約3.6トンの消防車の下敷きになり、左足が押し潰されたSWAT部隊の軍曹ジャスティン・ダッジ(Justin Dodge)氏は、激しい痛みに襲われました。
「その瞬間、人生の進路が一変したと感じました」と彼はエポックタイムズに語っています。足のすべての骨が砕ける感覚の中で、彼はこう自分に言い聞かせました。「病院にたどり着ければ、必ず壮大なカムバックを果たしてみせる」
彼は病院に緊急搬送され、複数の手術を経て、最終的に膝下を切断しました。しかしダッジ氏は、人生を悲劇で終わらせませんでした。事故から1年を迎える4日前、彼はこれまで以上に強くなり、SWATの任務に完全復帰を果たしたのです。

この彼の悲劇とカムバックの間にあった瞬間こそが、真の「レジリエンス[1](回復力)」の本質を物語っています。人生の困難から逃げたり負けたりするのではなく、世界の重圧が文字通り襲いかかる中で、心と体に何が起きるのかということです。
[1] 困難な状況やストレスに直面した際に、そこから回復し、うまく適応していく力
一つの思考が結果を決める
レジリエンスは、根性、柔軟性、持続力として語られてきました。『International Journal of Environmental Research and Public Health』に掲載された論文では、それを重みにも動じない岩、圧力から跳ね返るバネ、繊細な見た目とは裏腹に過酷な環境で育つタンポポになぞらえています。
レジリエンスの出発点は、「私たちが世界をどう見るか」にあります。
レジリエンスの研究者で臨床心理学者のアンソニー・マンチーニ(Anthony Mancini)氏は、出来事そのものよりも、それをどう解釈するかが心理的影響を大きく左右すると語ります。彼がエポックタイムズに説明した実験では、参加者はオートバイ事故のような衝撃映像か、ビーバーの平穏な映像を視聴しました。衝撃映像を「怖い」と解釈した人は、その後数日にわたり侵入的な記憶に悩まされる可能性が高かったそうです。
「心理的影響は、その解釈にすべて起因します」とマンチーニ氏は述べました。作家アナイス・ニン(Anaïs Nin)の言葉を借りれば、「私たちは物事をあるがままに見るのではなく、自分自身として見る」のです。
困難に直面すると、被害者意識を強める人もいます。「なぜ自分ばかりが不運に見舞われるのか?」という考えに陥ることもあるでしょう。
「被害者の役割を担うと、自分の脆弱さを内面化し、それが強化されて、自己成就的な予言のようになってしまう可能性があります」とマンチーニ氏は指摘します。
一方、レジリエンスのある人は「リフレーム(再解釈)」を学びます。「悪いことは誰にでも起きる。たまたま自分にも起こった。でも、世界には良いこともある。それに目を向けよう」この考え方の転換は非常に強力で、経験に意味を見出し、前へ進む力を与えてくれます。
ダッジ氏は、「なぜ自分が?」という考えから「これからどうする?」という思考への転換が、まったく異なる人生をもたらしたと語りました。このような思考の変化は、多くのレジリエントな人々にも共通しています。
60件の研究を対象としたメタ分析では、回復力の高い人はうつや不安が少なく、人生に対する満足度や前向きな感情が高いことが明らかになりました。仕事においても、レジリエンスは職業的満足度や献身性を高め、燃え尽き症候群に対する防御因子として働きます。
さらに、レジリエンスは健康、さらには経済面にも影響します。ある研究では、65歳以上の成人で中〜高レベルの回復力を持つ人は、年間医療費が約30%低く、精神的な強さが身体的・経済的幸福にもつながることが示されました。

レジリエンスは心から始まるかもしれませんが、その効果は心臓、ホルモン、神経機能など、体のさまざまなレベルに現れます。
回復力エリートの脳と体
米国海軍特殊戦コマンドでは、研究者がネイビーシールやグリーンベレーといった、精神的・肉体的タフさの極致にある117人の特殊作戦部隊員を対象に追跡調査を行いました。
戦闘シミュレーションの代わりに行われたのは、シンプルなテスト:30秒間の息止め。これは、制御された測定可能な生理的ストレスの一形態です。息を止めることで血液中の二酸化炭素が増加し、脳の血管が拡張して血流が増加します。これは、脳が酸素を取り込もうとする自然な反応であり、脳がストレスをどう処理し、回復するかを観察するための最適な手段です。
興味深いのは、最も心理的に回復力のある兵士たちが、特に異なるストレス反応を示したわけではなかった点です。息止め中の脳血流は他の兵士と同様に急上昇しましたが、彼らは回復が非常に早かったのです。脅威が過ぎ去ると、脳が速やかに平常状態へと戻るようになっていたのです。
別の研究では、ネイビーシール候補生を対象に、海軍の基礎水中爆破/シールコース(通称「BUD/S」)の過酷な第一段階を追跡しました。このコースには、5日間でわずか4時間しか睡眠が取れない「地獄週間」などが含まれ、8週間にわたる極限の肉体的・精神的ストレスが課されます。脱落率は65〜80%で、世界でも最も厳しい選抜訓練の一つです。
研究者が訓練生の血液を分析したところ、最終的に訓練を完了した者は、他の候補生と同等かそれ以上のコルチゾール(ストレスホルモン)を分泌していましたが、彼らの体はその後のバランス回復を担うホルモン「DHEA」のレベルが顕著に高かったのです。
訓練に合格した者は、任務を完了できなかった者と比べてDHEAとコルチゾールの比率が32%も高く、運転に例えるならコルチゾールがアクセル、DHEAがブレーキに相当します。彼らはストレスへの適応と回復の両方を備えていたのです。

この研究は、「タフな人はストレスを感じない」という神話を覆しました。重要なのは「ストレスを感じないこと」ではなく、「いかに早く回復するか」です。ネイビーシール候補生の体は、強力な回復システムを自然に備えていたか、または訓練で発達させていたのです。
さらに別の研究では、マインドフルネス訓練を受けた海兵隊員が、ストレスの神経処理においてより効率的な脳の反応を示すことが確認されました。たとえば、右島皮質や前帯状皮質といったストレス処理や感情調節に関わる領域が、回復力の高い海兵隊員では抑制されており、過剰に反応しないことが分かっています。

マンチーニ氏は、「レジリエンスとは決して“壊れない”ことではない」と述べます。「それは、逆境の後でも機能を維持し、あるいはむしろポジティブな変化に繋がる力なのです」
回復システムの構築
では、持続的なレジリエンスをどうすれば開発できるのでしょうか?
ペンシルベニア大学の整形外科医であり、医学教授であり、レジリエンスに関する著書も持つジョン・D・ケリー博士は、レジリエンスはポジティブな視点から始まると語ります。「今ある良いものは何か? まだ持っているものは何か? 苦しみの中にも贈り物を見つけてください」
「被害者意識」から「主体性と感謝」へのシフトは、研究者が「調節的柔軟性」と呼ぶもので、高ストレス状況下での行動の適応力を意味します。これは、ストレスそのものを見直す勇気でもあります。
カリフォルニア大学アーバイン校の心理科学准教授アリソン・ザルタ氏は、「思考が柔軟な人ほど、レジリエンスが高まりやすい」と語っています。
具体的にレジリエンスを育てる方法として、研究では「最良の自己」技術が挙げられています。これは、すべてがうまくいった未来の自分をイメージすることで、楽観主義を育む訓練です。
さらに、「動機づけのセルフトーク」も有効です。「私はダメだ」といった自動的な否定思考に代えて、「私はきっと乗り越えられる」「必要なことをやろう」といった前向きな自己対話が、集中力や実行力を高めます。
ネイビーシールの信条にも、自信と方向性が明確に表れています。「私は決して諦めない。逆境に耐え、そこで花を咲かせる。倒されても、必ず立ち上がる」
ザルタ氏は、良質な睡眠、栄養、運動といった基本的な健康習慣も、レジリエンスの「織物」を強くする鍵だと指摘します。逆境がその織物を引き裂こうとするとき、これらの習慣が回復力の“編み目”を支えるのです。
また、ケリー氏は、「真に強い人こそ、助けを求められる」と語ります。「誰もが傷つき、壊れうる存在であるという事実を受け入れるとき、私たちは互いに必要な存在としてつながるのです」
イェール大学のクリスティーナ・チプリアーノ准教授も、「レジリエンスはコミュニティの中で育まれる」と述べています。「一人では成長できない。支え合い、前向きな関係の中でこそ、持続可能なスキルが築かれるのです」
片足を失ったダッジ氏も、階段を上るだけでも困難な日々の中で、家族や支援者とのつながりによって前進することができました。時に床に泣き崩れながらも、子どもたちの声援と共に「なぜ自分が?」ではなく、「どうすれば良くなる?」という問いを大切にしたのです。
予防医学としてのレジリエンス
マンチーニ氏がこれまでに行ったレジリエンスに関する研究、特に9.11や学校での銃撃事件後に行われた研究では、大きな逆境に直面した後でも60〜80%の人々が回復力のある反応を示すことが一貫して示されています。つまり、その力はすでに私たちの中に備わっているのです。問題は、危機が訪れる前に、それをいかに育てておくかという点です。
チプリアーノ氏は、「レジリエンスのスキルを学ぶために、逆境を経験する必要はありません。むしろ、困難に直面する前にそのスキルを身につけることこそが、成功に向けた最善の備えです」と述べています。
ダッジ氏は、レジリエンスを「予防医学」と捉え、同時に「魔法のような特効薬」を求める考え方を見直す必要があるとも語っています。
「何もかもが簡単に解決できるボタンだったらいいのに、と思う人も多いでしょう。でも、それが現実の人生ではないんです」と彼は語りました。
「ゾウを一口で食べることはできません」と彼は例えました。「小さな勝利を見つけて、それを一つひとつ積み重ねていくことで、数週間や数か月後に振り返ったとき、自分がどれだけ前に進んできたかに驚かされるはずです」
だからこそ、ダッジ氏は「挑戦が来るかどうか」が問題ではないと断言します。真の問いは、「今日、明日をより良くするために、今何をしているか」です。
いつか、人生の重圧があなたを押し潰そうとするその瞬間、真の回復力は「その場の力」ではなく、それまでにどれだけ準備してきたか、どれほど早く立ち直れる力を養ってきたか、そしてそこからどのように成長するかによって決まるのです。
悲劇とカムバック、失敗と成功。その間に広がる「間(ま)」の中で、レジリエンスは手に入れられるのです。
(翻訳編集 日比野真吾)
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