アメリカでは古典教育運動がすでに数十年にわたって広がっており、2023〜2024学年度にはおよそ67万7,500人の学生が古典教育機関に通っています。近年では、この流れがオーストラリアにも広がりを見せています。
サラ・フリン氏は、この運動をリードする人物の一人です。古典教育運動は、授業で電子機器に頼ることをやめ、子どもたちに「美徳を育てることの大切さ」を教えることを目指しています。歴史上の人物を批判的に分析するのではなく、その生き方から学ぶことを重視しているのが特徴です。
ブリスベンで毎年恒例に開かれている古典教育交流会「教育が社会の繁栄を促す」では、古典教育機関「Logos Australis」の創設者であり、5人の子どもの母でもあるフリンさんが登壇しました。
「小さな子どもたちには寓話から始めます。たとえば『イソップ物語』のように。動物たちの行動には人間の行動パターンが表れていて、正直に生きることが良い人生につながるという真理が、これらの物語の中に込められているのです」と話しました。
さらにフリンさんは、古典文学は子どもたちの心の健康にも良い影響を与えると説明しました。前向きに考える思考の型を身につける助けとなり、その効果は心理カウンセリングにも似ているといいます。「文学は、人の幸福感や社会全体の豊かさを育むうえで大きな役割を果たしているのです」と語りました。

現在の教育モデルを覆す――古典教育が示す新しい学びの形
古典教育は、現代の教育観を根本から覆そうとしています。現代の教育は、将来の仕事に役立つ「実用的なスキルの習得」に重点を置く傾向があります。
サラ・フリンさんは次のように話しています。「教育の目的は本来、個人がより良く成長し、社会の繁栄に貢献することでした。ところが、この100年の間に『なぜ学校へ行くのか』と尋ねると、多くの人が『仕事を見つけるため』と答えるようになってしまいました。教育が商品化され、単なる取引のようなものになり、極端に功利的な学びの考え方が広がってしまったのです」
彼女はさらに、現代の学びは分析や批判に偏っていると指摘します。「つまり、証拠を探し、主張を立て、物事を細かく分解していく、という学び方です」
しかしフリンさんは、「人間の問題は、純粋に物質的な考え方だけでは解決できません」とも述べています。
一方、古典的な学びには精神性や芸術性、美しさといった要素も含まれています。こうしたものは現代ではしばしば「本当の知識ではない」と軽視されがちですが、古典教育ではそれらを大切にしています。さらに、学生たちはラテン語も学びます。

SNSの影響と公立教育への疑問
オーストラリアでは古典教育の学校はまだ多くありませんが、この教育交流会は開催から3年で人気が高まり続けています。今年は約250人の教育関係者が2日間の会議に参加し、人数は昨年の2倍に達しました。
この流れはちょうどよい時期だと言えます。統計によると、オーストラリアの若者の心の健康は低下し続けており、同時に保護者の間では公立教育への関心が薄れています。
2023年、オーストラリアの若者支援団体「Headspace」の調査では、3人に1人がSNSでのやり取りでストレスを感じたことがあり、44%が「SNSをやめたい」と考えているものの、「情報を見逃すのが怖い」と感じていることがわかりました。
さらに懸念されるのは、若者のうち就職に自信があると答えた人がわずか半数で、成功に必要なスキルを持っていると感じる人も52%にとどまっていることです。
また、62%の若者が「孤独を感じている」と答えています。
こうしたSNSの影響に対応するため、オーストラリア連邦政府は2025年末までに、16歳未満の若者に対するSNS利用禁止を導入する予定です。すでに各州政府では、学校の授業中にスマートフォンを使用することを禁止しています。
同時に、公立学校制度への不信感も高まっています。
ニューサウスウェールズ州では、非公立学校への入学率が2000年の13.1%から2025年には19.5%に増加しています。
また、自宅で学ぶ学生の数も安定して増えています。現在、オーストラリア全体でおよそ4万5,000人の子どもがホームスクーリングを受けており、特にクイーンズランド州での増加が目立ちます。
クイーンズランド州教育局の最新データによると、パンデミック以降、自宅で学ぶ学生は2020年の4,297人から2024年には11,314人にまで増加しています。
歴史上の人物から学ぶ――批判ではなく模範として
ブリスベンで新たに設立された古典教育機関のひとつが、セント・ジョン・ヘンリー・ニューマン・カレッジです。この学校は2026年に幼稚園から小学3年生までの課程を開設し、その後段階的に学年を増やしていく予定で、2030年までには中等教育までをカバーする見込みです。
校長のケネス・クラウザーさんは、保護者たちが「子どもが学びを心から楽しめる環境」を求めていると話します。「焦りや不安、孤立、あるいは過剰な競争に追われるような教育ではなく、落ち着いて成長できる場所を探しているのです」
クラウザーさんは次のように語りました。「多くの場合、違いというのは『何をしているか』よりも、『何をしていないか』に表れます」

クラウザーさんは、「私たちは伝統的な学びの方法――つまり、ノートパソコンではなく、紙とペンを使って学ぶこと――を大切にしています」と話します。また、ジョナサン・ハイトの著書『不安の世代(The Anxious Generation)』なども参考にしているといいます。
そして、現代の教育との大きな違いとして、「世界の問題を見つけること」ではなく、「自分自身をより良くすること」に焦点を当てている点を挙げました。
「私たちはシェイクスピアを読むとき、彼の欠点を探すために読むのではありません。シェイクスピアを通して、自分自身をより深く理解するために読むのです」と語ります。
さらに彼は続けます。「大切なのは、世界を批判したり判断したりすることではなく、『本当の自分』と向き合うことです。もし世界に何か問題があるのなら、私たち一人ひとりもその問題の一部なのです。だからこそ、私たちはその解決策を見つける責任があるのです」
(翻訳編集 華山律)
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