私たちは、脳の健康を保つために何をすべきかについて、かなりよく理解しています。定期的に運動すること、健康的な食事をとること、そして毎晩7〜8時間の睡眠を確保することです。そこに今、新たに加わった意外なアドバイスがあります。それは、「人を助けること」です。
2025年に『Social Science & Medicine』誌に掲載された研究によると、他者を助けることは認知機能を向上させ、認知機能の低下を遅らせる可能性があることが分かりました。ボランティア活動であれ、身近な人を手助けすることであれ、親切な行動は認知症に対する最良の対策の一つかもしれません。
シンプルな習慣
この研究では、51歳以上のアメリカ人3万人以上を20年以上にわたり追跡した「Health and Retirement Study(健康・退職調査)」のデータを使用し、2種類の援助活動と、その時間的な関わり方の変化が、高齢期の認知機能にどのような影響を与えるかを調査しました。認知機能は、記憶力、注意力、情報処理能力のテストによって測定されました。
繰り返し実施された調査の一環として、回答者は前年度に以下のいずれかの援助活動を行ったかどうかを報告しました。1つは、宗教団体、教育機関、医療関連団体、その他の慈善団体などでの正式なボランティア活動。もう1つは、友人、近所の人、同居していない親族を助けるといった非公式な支援活動です。
また、両方の援助活動について、年間の活動時間も「なし」「1〜99時間」「100〜199時間」「200時間以上」のいずれかで報告されました。
全体として、どちらの形であっても他者を助け始めることは、助ける側の認知機能を改善し、認知機能の低下を遅らせる効果がありました。一方で、援助をやめることは逆の結果につながりました。
活動時間の変化も重要でした。他者を助け始めた人では、活動時間を増やすことで認知機能が向上しました。
一方で、活動時間を減らしても、完全にやめない限り、基本的には悪影響は見られませんでした。ただし、正式なボランティア活動の時間を年間200時間以上から1〜99時間へと大幅に減らした場合は例外でした。このことは、段階的な変化のほうが、より良い認知機能の結果につながる可能性を示しています。
特に重要だったのは、継続することです。援助活動を続けた参加者には累積的な効果が見られ、「援助行動の種類や活動時間によって異なるものの、認知機能低下の速度がおよそ15〜20%減少しました」と、筆頭著者のセイ・ファン・ハン氏はエポックタイムズに語っています。
さらに、「多ければ多いほど良い」というわけではありませんでした。最大の認知機能向上が見られたのは、自分にとって無理のない活動時間を維持していた場合です。研究では、週に約2〜4時間程度という適度な援助活動が、一貫して大きな認知機能向上と関連していました。
注目すべきことに、研究者たちが人口統計学的要因、社会的背景、健康状態といった他の可能性を除外した後でも、この認知機能の傾向は維持されました。つまり、その恩恵は援助行動そのものに関連している可能性が高いことを示しています。
ハン氏は「現在進めている研究では、他者を助けることが、アルツハイマー病の遺伝的リスクに関連する認知機能低下の加速を軽減する可能性があるという証拠も見つかっています。つまり、高リスク群においても保護的なライフスタイル要因として機能する可能性があります」と述べています。
なぜ「助けること」が役立つのか
ボランティア活動であれ、非公式な支援であれ、他者を助けることは、意味のある「向社会的関与(社会や他者のためになる行動への積極的な関わり)」をもたらします。そのため、読書やパズルのような一人で行う脳トレ活動とは異なる特徴があります。
「他者を助けることは、単に認知的な刺激になるだけではありません。リアルタイムの人間関係、感情のやり取り、そして人生の目的意識も伴います。これらの要素が相互に作用し、認知機能の健康を支えているのです」とハン氏は話しています。
医学生のナヴィーダ・ファルハットさんも、日常生活の中で頻繁に他者を助けています。彼女はエポックタイムズに対し、愛する人たちとのつながりが、自分の気分を大きく改善し、学業成績や試験の点数向上にもつながったと語りました。彼女は勉強や仕事に追われることが多く、その結果として生じる孤独感が精神的な負担になっているといいます。しかし、親族を助けることで孤独感が減り、幸福感が増し、集中力も向上するそうです。
「私は甥っ子たちの子守りをするのが大好きです」とファルハットさんは話します。「彼らの笑顔や前向きなエネルギーは、私のストレスを和らげ、日々のプレッシャーから気をそらしてくれます。そして、頑張り続ける力を与えてくれるのです」
神経生物学的な観点から見ると、援助行動は複数の相互につながったシステムを活性化する可能性があります。たとえば、ストレス調整を担う「視床下部‐下垂体‐副腎系」、ストレスや危険に直面した際に身体を「闘争・逃走反応」に備えさせ、体内バランスを維持する交感神経系、さらに病気や炎症から身体を守る免疫系などです。これらの活性化は、認知機能だけでなく身体全体の健康も支えると考えられています。
過去の研究に基づき、ハン氏は、ボランティア活動が慢性的なストレスを軽減し、炎症を抑え、心臓の健康を支え、身体機能の低下を遅らせる可能性があることも明らかにしています。
持続可能な“助け合い”――どう始めるか
他者を助けたいと思っても、長時間労働、長い通勤時間、家庭での責任などによって、新しい活動を始める余裕がないと感じる人も少なくありません。
「まずは小さく始め、意味のある人との交流を伴い、なおかつ無理なく続けられる形の援助を選ぶことをおすすめします」とハン氏は語っています。
重要なのは、何時間活動するかという形式ではなく、長期的に継続して関わることだと彼は言います。そのため、忙しい人にとっては、毎週あるいは隔週で週末の午後を少し使うだけでも、十分に現実的で効果的な方法になり得ます。
「人を助けることはとてもおすすめします。ただし、自分自身の精神的・身体的・経済的な余裕の範囲内で行うことが大切です」とファルハットさんは話します。「自分が引き受けることにきちんと備え、燃え尽き症候群(極度の疲労や無気力状態)にならないようにしてください」
高齢者の場合、身体的な制限が他者支援の障害になることもあります。しかしハン氏によれば、助ける行為は必ずしも体力を必要とするものである必要はありません。
「メンター(助言や指導を行う支援者)活動や学習支援、誰かに声をかけて様子を確認することなども、十分に意義があり、社会的なつながりを感じられる活動です」とハン氏は述べています。
若者のメンターになることでも、地域の図書館を手伝うことでも、お気に入りの海岸を守るためにビーチクリーン活動に参加することでも、他者を助ける行為は単なる達成感以上のものをもたらします。それは、長期的にあなたの脳を守る助けになるかもしれません。
(翻訳編集 井田千景)
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