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夏の終わりから秋分にかけての中医食養生法

7月下旬に入ると、空気は一層蒸し暑く重くなり、終日「だるさ、むくみ、息苦しさ」を感じることがあります。これらの不調は、自然界における「陰陽五行」のエネルギーの移り変わりと深く関係しており、身体を整えるためには、まずその原因を理解し、それに基づいた食生活の調整が必要です。

第四の気候期──湿熱が交錯し、心脾が乱れる

中医学では「天人相応」という考え方があります。人は天地の間に生きており、天(上空の気)と地(地表の気)から生じる陰陽五行のエネルギーの影響を受けています。したがって、各時期における自然界のエネルギーの変化が人体にどのような影響を与えるかを知り、それに応じて「天地人」の一体となった食養生法を実践することで、内臓のバランスを整えることが可能です。

つまり、人体にも天地と同様に独自の「陰陽五行」のエネルギー体系があり、その仕組みは五臓を中心とする経絡システムに基づいて生理機能を調整しています。この体系は外界と連動し、自然界の気候が変化すれば、人体も影響を受け、そのバランスを崩しやすくなり、様々な不調を引き起こします。

人体にも天地と同様に独自の「陰陽五行」のエネルギー体系がある(Shutterstock)

したがって、養生とは、自然のエネルギーの流れに合わせて飲食を調整し、内臓の陰陽と五行のバランスを整えることを意味します。

中医学の古典『黄帝内経』には、「五運六気」という天候の変化を見るための理論があります。五運は五行の運行、六気は気候を六つの性質に分類したもので、寒・熱・風・湿・燥・火などが一定の周期で巡ってくる仕組みです。

一年は六つの時期に分かれ、それぞれが異なる「気」の支配を受けるという考え方に基づいています。2025年では、7月22日(大暑)から9月22日(秋分の前日)までが「第四の気」に該当し、火と土のエネルギーが交錯する期間となります。

この時期、天の「火気」が強まり、大地を熱して夏の暑さを一層厳しくします。人体では「心」の経絡が活発になり、心火が過剰となって「少陰君火(しょういんくんか)」の状態に陥りやすく、不眠、口の渇きや苦み、熱感などを引き起こします。また、火のエネルギーは肺(金)を抑え込むため、呼吸器機能にも影響が出ます。

一方、地の「土気」は「湿」を司り、陰性の太陰湿土が現れます。この湿気は脾の経絡と密接に関係しており、外界の湿気が体内に影響を及ぼすことで、脾の働きが低下し、消化不良、食欲不振、腹部の張りや下痢などを引き起こします。このため、「健脾(けんぴ・脾を強める)」と「祛湿(きょしつ・湿を取り除く)」は常にセットで語られるのです。
 

肺と腎にも影響が──不眠とむくみの原因

中焦(ちゅうしょう)である脾胃(ひい)が不調になると、肺の気(肺気)がうまく下降せず、呼吸が浅くなったり、胸がつかえて息苦しく感じたりします。さらに、心の火(心火)のエネルギーも下に降りにくくなり、身体の陰陽や寒熱のバランスを取る動的な循環が乱れてしまいます。

夜になると、本来は落ち着いて静まるはずの火のエネルギーが上にとどまり、熱っぽく興奮しやすい状態になります。まるで太陽が一日中昇り続けていて、夜の静けさが訪れないような状況です。その結果、心火の陽気が腎に戻らず、身体が休息モードに切り替えられずに眠れなくなります。これが不眠の一因です。

中医学では「胃が整わなければ、安らかに眠れない(胃不和則臥不安)」と言われていますが、まさにこの理論に基づいています。また、脾胃が弱ると、五行の「土」が「水」を抑える形になり、腎に属する水の代謝機能も低下します。そのため、手足のむくみ(水腫)が生じやすくなります。このような季節には、心脾のバランスを整えることが養生の要となり、あわせて肺と腎の調和も意識した食生活を心がけることが大切です。
 

一日の中医式食養生参考メニュー(2人分)

一、朝食

【胚芽米ご飯+しそと豆腐の味噌汁+梅風味の高野豆腐+わかめときゅうりの和え物】

主食|胚芽米ご飯
材料:胚芽米 1/2合(約90g、炊き上がりで約200g)
作り方:といだ米に水を加えて炊き、炊き上がり後10分蒸らす
効果:脾を健やかにし気を補う。ビタミンB群が朝の目覚めを助ける
体質別アドバイス:
湿熱体質:小豆を8時間水に浸して一緒に炊く
気虚タイプ:キヌアや山芋を加えてエネルギー補充

汁物|しそと豆腐の味噌汁
材料:豆腐100g、しその葉3枚、わかめ20g、昆布だし400ml、味噌大さじ2
作り方:だしで豆腐を煮て、火を止めてから味噌を溶き、しそとわかめを加える
効果:気を整え、脾を助け、肺を潤し湿気を取り、腸の働きを促進
アレンジ:寒湿・陽虚の人は生姜汁を加えると良い

副菜
梅風味高野豆腐:梅肉で煮た高野豆腐、食欲増進・脾の働きを補う
わかめときゅうりの和え物:米酢とゴマで和え、湿を取り胃を目覚めさせる

朝食の考え方
体を温めて胃を活性化し、清陽を昇らせて脾気を目覚めさせる。海藻と梅の酸味で唾液を促し、色合いも美しく食欲を引き出す。

二、昼食

【照り焼き鮭+茄子の味噌炒め+山芋と小松菜の胡麻和え】+胚芽米+小豆のスープ

主菜|照り焼き鮭
材料:鮭2切れ(200g)、醤油大さじ1、みりん大さじ1、生姜汁少々
作り方:醤油、みりんに10分漬けてから焼き、タレを絡めて照りを出す
効果:心を養い気を補い、肺を潤して脳をサポート。良質な脂肪酸を多く含む
体質別アドバイス:湿熱体質の人は塩焼き+柚子胡椒でさっぱりと

副菜・汁
茄子の味噌炒め:茄子を柔らかく焼いて味噌で味付け、清熱・健脾
山芋と小松菜の胡麻和え:脾を補い乾燥を防ぎ、胃腸機能を強化
小豆のスープ:小豆を柔らかく煮て、陳皮や生姜を加え、心を養い湿気を除去、むくみを改善

主食|胚芽米 1合(180g)
脾を助けて血糖を安定させ、満腹感がありつつも重たくならない

昼食の考え方
昼は「心」の時間帯。心を養い脾の運化を助けるのがポイント。鮭の脂がなめらかでくどくなく、山芋で脾土を補強。豆類で暑さを和らげ湿気を取り、午後の活動に備える。

三、夕食

【鶏肉と山芋の昆布鍋+冷やしオクラ+黒ごま豆腐トマト】+小鉢の十六穀米

主菜|鶏肉と山芋の昆布鍋
材料:鶏もも肉200g、山芋100g、昆布、小松菜、椎茸、長ねぎ
作り方:昆布だしで鶏肉と山芋を煮、野菜を加えて塩で調味
効果:気を補い腎を養い、湿を取り肺を整え、陰を潤して乾燥を防ぐ
体質別アドバイス:陽虚には生姜を、陰虚で口の乾く人は蓮根や蓮の実を加えると良い

副菜・ご飯
冷やしオクラ:下茹でして乱切りにし、醤油と生姜で和える。清熱・腸の潤いに
黒ゴマ・トマト・豆腐:冷奴にトマトの角切りと黒ゴマをトッピング、心を養い胃を整える
十六穀米(70g):多種の穀物で気を整え腎を養う。夜は軽めにして脾を傷めない

夕食の考え方
夜は「腎」の時間で、温かく穏やかに心の陽気を収めることが大切。山芋と昆布の鍋で虚を補い湿を取り、さっぱりした副菜で火を沈めて心を整え、眠りやすくする。

四、一日の食養まとめ

朝食:陽気を高めて脾を目覚めさせ、湿を追い出し胃を活性化
昼食:心を養い脾を強め、体力と正気を高める
夕食:腎を潤し心の火を静め、眠りを促す

食材は季節に合ったもの(鮭・茄子・山芋など)を用い、日常的に手に入れやすいものを選んで、自然の気候に寄り添った心脾・肺腎のバランスを整える食生活こそが、最良の中医式食養生です。
 
 (翻訳編集 華山律)

白玉煕
文化面担当の編集者。中国の古典的な医療や漢方に深い見識があり、『黄帝内経』や『傷寒論』、『神農本草経』などの古文書を研究している。人体は小さな宇宙であるという中国古来の理論に基づき、漢方の奥深さをわかりやすく伝えている。