全身性エリテマトーデス(SLE)患者において、体内で生じる重要な化学誘引物質の不均衡によってより多くの病原性細胞が生成されることが、7月10日にネイチャー誌に発表された研究で明らかになりました。
この化学的不均衡を修正できれば、SLEを治療できる可能性があると、研究者らは述べています。
現状のSLE治療は、症状を標的とするか、免疫を抑えるものがほとんどで、副作用を招きかねません。いっぽうで、研究者らによると、特定の化学的不均衡を標的とすることで、免疫を抑えることなくSLEをより効果的に治療できるといいます。
SLEは、自分の免疫が自分の組織や臓器(関節、皮膚、腎臓、血液細胞、脳、心臓、肺など)を攻撃することで全身に炎症を起こす「自己免疫疾患」の1つです。根治させる治療法は今のところありません。
意外な「分子スイッチ」
研究者が同定した化学物質は、芳香族炭化水素受容体(AHR)です。
AHRは、SLE患者の免疫細胞の不均衡に関与する重要なタンパク質です。すべての細胞に存在し、環境汚染物質、細菌、代謝物に対する体の反応を調節しますが、常に活性化しているわけではありません。
研究者は、SLE患者のAHR活性が低下していることを発見しました。この低下により、濾胞性ヘルパーT細胞と末梢性ヘルパーT細胞が増加し、炎症と自己免疫を引き起こします。
いっぽう、AHR活性が増加すると、これらのT細胞は創傷治癒とバリア保護を促進するT細胞に再プログラムされます。
ノースウェスタン大学ファインバーグ医学部の皮膚科准教授で、この研究の主任著者であるチェ・ジェヒョク博士は、AHRは免疫細胞の運命を決定する「分子スイッチ」のようなものだとエポックタイムズに語りました。
研究者らは、異常なT細胞のAHRを標的とする治療薬を開発することで、SLEを治せるかもしれないと述べています。
これまでAHRと自己免疫との関連性が知られていなかっただけに、研究著者らは、AHRが自己免疫の治療に不可欠であると発見したことに驚きを隠せませんでした。
研究の上席著者でハーバード大学医学部助教授のディーパック・ラオ博士は、自己免疫反応を引き起こすT細胞と正反対のT細胞が創傷治癒に関与することを発見したのは、当初は驚くべきことであったと付け加えました。
また、ラオ博士は、「この2つの機能を持つ2つのT細胞集団に、つながりも関連性もないことは明らかです」と述べ、創傷治癒に関与するT細胞の数が増えれば自己免疫反応を引き起こすT細胞の数が減り、その逆もまた然りであることは予測できなかったと付け加えました。
T細胞が自己免疫を促進
濾胞性ヘルパーT細胞と末梢性ヘルパーT細胞がSLEの主な原因であることは以前から知られている、とラオ博士はエポックタイムズに語りました。
SLE患者は自己抗体、つまり自身の体の組織を攻撃する抗体を生成します。B細胞は、自己免疫反応を引き起こす異常なT細胞の制御下でこれらの自己抗体を生成します。
したがって、これらのT細胞を創傷治癒に関与するT細胞に変換することで、自己抗体の生成が減り、自己免疫が減少するのです。
チェ博士は、細胞培養において、異常なT細胞にAHRを加えることで創傷を治癒する細胞に変化することを示す研究結果を強調しました。これらの再プログラムされた細胞は、もはやB細胞による自己抗体の作成を助けることはできません。
ラオ博士は、これらの異常なT細胞は関節リウマチなどの他の自己免疫疾患にも存在し、これらの細胞に対する薬剤標的がそのような疾患にも当てはまるかどうかという疑問を提起していると付け加えました。
免疫抑制なしの治療
この研究では、19人のSLE患者からサンプルを採取し、彼らの免疫細胞を19人の健康な人の免疫細胞と比較しました。
サンプルサイズが小さかったことに関して、著者らはエポックタイムズに対し、遺伝子研究によって裏付けられているため、この発見はあらゆる患者に当てはまると考えていると述べました。
チェ博士は、この発見はアストラゼネカのTULIP臨床試験でも検証されたと説明しました。これらの試験では、AHR経路と相互作用する薬剤であるアニフロルマブがテストされ、SLEの症状をうまく抑制することが判明しました。
現在のSLE治療薬は、B細胞とT細胞の活動を減らすことで症状を解消する、あるいは免疫抑制効果を引き出すために処方されています。
しかし、AHRで異常なT細胞をはっきりと狙うことで、患者は全体的な免疫力を損なうことなく病気を治癒できる可能性があります。
さらに、創傷およびバリア修復に関与する細胞の増加は、SLE患者の胃腸の問題を軽減するのに役立つ可能性があります。
「SLE患者の特に腸におけるバリアの機能または完全性の異常を示唆する研究が数多くあります」とラオ博士は述べています。「ですから、利点があると考えられます」
現在、チェ博士とラオ博士の研究チームは、異常なT細胞のみを選択的に標的とする治療薬の特定に取り組んでいます。
AHRはすべての細胞に存在し、AHRを標的とした治療薬を大量に投与することで全身に副作用を引き起こす可能性があるため、著者らはこれを回避しようとしています。
現在、乾癬の治療に承認されているクリーム剤であるタピナロフなど、AHRを活性化する薬剤がすでに市場に出回っています。
SLEの主な環境要因?
なぜAHRがSLEの進行に関与しているのかは、研究者にも分かりません。なぜSLEになる人とならない人がいるのか、その理由も今のところ不明ですが、遺伝的要因と毒素や感染症への環境的曝露の組み合わせによるものではないかと研究者らは考えています。
AHRが環境要因に反応する役割を考えると、彼らの研究結果は、主要な環境要因がSLEに寄与していることを示唆している可能性があるとチェ博士は述べました。
「おそらく、通常は外部や環境からの情報を統合するAHRが、SLE患者ではうまく機能しなくなっているのかもしれません。患者は生活習慣を変えるだけでループスを治せるかもしれません。さらなる研究が必要だと思いますが、今考えつく興味深いアイデアです」とチェ博士は語りました。
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