電子機器やソーシャルメディアの普及、仕事に関連するストレスの影響も重なり、睡眠障害は青少年と成人の両方においてますます一般的になっています。多くの研究により、睡眠障害が青少年の脳の発達やメンタルヘルスに悪影響を及ぼし、成人では自己免疫疾患、冠動脈疾患、脳卒中などの慢性疾患のリスクを高めることが示されています。
一般的に、13~18歳の青少年には1日あたり8~10時間の睡眠が推奨されており、成人は少なくとも7時間の睡眠を目指すべきとされています。しかし、米国国立老化評議会のデータによると、アメリカ人の3分の1以上が24時間以内に7時間未満しか睡眠を取れていないと報告されています。約30%の成人が不眠症の症状を経験し、10%は不眠症が日常生活に影響を与えていると報告しています。
十分で質の高い睡眠は、全体的な健康と幸福に欠かせません。睡眠障害は生活の質の低下とともに、糖尿病、心臓病、がんのリスク増加と関連していることが明らかになっています。
がんのリスク増加
10万人以上を対象とした22年間の追跡調査では、15年以上にわたってシフト勤務を行い、1晩に5時間以下の睡眠しか取らなかった女性は、大腸がんを発症するリスクが50%高いことが判明しました。一方で、1晩に9時間以上睡眠を取っていた男性は、7時間睡眠の男性と比べて、大腸がんのリスクが35%高いことも明らかになりました。
別の研究では、睡眠時間が短い高齢男性は、1晩に7~8時間睡眠を取っている人と比較して、胃がんのリスクが高いことが示されました。
体内の生物時計は、睡眠を含む数千の機能を調節しています。ジョンズ・ホプキンス医学のウェブサイトの記事によると、この生物時計が乱れると、乳がん、大腸がん、卵巣がん、前立腺がんのリスクが増加する可能性があるとされています。長期間の夜勤勤務、特に夜間の光への暴露は、メラトニンの分泌を抑え、がん細胞の増殖を促進する可能性があります。
自己免疫疾患のリスク増加
睡眠は、内分泌、代謝、免疫系に大きな影響を与えます。規則的な睡眠は免疫機能を維持するために不可欠ですが、睡眠不足は免疫系を乱し、過剰な炎症反応を引き起こす可能性があります。この乱れは、感染症のリスクや健康状態の悪化、さらには炎症に関連する慢性疾患のリスクを高める原因となります。
睡眠と免疫系の機能には双方向的な関係があります。自己免疫疾患の患者はしばしば睡眠障害を経験し、免疫療法が睡眠の質を改善することもあります。集団ベースのコホート研究では、睡眠障害のある被験者は、対照群と比較して、帯状疱疹(ヘルペスゾスター)を発症するリスクが23%高いことが示されました。
帯状疱疹の発症率は年齢とともに上昇し、65歳以上の睡眠障害のある被験者は、35歳未満の若年層と比べて、帯状疱疹のリスクが6.11倍高いという、最も高いリスク群に該当していました。
別の研究では、1晩に6時間未満の睡眠を取る人は、7時間以上睡眠を取る人と比べて、B型肝炎ワクチンに対する免疫応答が低下していることが示されています。
冠動脈疾患のリスク増加
2003年に実施された前向き研究では、45~65歳の女性71,617人を対象に、10年間の追跡調査が行われました。いびき、BMI、喫煙などの潜在的な交絡因子を調整した結果、1晩に5時間以下、6時間、7時間の睡眠を取っていた参加者は、8時間睡眠の対照群と比較して、それぞれ冠動脈疾患のリスクが45%、18%、9%高いことが示されました。
また、1晩に9時間以上の睡眠を取っていた参加者も、対照群と比べて冠動脈疾患のリスクが38%高いことがわかりました。
この研究は、短時間および長時間の睡眠のいずれもが、冠動脈疾患の独立したリスク因子であることを強調しています。
さらに2018年の前向きコホート研究では、40歳以上の成人60,586人を対象に調査が行われ、1晩に6時間未満の睡眠が冠動脈疾患のリスクを13%増加させることが明らかになりました。
睡眠の質に関しても、睡眠の質が悪いことが冠動脈疾患のリスクを21%高め、入眠困難や睡眠薬、その他の薬の使用はリスクを40%高めることが示されています。
糖尿病と脳卒中のリスク増加
最近の研究では、短い睡眠時間(1晩に5~6時間未満)および長い睡眠時間(1晩に8~9時間以上)の両方が、糖尿病や脳卒中のリスクを高めることが明らかになっています。
474,684人の参加者を対象とした15件の研究データを分析した体系的レビューでは、1晩に7~8時間の睡眠を取っている人と比較して、短時間または長時間睡眠の人は、冠動脈疾患や脳卒中のリスクが高いことが示されました。
また、約8年間にわたり23,620人を追跡した別の研究では、1晩に6時間未満の睡眠を取っている人は、7~8時間睡眠を取っている人と比較して、脳卒中を発症する可能性が2倍高いことがわかりました。
青少年のメンタルヘルスへの睡眠の影響
2023年の研究では、青少年の睡眠不足と抑うつ症状、自殺念慮および自殺行動との「有意な」関連が強調されました。結果によれば、1晩に8時間未満の睡眠しか取っていない青少年は、少なくとも8時間睡眠を取っている人と比べて、悲しみや絶望感を感じやすく、自殺を考えたり計画したりするリスクが高いことが示されています。
さらに、この研究では、1晩に8時間未満の睡眠を取っている青少年は、9時間以上の睡眠を取っている人と比べて、自殺を試みる可能性が約3倍高いことも明らかになりました。
研究者らは、睡眠が青少年のメンタルヘルスに関する修正可能なリスク因子であるとし、自殺予防においても睡眠を重要な要素として捉えるべきだと指摘しています。
脳発達への睡眠の影響
子どもは、健やかな発達のために十分な睡眠が必要です。5歳児には1晩に10~13時間、6~9歳の子どもには9~12時間の睡眠が推奨されています。
2022年の研究では、学校のある夜に十分な睡眠を取らない子どもは、脳の特定の領域が小さくなる可能性があることが示されました。これらの領域は、思考、学習、感情の理解などに関与しています。
研究の結果について、共同著者であるコロラド州立大学心理学部の助教授エミリー・マーズ(Emily Merz)はプレスリリースの中で、「睡眠不足は、子どもの脳のサイズや構造だけでなく、感情処理に関与する脳回路にも影響を与える可能性があります。これが、睡眠の減少がネガティブな感情への感受性を高める理由の説明につながるかもしれません」と述べています。
睡眠が発達にどのように影響を与えるかを調べた研究の多くは青少年に焦点を当てていますが、マーズ氏はこの研究について、「思春期前の子どもの睡眠の健康を支えることの重要性を示すものです」とも述べました。
安らかな睡眠を促進する食品
「Health 1+1」番組にて、アメリカを拠点とする中医学の実践者であり一般医でもあるジェシー・ファン(Jessie Huang)氏は、睡眠障害の一般的な原因を「喜び・怒り・悩み・憂鬱・悲しみ・恐怖・驚愕」といった強い、あるいはネガティブな感情に起因すると述べています。彼女の臨床経験によると、睡眠障害は主に心臓や脾臓の機能の不均衡と関連しているといいます。また、過剰な反芻、疲労、不安感なども睡眠不足の要因となり得ると付け加えています。
ファン氏は、睡眠の質を改善するために次の6つの食品を推奨しています:
- キビ:トリプトファンが豊富で、睡眠を調整する2つのホルモン、セロトニンとメラトニンの前駆体となる必須アミノ酸を含みます。
- 蓮の実:鎮静作用で知られており、睡眠を促進するとされるガンマアミノ酪酸(GABA)を含みます。
- 蓮根:カルシウム、リン、鉄などのミネラルや多様なビタミンを含み、中医学では冷却作用や血を養う効果、イライラを軽減する作用で評価されています。
- 竜眼(りゅうがん):滋養と鎮静効果で知られており、古代中国の医学書『神農本草経』では、心臓、肝臓、脾臓、肺、腎臓の五臓に利益をもたらし、穏やかで平和な精神状態を促進すると記されています。
- 百合の球根:鎮静効果と心を清らかにする作用があるとされています。ファン氏は、新鮮な百合の球根60~90gを蜂蜜10gと混ぜて蒸し、就寝前に摂取することを推奨しています。
- セルトゥース:鎮静と緩和の効果があり、より良い睡眠を促進するために皮付きのままスライスして調理し、スープにして就寝前に飲むことが勧められています。
本記事で紹介された生薬の一部は日本では馴染みがないかもしれませんが、通常は健康食品店やアジア系の食料品店で購入可能です。
(翻訳編集 日比野真吾)
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