運動と高タンパク質、低グリセミック負荷の食事を組み合わせることが、体重を減らし、それを維持するための鍵かもしれません。
多くの人が「体重を減らすには食べる量を減らして、もっと運動するべきだ」と考えます。確かに、適度なカロリーディフィシット(摂取カロリーを消費カロリーより少なくすること)は体重減少に効果的です。しかし、極端にカロリーを減らすことが、逆に長期的な体重減少を妨げることになるのです。
カロリーを大幅に減らすと、体はその不足を喜んで受け入れるわけではなく、逆に反発します。飢餓感が増し、ホルモンが変動し、代謝はまるで非常ブレーキを引いたかのように低下します。その結果、短期的には効果があったように見えても、長期的には大きな代償を払うことになりかねません。
ミネソタ飢餓実験の教訓
1940年代に行われた「ミネソタ飢餓実験」は、極端なカロリー制限がもたらす深刻な影響を示しています。この実験では、参加者のカロリー摂取量が40%減らされ、平均で25%の体重減少が見られました。しかし、身体的変化だけでなく、精神的な影響も大きなものとなりました。
実験中、若い男性たちは食べ物に対して異常な執着を見せるようになり、食べることが彼らの頭の中を占めるようになりました。食事の話題や空想が増え、一部の人は新しい趣味としてレシピの収集や料理本を読むようになり、さらには料理人への転職を決意する人まで現れました。
リハビリの段階に入り、通常の食事に戻った際、多くの参加者は過食を始め、頭痛や消化不良などの問題を引き起こしました。中には過食症や嘔吐といった摂食障害の傾向を示す人もいました。この異常な食行動は、通常の食事に戻ってから5か月後も続いていたと言われています。
実験終了時には、彼らの基礎代謝率(BMR)は40%も低下し、筋肉量も同様に減少していました。
ミネソタ飢餓実験は、飢餓状態が人体に与える影響を知る上で貴重な知見を提供しましたが、その倫理性は今でも議論の対象となっています。現代では、このような実験が実施されることはまずないでしょう。
代謝の低下と体重リバウンドの関係
テキサス州のファミリーナースプラクティショナーであり、肥満医学の専門家であるアリソン・アーネット氏は、テレビ番組「The Biggest Loser」がこの現象の良い例だと語っています。
「番組の参加者たちは食事制限を厳しくされ、激しい運動を行いましたが、番組終了後、日常生活に戻ると急速に体重がリバウンドしました。これは、厳しい食事制限が彼らの代謝に大きな影響を与えた結果です」とアーネット氏は説明しています。
また、「短期間の断食は代謝の健康に良い影響を与える可能性がありますが、長期間にわたる栄養不足は、代謝系にダメージを与え、健康的な生活を維持する上で大きな問題を引き起こす可能性があります」と彼女は付け加えています。
体重減少後の代謝の変化
体重や脂肪が減少すると、体はエネルギー消費を抑えようとします。これにより、心拍数の低下、体温の減少、代謝の低下が起こり、体は生命維持に必要な機能を支えるために中性脂肪を保存しようとします。この反応は、進化的な防御機構であり、飢餓時に体を守るために設計されたものです。
「食べる量が少なければ、体はエネルギー消費を減らし、生殖機能などの必須ではない機能に使うエネルギーを節約します。これにより、生存に最も必要なプロセスにエネルギーが集中されます」と、アカデミー・オブ・ニュートリション・アンド・ダイエティクスのスポークスマンである栄養士のテレサ・ジェンティル氏は説明しています。
代謝が遅くなると、体重が再び増加する可能性が高くなります。さらに、一度体重がリバウンドしても、代謝速度は完全には回復しないことがよくあります。この現象は「代謝適応」として知られ、介入後も最大9年間続くことがあります。これに対して、カロリー制限を行わなかった人にはこの代謝適応は見られず、カロリー制限をしていない人の方が代謝状態が良いことがあるのです。
代謝ホルモンと体重リバウンドの関係
代謝ホルモンは、空腹感や満腹感に大きく影響を与え、カロリー制限後の体重リバウンドに関与しています。脂肪が減少すると、満腹感を伝えるホルモンであるレプチンのレベルも低下します。脂肪の蓄えが少なくなるほど、脳に満腹を伝える信号が減少し、満腹感が薄れることで空腹感が増し、エネルギー摂取量が増加します。
研究によると、食欲を刺激するホルモンは、カロリー制限後1年経っても影響を受け続けます。これには「空腹ホルモン」として知られるグレリン、レプチン、インスリン、ペプチドYYが含まれており、これらは満腹感やエネルギーバランスを調整する重要な役割を担っています。
カロリー制限後、体は再び食事が摂れるようになると、将来の飢餓に備えて脂肪の蓄積を優先する傾向があります。このため、カロリーを減らすことは短期的には体重減少に効果があるかもしれませんが、体重を維持するための体のメカニズムが無視されることが多く、長期的には効果が限定されることがあります。
多くの人にとって、過剰なカロリー摂取が体重増加の一因となりますが、単にカロリーを減らすことが必ずしも最適な解決策とは限りません。直感に反するように思えるかもしれませんが、持続可能で健康的な体重減少を達成するためには、適切なカロリー摂取と栄養素が必要です。カロリーを過度に減らすのではなく、栄養バランスを整えた食事と適切な運動を組み合わせることで、長期的な健康と体重管理が可能になります。
飢餓が引き起こすストレスと認知機能の低下
栄養不足は、体にストレス反応を引き起こし、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌が増加します。コルチゾールは内臓脂肪の蓄積を促進し、体重減少をさらに難しくする原因となります。また、ストレスは高カロリーで即効性のあるエネルギー源への渇望を増加させるため、減量を達成することがより困難になります。
長期間にわたるカロリー制限は、気分にも悪影響を及ぼし、うつ病や不安のリスクを高める可能性があります。脳に供給されるグルコースが減少することで、認知機能が低下することもあります。栄養士のメアリー・カリスティン氏は、「エポックタイムズ」に対し、「脳が必要とするグルコースが不足すると、認知機能が低下します」と説明しています。
同様に、テレサ・ジェンティル氏も「カロリー制限によってビタミンB群、オメガ3脂肪酸、鉄分、その他の脳をサポートする栄養素の摂取が不十分になると、認知機能が低下する可能性があります。これらの栄養素の欠乏は、集中力の低下や記憶力の低下、さらにはうつ病のような気分障害と関連しています」と述べています。
栄養不足の兆候
ジェンティル氏は、以下のような兆候が見られる場合、栄養が不足している可能性があると指摘しています。
・絶え間ない疲労感やエネルギー不足
・絶え間ない空腹感と食べ物への執着
・睡眠の質の悪化
・筋力の低下
・寒さに敏感になる
・生理周期の乱れ
・爪や髪の乾燥や脆さ
・気分の変動
・突然の怪我
体重リバウンドを防ぐ方法
体重減少後にリバウンドを防ぐためには、身体活動を増やすか、維持することが最も効果的な戦略のひとつです。定期的な運動は脂肪燃焼を促進し、タンパク質バランスを改善することで、代謝の適応を抑えることができます。
『Diabetes Spectrum』に掲載された記事によると、ライフスタイルの改善に関する効果的なアドバイスとしては、30〜60分ごとに椅子から立ち上がって2分間歩くこと、運動の専門家と連携して個別のプログラムを作成すること、運動アプリを活用すること、そして地域の運動プログラムに参加することが挙げられます。
「有酸素運動、レジスタンス運動、柔軟性トレーニング、そして座りっぱなしの時間を減らすことは、すべての健康において多くの利益をもたらします」と著者たちは述べています。
もう一つの実践的なアプローチは、単にカロリーを減らすのではなく、摂取する食品の種類に注目することです。例えば、マクロ栄養素のバランスや血糖値への影響(グリセミック負荷)を考慮することが有効です。ブルーベリーは、マンゴーやバナナよりもグリセミック負荷が低い食品の一例です。グリセミック指数(GI)は食品が血糖値に与える影響を0から100のスケールで評価しますが、グリセミック負荷は1回の摂取量あたりの炭水化物量も考慮し、より正確な血糖への影響を見積もるツールです。
高タンパク質食と低グリセミック負荷食のメリット
高タンパク質食は満腹感を高め、タンパク質の代謝には炭水化物や脂肪よりも多くのエネルギーが必要です。したがって、タンパク質の摂取を増やすことで、代謝を低下させることなく、長期的な体重減少を支援する可能性があります。研究によると、高タンパク質食は、ダイエット後の体重リバウンドを抑制する効果があることが示されています。同様に、低グリセミック負荷食も同様の効果をもたらすとされています。
「減量の目標は、体が飢餓モードに入らない程度に、わずかなカロリー不足を作り出すことです」とジェンティル氏はアドバイスしています。
彼女はさらに、「栄養価の高い食品を優先し、筋肉量を維持するために筋力トレーニングを取り入れることが大切です」と強調しています。
(翻訳編集 華山律)
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。