが気が付かないのか?高橋氏は、親の共感性が鈍くなりすぎていると訴えた。最近の日本の母親は、8割が「子育てが負担」と感じており、理由が「自由時間が奪われるから」という女性の意識の変化がこれの背景にあると指摘した。母親は、子育ての過程で「親心」が成熟するものであり、(父親も含め)親子関係を再生することが、教育現場を根本から変えるものであると再度力説した。