脳波のパターンには、速すぎる、遅すぎる、あるいは同期していないといった問題がある。
脳の不調や脳波の乱れは、メンタルヘルスの問題の根本的な原因となる可能性があります。 最新の治療法である個別化反復経頭蓋磁気刺激法(PrTMS)をはじめとする神経調節技術は、脳の電気の活動を整えることで、精神的および認知的な健康を向上させることを期待されています。自宅で確実な簡単な方法も紹介します。
脳の乱れ
「もし膝のケガを治療するのなら、脳の不調や脳波の乱れを治療しない理由はないのでは?」
この問いを投げかけたのは、放射線腫瘍学者であり、個別化反復経頭蓋磁気刺激法(PrTMS)という治療法を開発したケビン・マーフィー医師です。彼はメンタルヘルスをテーマにしたカンファレンス「Beyond the Prescription Pad」で、この言葉を通じてメンタルヘルス治療への偏見に一石を投じました。
マーフィー医師は、中枢神経系の腫瘍を専門としており、行動上の問題を個人の失敗として見るのではなく、根本にある解剖学的な不均衡の症状として捉えるべきだと主張しています。また、脳波治療に対する偏見をなくし、行動の変化を生理学的な不均衡の結果として理解する必要があると述べています。脳は他の臓器と同じように注意を払い、適切に治療すべきだという考えです。
脳波のパターンには、速すぎる、遅すぎる、あるいは同期していないといった問題があり、これが私たちの気分や集中力に影響を及ぼす可能性があります。このような問題に対処するために、ニューロモデュレーション(神経調節)という技術が注目されています。ニューロモデュレーションとは、電気的または化学的な刺激を利用して神経系の機能を調整する技術のことです。
この技術や、家庭で簡単に行える方法は、メンタルヘルスの課題に対する新たな解決策を提供しています。同時に、脳がどのように機能し、回復するかについての理解を深めるきっかけとなっています。
不規則または乱れた脳波パターン
PrTMS(個別化反復経頭蓋磁気刺激法)のような神経調節技術は、不安、うつ病、アルツハイマー病などの症状に効果があるとされています。これらの症状は、脳波の周波数が正常な範囲を外れることで引き起こされることが多いとされています。例えば、脳波が速すぎると不安を感じやすくなり、遅すぎると記憶の問題やうつ病と関連することがあります。
マーフィー医師は、理想的な脳波の周波数を約10.7ヘルツと説明しています。この周波数は「地球波」とも呼ばれ、落ち着いたリラックスした状態と結びついている純粋な信号だといいます。
脳が高速で活動しすぎると、環境からの情報を過剰に受け取り、不安が生じる可能性があります。また、神経科学者であるカーリーン・バルト氏によると、過剰な高速脳波(ベータ波など)は交感神経を優位にし、体が常に「戦うか逃げるか」のストレス状態に陥ることがあります。この状態は、不安症や強迫性障害(OCD)などの精神的な症状と関連すると指摘されています。
一方、脳が遅すぎるペースで活動すると、脳が「スリープモード」に近い状態になり、うつ病や喜びを感じにくくなるといった症状が現れる可能性があります。バルト氏は、アルツハイマー病などの疾患では、記憶を司る海馬を含む脳の領域で、全体的な活動低下が見られることを説明しています。
興奮剤は低速な脳波を一時的に活性化させることができますが、高速脳波も加速させてしまい、不眠症などの副作用を引き起こす可能性があります。最終的に、高速脳波を落ち着かせるために鎮静剤が必要になる場合もあり、これをマーフィー医師は「薬物管理のヨーヨー現象」と表現しています。
脳波の周波数は、加齢とともに自然に低下します。マーフィー医師は、40歳以降、10年ごとに約0.4ヘルツずつ低下すると述べています。
「例えば、50歳の時点で10.6ヘルツだった人は、60歳になると約10.2ヘルツまで低下します。この変化が記憶力や認知機能の低下と関連している可能性があります」と指摘しています。
脳波活動は定量的脳波検査(QEEG)によって測定できます。この検査では、脳の電気活動を記録し、そのパターンを「標準的な基準値」と比較することで、不均衡を特定します。
例えば、前頭葉でアルファ波(リラックスした覚醒状態を示す脳波)の不均衡が見られる場合、それがうつ病の兆候である可能性があります。
脳波治療
「乱れた脳波を修復する」という考え方は、医学の分野では比較的新しいものですが、近年、徐々に注目を集めています。
その一例が**反復経頭蓋磁気刺激法(rTMS)**です。この治療法では、磁気パルスを使って脳の特定の領域を刺激し、手術などを行わずに非侵襲的に脳の電気活動を調整します。乱れた脳波をリセットする効果が期待されています。
さらに進化した治療法として、**個別化反復経頭蓋磁気刺激法(PrTMS)**があります。これは患者ごとの脳波の状態に合わせて治療を調整するもので、画一的な方法ではなく、個別化されたアプローチが特徴です。この技術により、医師は患者の脳波パターンを細かく調整し、より効果的な治療を提供できます。
「私は化学療法による認知障害(ケモブレイン)やCOVID後の脳機能障害(COVIDブレイン)、自閉症の患者に対し、脳波を調整する治療を行っています」と、マーフィー医師は The Epoch Times に語っています。「私たちは脳という臓器そのものを直接治療しているのです。他には誰もこのような治療を行っていません」
rTMSは、毎日のセッションで、脳を刺激する方法として利用されます。治療は30分程度の外来セッションで行われ、脳に微弱電流または穏やかな磁気刺激を与えます。
この刺激により「エントレインメント(同調現象)」と呼ばれる自然な反応が脳内で起こります。これは、脳の電気活動が外部のリズム(音や磁気パルスなど)に同期する現象です。この同調現象により、ニューロンが外部刺激と同じ周波数で発火、振動、または共鳴し始めます。この状態は、瞑想状態や集中状態に関連する脳波にニューロンを合わせる助けとなり、多くの患者がこれを「ゾーンに入った」または「フロー状態」と感じると報告しています。
「PrTMS技術を用いることで、医師は各患者の最適なフロー状態の周波数を見つけ、その信号を増幅することができます。このプロセスは、効果が高いため『強化版瞑想』とも呼ばれています」とマーフィー医師は述べています。
rTMSはアメリカ食品医薬品局(FDA)によって承認されており、現在、大うつ病性障害、強迫性障害(OCD)、片頭痛などの治療に使用されています。
家庭でできる脳波補修ツール
PrTMS(個別化反復経頭蓋磁気刺激法)は、医療機関で専門的な訓練を受けたプロフェッショナルの監督下で行われる治療法であり、自宅で使用するためのデバイスは市販されていません。しかし、マーフィー医師によると、PrTMSの効果を家庭で再現するためには、日々のマインドフルネスや瞑想を取り入れることが最も効果的だといいます。
神経科学者のバルト氏も、家庭で取り組める方法として心拍変動(HRV)トレーニングを推奨しています。HRVは自律神経系(心拍数や脳活動を制御する神経系)のバランスを改善し、脳波を整える助けになります。HRVが高い状態は、リラックスしてバランスの取れた体の状態を示し、アルファ波のような落ち着いた脳波と同期しやすくなるとされています。
「さまざまなアプリが利用可能で、必要なのは自分の肺だけです」とバルト氏は述べています。特定の呼吸法も神経系の調整やリラクゼーションを促すのに役立つと付け加えました。
もう一つの実践的なツールとして、バルト氏は、左右の耳に入る音の周波数に、例えば左耳に300Hz、右耳に310Hzの音を聞く場合、脳10Hzのビートで、仮想的な広がりを作るバイノーラルビートを提案しています。これは、不安の高い人に特に効果的だとされています。「アルファ波の周波数を聞くことで脳を落ち着かせることができます」と彼女は説明しています。バイノーラルビートは、気分、認知力、創造性、痛みの知覚、リラクゼーションに対する効果が研究されています。
さらに、バルト氏は、自宅で利用できるニューロフィードバックやバイオフィードバックなどの脳波(EEG)をモニタリングし、そのデータを元に自己調整を促すトレーニング法やその機器も複数存在することを付け加えています。
「脳トレーニングの効果は誰にでも当てはまります」と彼女は述べています。「現代の速いペースの生活は、多くの人を神経系の調整不全状態に追い込んでいます。これは高血圧や高コレステロールといった病気の原因になることもあります。診断を受けていなくても、このような実践を取り入れることで誰でも健康を改善することができます」
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